クザン大将のところでお世話になってから3ヶ月。……長い3ヶ月だった。……本当に。
「お疲れ様。ありがとうね、助かったよ」
「大変勉強になりました」
「俺は別にこれからも『よろしく』したっていい」
「……いえ、結構です」
ふふふっと楽しそうに笑みを零すクザンさんとは正反対に、その場から逃げ出すように部屋を後にした。
3ヶ月の間、クザンさんのところでこなしたのは、クザンさんがなりきりっていた豪商の男の恋人役だ。えぇそりゃあもう大変で大変で。なんてったって、豪商ですから……! 私以外にも囲っている女性はいるわけですよ。その女性たちに取り入って情報を聞き出して欲しいと。
たった3ヶ月。知り合って間もない彼女たちから聞けることなんて多くはない。逐一報告を上げるくらいで、その情報が一体何の役に立つのかも不明。こんなのでいいのだろうか……? と疑問に思いつつ、数週間が過ぎたところで、豪商役をしているクザンさんに呼び出されて恋人として振舞うことがどんなに大変だったか……!
あぁ、もう忘れたい……! 記憶の奥底から消してしまいたい……!
でも……、知らない世界を知ることができた点においては有難く思っている。諜報という仕事が如何に大切で、大変か、今回はそれを身を以て知ることができた。クザンさんの指示一つで人が簡単に死んだ。敵も、味方も。あの人はそれを背負い、平然と前を見据えて立っていた。その腹の内を少しでも知ることができたところは私にとってとても有意義な時間だったと思う。……そこだけは、ね。
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「……失礼します」
厳かな空気が漂う執務室。サカズキ大将と同じく煙の漂う室内にひと際目立つ黄色のスーツ。サングラスが僅かに揺れて、キィ――と音がした。
「いらっしゃ~い」
間延びした挨拶に敬礼を持って答えた。
「うんうん。いいねェ~若いねぇ~」
黄猿こと――ボルサリーノ大将が深く腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がる。
「え~と。なまえちゃん、だっけ~?」
「はい! なまえ曹長です」
「あ、そうそう。昇級したんだってね。おめでとう。あぁ、あと、楽にしていいから」
「光栄です」
そう。クザンさんのところで揉まれた3ヶ月のおかげで、私はいつの間にか昇級していた。自分が何をしたのかは分からないけれど、それなりに功績を上げたらしい。……私の功績というよりも、それはクザン大将の功績の気がしてならなかったけれど、「よくやった!」と喜ぶ――父、ガープさんの姿を目にしたらそんなことは言えなかった。もちろん、職務内容なんか持っての他だ。……あぁどうか、ここではまともな職務につけますように。
「う~~ん、と。では、早速だけど、仕事に取り掛かってもらってもいいか~い?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、研究所の方に行くからついてきて」
「はい」
……研究所? あぁ、確か……ボルサリーノ大将はそっちの職務も担当しているんだっけ。博士に会いに行くのかな。じゃあ、職務は研究所の護衛とか……?
なんにしろ、研究所に入れるなんて……! どんなところだろうか。わくわくする!
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「……えぇっと、すみません。よくお話が……理解できなかったのですが」
「あれぇ? そんなに難しいことじゃないよぉ。なまえちゃんの体を貸して欲しいって、博士が言っていてね」
「……えぇ」
まさか、ここでもそういう系のお仕事ですか……? 頭を抱える。いくら上司の命令とは言え、『体を貸して』だなんて、そんな生命の危機に関わりそうなこと、ほいほいと頷けはしない。まずは、目的を聞くべき……?
「体を貸す側としての権利として、研究の目的の開示を要求します」
「……う~ん。まぁ、妥当だねェ。ちょっと待ってよ」
そう言うと、ボルサリーノ大将が部屋の奥に姿を消した。私の隣にいるのは、戦桃丸というボルサリーノ大将の部下で、物凄い目の敵にされている感じで、睨みつけられている。
「おじきの頼みなんだから頷けばいい」とか隣で言っていらっしゃいますが、つい数ヶ月前に、迂闊に頷いた経験があるものだったので、そういうわけにはいかないのだった。もう騙されませんから。
数分後、「おまたせ~」と返ってきたボルサリーノ大将。「はい、これ」と渡された分厚い書類の束。一番上の主題のところに書かれていたのは『D一族に関する生物学的見解』と書かれていた。サァ――と血の気が引いていくのが自分でもよく分かった。
「そういうわけだから~」
有無を言わさずにがっしりと肩を押さえられて、何なら叫び声も上げられない様に、猿轡もかまされて、私は研究所の中へ連れていかれた。
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――誰か助けて!

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