さすがにもうその流れは覚えた。

2代目コラソンの着任後、初めての紛争地帯への介入。場所は白い町 フレバンス――かつて繁栄を極めていたはずのその町にもう以前のような面影はない。ある病のせいでその一国が隣接する国家と紛争を繰り広げている。長い間続いていた睨み合いも、今では武器を使用した制裁へと変わっており、フレバンスを除く国々は鎮圧を目的とした武力行使を行っていた。そこで、我々ファミリーの出番というわけだ。

戦争には必ず武器が必要になる。裏のマーケットで多くの武器を取り扱っている我々ファミリーからすれば、その戦争はまさに都合の良いマーケットであるとドフィはにらんでいた。実際交渉できるかどうか判断するために北の海へと向かう。

その航海中、船の中で聞いたのは国1つが滅んでいく過程だった。ラジオで流れる放送は死の国フレバンスを一刻も早く処分しろという、あまりにも一方的なものばかりだった。

「ドフィ、私たち行っても大丈夫なの?」
「別に国の中へ入るわけじゃねェんだァ。俺たちはこのイカれた野郎どもに武器を与えるだけ。別に先だって導こうなんて馬鹿げたことは、これっぽっちも考えてねェよ」

「…………ならいいんだけど。でもまだこの病がどういったものか知らないんでしょ? 空気感染するならあまり近づかない方が、」
「…………」

珍しく私の意見を考慮してくれているのか、眉間に皺を寄せたドフィが口を噤み、ジッと考え込んでいた。

「…………なまえの勘はよく当たる。大丈夫とは思うが、念のため、対策しておくか」
「うん、悪いけど。そうしてくれると嬉しい」

「あぁ、そこまで言うなら分かった。おい、コラソン。進路を変える、ちょっと来い」

ドフィと私が話している後ろ、2人掛けのソファに仰向けに寝転がって、長い前髪で顔をすっぽりと覆い隠して、起きているのか、寝ているのか、見た目では分からない。そんな様子のコラソンをドフィが呼んだ。ギシリとソファが軋む音がして、起きていたんだと思った。

「なまえも」
「ん、はい」

ローテーブルの上に貼り付けられていた海図の側に寄るように促されて足を運ぶ。ドフィは船内にある連絡用の配管の管、その中の一つの蓋を開けた。

「俺だ。今どの辺だ?」
「え、何々? 若様??? んっとね~。え~と。今は緯度○°、経度○°のところでーす」

帰ってきたのは予想していた繰舵手の男の声ではなくて、場違いなくらい明るい女の子の声だった、

「え、なんでそこにベビー5がいるの?」
「こらッ!! ほら、ベビー5、少し退いてなさ「え~~やだ~~!!」」

管の向こうからはガッシャン、ドッカ――ンとヒドい音が聞こえてくる。あーまたやってんなと思いながら数十秒程待てばはぁはぁと息を切らした操舵手が戻ってきた。

「あー……すいやせん、若!! ……位置でしたよね。え、と。そうですね。ベビー5が言った位置であってます。……それが何か?」
「あぁ、……進路を変える。少し待っていろ」

はい、分かりましたーと暢気な返事を背景に、ドフィがもう少し側に寄れ、とコラソンに言った。コラソンはのっそりと気だるそうに巨体を動かして、ローテーブルの側で腰を折って地図を覗き込んだ。それを真似するように私も反対側から地図を覗き込む。ドフィの横にコラソンが来ただけでこの圧迫感……、この兄弟……とにかくでかい。

「風向きは今どっちだ?」
「はい、若! 今は南西の風で追い風です」

「なまえ、天候はどうだ?」
「…………うん。しばらくは大丈夫そう。今夜は晴れるだろうから、天候の心配はないよ。風もそんなに強くはならないと思う」

ふむ、と操舵手と航海士の意見を聞いたドフィが自身の顎を触って思案し出す。地図の上に置いてあった物差しとペンを取り、自ら地図の上に勢いよく線を引いた。そして、また思案する。地図を覗き込みながら、ドフィの案に問題はないか考えつつ、くるりくるりとドフィの指の上を回るペンに気が向いた。細長い指で器用に回す姿に、大きな図体している癖にすごく器用なんだよなドフィは、と見とれた。

同じく地図を覗き込んでいたコラソンが手を伸ばして地図を指さし、スィ――と線を引いて見せる。

「あぁ、俺もそう思う」

ドフィがそれに対して頷き、またシャッ、シャッ、と線を引いた。

「なまえは?」
「ん、……あぁ、うん。問題ないよ」

逸れていた気を慌てて戻すと、本当か? とドフィに睨まれて肩を竦める。呆れたように息を吐き出したドフィに苦笑いを返して、一度頷いた。ようやくドフィが納得した様子。

「……聞いているか。進路の指示を言う」
「はい、若! いつでもどうぞ~」

操舵手とのやり取りを聞きながら、先ほど座っていた位置に戻っていく。コラソンもソファに寝そべってまた寝てるのか起きているのか分からない体勢になっていた。

指示を出し終わった後、しばらくの間静かに地図とにらめっこを続けるドフィを静かに待った。今後の流れを整理しているんだろうなぁ。ドフィが何を考えているのかすごく気になるけど、今話しかけでもしたら気が散るからあっちへいってろって言われかねない。やめておこう。それで部屋から放りだされるのなんてごめんだ。そうなったら、その後ひとりで拗ねて、みんなに「まぁた拗ねてんのかァ?」ってからかわれる……さすがにもうその流れは覚えた。

「……ずいぶん静かじゃねぇか」
「……何? だって何か質問でもしようものなら、目障りだ、とか言って放り出すでしょ?」

「……フッフッフッ、あァ…………だなァ。ようやくおまえにも学習能力ってもんが備わったようだな」
「ちょっと!」

「あァ……?」
「……なんでもない。静かにしてまーす」

「フッ――随分お利口になったもんだァ」

上機嫌で笑うドフィを見ながら、ドフィが思っているほどもう、私は子供じゃないんだけど。でもきっとそんなことを言ったところでドフィは認めてくれないだから、ほんとやっかいな人だと思う。

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