第8話 わらべ歌の秘密

数ヶ月後――

「それでね、お願いがあるんだけど」
「…………てめぇはいつから俺に命令する立場になったんだァ?」
「え? いやいやいや、違うって。命令じゃなくて、お願いって言ってるでしょ?」

チッ――あからさまな舌打ちをしたクロコダイルが、新しい葉巻に手を伸ばす。

「ごめん、葉巻無理だから」

「はぁ? なんで俺がてめェの話を聞かなくちゃならねぇんだよ」とぶつぶつ言いながらも、彼は葉巻に火をつけるのを止めてそのまま口に咥えた。そこは別に元に戻せばよくない? と思ったけど、言うのはやめた。あんまりやいやい言うと、この人はプッツン来て手が付けられなくなるからだ。それはここ数ヶ月で学んだことだった。

ソファに座って不機嫌そうに踏ん反り返るクロコダイルの向かいにあるソファに、私は座っている。私のすぐ隣にはミホークが座っていた。こちらは大変退屈そうである。

そして、ミホークとクロコダイルの間にはバギーが座っている。

「みょうじ。前回、この男がハデに暴れやがったおかげで直すのが大変だったんだからなァ!!! そこ、忘れんじゃねぇぞ!」
「はいはい、ごめんごめん」
「っ、適当かァ! てめぇ、舐めてんのかァ!!」
「舐めてないっていつも言ってるでしょ? バギーにはほんと感謝してる。こんな身元もはっきりしない私を拾って置いてくれてるでしょう? バギーはほんっと男前だなぁ!」
「……ん、まぁ、分かりゃァ~いいんだ、分かりゃァな」

この男は本当に扱いやすいので、感謝している。

「で、本題はなんだ、みょうじ」

つまらなさそうに、ミホークが言う。この男を見ていると、強過ぎるというのも大変なんだとしみじみ思う。世界一の大剣豪になったら張り合う相手を探すのに難儀するから、暇を潰せる趣味を見つけないといけなくなるという、なんともまぁ……変なお話ですこと。

「ん、えっとね……。私、今、無一文じゃない?」
「「「…………」」」

三人が三人、「だからどうした」という顔で私を見てくる。

「生活が不便なのか。足りないものがあるなら……」
「違うの、ホーク。私が言いたいのは、ちゃんと自分でお金を稼いで、自分で生活したいってこと」

「つまり、金が欲しいから仕事を紹介しろ、と。そういうわけか?」
「さすがクロコダイル。物わかりのよいことで」

力強く頷いて返す。

「だったら最初はなからそう言えばいいだろう。馬鹿か、てめぇは」
「毎度毎度、人のことを馬鹿呼ばわりする男ほど、馬鹿ではないと思っているよ?」

バチバチバチ――

殺気が打ち放たれて全身を押さえ込まれた。それを隣のミホークが威圧する。私はまだそういう圧を出すのができないので、早く習得したいところだ。

「……ありがとう、ホーク。流石は世界一の剣豪ね。力任せで押し通ろうとするどっかの鰐野郎とは違って紳士的だわ」
「…………」

嫌味の一つや二つ、……いや、拳の一つや二つが飛んでくることを覚悟していたが、思いのほか、クロコダイルは大人しかった。いい加減、揶揄われていることに気付いたのかも……と視線を向けたら、物凄い形相で睨まれたので、素知らぬ顔をして話題を変えることにする。これ以上は限界ぎりぎりのラインを超えそうなのでやめておこう。

ハァ――長いため息を吐き出したバギーに言う。

「今は仮で置いてもらっている身でしょう? いつまでもここに居候させてもらうわけにもいかないし。できれば、自立の練習をしたいのだけど、……だめかな?」

まぁ正直、私は大の大人だし。そこそこ強いし、ここの連中の同意を取ることなく港を出てもよい。……けど、せっかく出来た縁だから大切にしたい。この人たちは、私が転生してからはじめて出会い、寝食を共にした仲間なのだ。

「……勝手にすりゃァいいだろ。子供じゃあるまいに」

――と思っていたのは私だけだったのかも? クロコダイルのため息交じりの発言に、内心は戸惑った。

「ここはクロスギルド。入るも抜けるも自由だ。てめェがそう言うのなら、ハデに出ていけばいい」

……確かに、そうだよね。わざわざ二人に聞かなくとも、私はミホークにだけ確認を取ればよかった、のかも?

「そうか。では、俺もそうさせてもらおう」

「「「……………………ん?」」」

待って、この人なんっつった?

「おい、鷹の目ェ、俺の耳が悪くなったかと思ったじゃねぇか。冗談はやめろ。ただでさえそこのクソアマのせいで腹が立ってぇんだ。わざわざ誘ってやった俺の顔に泥を塗るってか……?」
「必要な時に呼べばいいだろう。俺がここにいる必要は無い」

いやいやいや。何言ってんの、このバカ剣士。

「はぁ……ハデにめんどくせぇなァ、おめぇら」

……ほんとごめん、バギー。苦労性なところにさらに追い打ちかけて。

「えぇっとね……ホーク。貴方は、クロスギルドの顔のひとつなの。分かる? クロスの一つが貴方なの。貴方が抜けたら……」
「抜けるとは言っていない。用があるなら呼べ」
「…………王下七武海の集会をほぼ欠席していた貴方のことを信用するバカがどこにいると?」

ふん、ここにいるだろう――そう言いたげに、腕を組んで顎をしゃくり上げたミホーク。……と、頭を抱えるバギーと私。……に、いらいらが最高潮になったクロコダイル。

「あ”ぁ”!? もうめんどくせぇなァ!!!」

ごめん。言い出しっぺの私も面倒になってきたよ。でもここで「やっぱやめる」なんて言ったら、辺り一帯が砂になりそうだから黙っておく。

「え――っと……」

三人の顔が一斉にこちらに向いた。

あぁ、まずい。何言おうとしたのか、飛んでしまった。それもこれも、この連中の圧が強いからだ。話し合いくらい落ち着いてやれないのだろうか……。

「…………クソみてぇなこと言ったら、刻んでバナナ鰐の餌にしてやる」
「その前に、お前の顔面にもうひとつ横線を引いてやろう」

ミホークが、夜に手をかけると、サアァァ――砂が小さな音を立てながら巻き上がりだした。

「ちょっと、待って! まだ何も言ってないでしょ! なんで海賊ってどいつもこいつも……!」
「あ”ぁ”!? 俺をそこら辺にいるやつと一緒にすんな!」
「まったくだ。このような男と一緒にされてはたまったもんじゃ……」

二人の言い合いが再び始まった。あぁ……もう、呆れて言葉が出てこないんだけど。バギーの方に目を向けたら彼の眼はどこか遠くを見ていた。いやいやいや、貴方がリーダー役なんだから、まとめてよ!

「ちょっとバギー!」

小声で話しかける。

「……あ”?」
「これどうにかしてよ」
「どうにかって……俺が奴らを止められると本気で思ってんのかァ? ハデにめでたいやつだなァ。どう考えても、てめぇのせいなんだから、てめぇが自分でどうにかしろ。俺は関係ねぇからな!」
「う…………」

リーダーとしては最低最悪だが、言っていることは間違っちゃいないです……はい。

こうなったら――

「じゃ、じゃあ! クロコダイルのところの商船で働かしてよ。手が足りないんでしょ? 私、女だけど、力はあるし」
「はぁ? てめぇなんぞ、戦力にもならねぇよ。ただのお荷物になるだけに決まってる」
「えぇ……そんなことないと思うけど。こう見えて、男でいたときは一人で旅してたんだよ? 天気は読めるし、あと海図も描ける。航海技術はあるから、航海士として船に乗せてよ」

「…………みょうじ。お前、抜けているところは相変わらずだな」

ミホークが、長息を吐き出した後、ポカンと口を開けている二人を見た。あれ? そんなに変なこと言った……っけ?

「へぇ……面白そうじゃねぇかァ? 詳しく話してもらおうか、みょうじ」
「へ?」
「俺様もハデに気になるじゃねぇかァ!」
「気に……なる?」

「よし、じゃァ『男でいたとき』について、話せ」

「……あ゛」

つい、ミホークの方に顔が向いた。

「話が済んだら呼んでくれ。それまで昼寝でもしていよう」

「ちょ、ホーク!」
「知らん。今のは自業自得だ。みょうじは少し痛い目をみた方がいい。お前は口が軽すぎる」
「っ、やーだー!!!!」

 

クハハハハハッ――

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