one
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「えーと、えーと、えーと……」
「あ”ぁ?」
不機嫌な声を出す目の前の人は今にも私に殴りかかってきそうで、どうしたものかと考える。こんな状況にもかかわらず、私は驚くほど冷静だった。いや、だって……。まさかお誘いを断ったぐらいでこんなにキレられるなんて思わないでしょう? 別に前々から約束していてドタキャンしたわけでもないし……。てか、そもそも、この人誰?
う~ん……
唸り声を上げながら立ち往生する私は自分の大学のキャンパスにいる。今日の授業はすべて終わったのでさっさと帰ろうと思い、校門へ向かっていた時だった。急に声をかけられる。俺とデートしろ。そんな一方的な話に、え、無理ですと素で返した。もしかして、返し方が悪かったのかな? プライドを傷つけてしまったとか? ん~。でも、断られたくないならもうちょっと誘い方考えようよ。
はぁ~……ため息が漏れる。そんな私の様子が気に食わなかったのか、男が手を振り上げた。あ~、私殴られる? もう、いいや。一発殴られれば解放されるならそれでもいい。とにかく、早く帰りたい。
覚悟して目を瞑る。……が、一向に殴られる気配がない。片目を薄っすらと開けて確認する。
「……あれ?」
先ほどの男がいなくなっていた。
「……お前さぁ。面倒だからって殴られようとするのやめろよ」
「あ~うん」
私の右側。視界の隅っこの方でしゃがんでいる人がしゃべりかけてくる。どうやらローが助けてくれたようだ。頼んでないけれど、心の中で感謝はしておこう。……あ~面倒な人に絡まれた。思い切り顔を顰めつつ、絶対に顔は向けまいと意地を張った。
「あと、俺と会う度にそういう顔するのやめろ」
「……」
「逆に燃えるだろ?」
「は?」
何言ってんのこの人。つい顔を向けてしまった。向けてから気づく。あ~やられた。
「はい、俺の勝ちぃ~」
この男はこういうやつだった。どうにかして私の関心を引こうとしてくる。お前に興味はないと何度も言っているのに。
「あ~はいはい。私の負けですよ~だ」
ふんっと首を反対へ振る。ククククッと喉で笑われることに苛立っている時だった。
「お、なまえ!」
「え、シャンクスッ!?」
赤い髪のその人と会うのはずいぶん久しぶりだった。
あいつは俺には見せない顔であの赤い髪の男を見る。
「久しぶりだなぁ~」
「そうだね、いつぶり?」
「3ヶ月ぐらいだろ」
「そんなものかな、もっと経ってる気がしてたよ」
なんだそれ、まるで恋する女じゃねぇか。会えない間の時間が長く感じてしまってって。お前はそんな女だったのか? そんな、そんな風に人を思うことがあるのか……? 自然と近づいていくその2人。触れそうで、触れない距離。どうやら2人はまだそんな関係ではないらしい。でも……あきらかに互いに意識し合っていることが読みとれる。
「ドイツはどうだった?」
「あ~、楽しかったよ」
「え、それだけ? ドイツに行ったのに?」
「あと、ビールがうまかった!」
「ビールか! いいなぁ~」
「私も行きたかったなぁ~」
男に向かって何かしたいなんていう彼女を見たのは初めてだった。
「時間ある時でいいから、おみやげ話聞かせてね?」
「ん、あぁ。そうだな」
じゃあね。そう言って、彼女は手を振って歩き出す。その様子を見つめる赤い髪の男の目は彼女だけを見ていた。視線を元に戻す際に、俺の視線に気づいたようでこちらを見てきた。素知らぬ顔で視線を逸らす。その後に立ち上がり、彼女の後を追う。
「なまえ」
「ん?」
もう、何~? 相変わらず、俺にはそうやって面倒くさそうな顔を見せる。後ろに目を向けると、先ほどの赤い髪の男がこちらを見ていた。
「今日暇?」
「飲み会でもするの?」
「あ~いや、デートのお誘いをと思って」
「………………は?」
そうやって、素の表情で会話してくれるのは俺の前だけだと信じて、俺は君をさらってやる。絶対、他の奴になんかやらねぇから。
「……ロー?」

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