「こんなところで遊んでいいのですか?」
赤髪のシャンクスさん?
そう言うとその人はなんで? と素で返してきた。なんでって……
「だって、今やあなたはこの海の四皇ですよね?」
あのロジャ―の見習いのあなたがね……と続けて笑うと、うっせぇよと小さい声で返事が返ってくる。
「……それで、なんでまた私を指名しようと思ったのですか?」
「別に……」
「まさか、まだ好きとか……言わないですよね?」
ニコニコと笑えば、チッと舌打ちが返ってくる。
「それやめろ」
「それって?」
「敬語だよ」
「ふ~ん、嫌なの?」
「だって、お前は……もはやお婆さんだろう?」
「……キレてもいいかしら?」
そう言ってやれば、ようやく戻ったなと笑う赤髪の男。それに対して、ふんと顔を逸らし、それで、実際どうなの? と先ほどの質問を掘り返してやる。
「だったら悪いかよ」
「……エドが聞いたら激怒ね」
「……もういねぇから、安心だな」
……それも、そうね。
自分ではそんなつもりはなかった。ふふふと余裕の笑みで笑ったつもりだった。けれど、私の顔は泣き出してしまいそうだったようで、シャンクスがそっと頬に手を添えて、悪かったと謝ってくれた。その罰の悪そうな顔に頬が緩む。左目にある大きな傷。いつ付けられたの? 誰にされたの? あなたはもう私が知っているシャンクスじゃないようで。きっと辛いことも楽しいことも私なんかの何倍も経験してきている。
「シャンクス、本当にいい男になったね」
「あぁ、だろう?」
ポロリと漏れた言葉に当然のように返ってきた言葉。クスクス。
「でも、そんな大口叩いているうちはエドには叶わないよ?」
その添えられた手をさらりとかわす。
「俺じゃ嫌か?」
「……え?」
伏せていた目を上げ、顔を上げる。ゆっくりとシャンクスの目を捉えれば、彼の眉は切なげに歪んでいた。
……嫌か?
その真剣な目はかつてと変わらない想いの現れなのだろうか。ふふふ。思い出すと笑ってしまった。今度は怪訝な顔で首を傾げるシャンクスに言う。
「覚えている? あなた、エドの隣に立つ私に”俺とともに来い”って言ったの」
「……あぁ、もちろん」
あの後、本当に大変だった。そんな言葉、本気にしないでいいからと言ってもエドは聞かないし、シャンクスはシャンクスで挑発するし。その場を納めるのがほんと大変だった。ベックマンと私でお互いの船の船長をなだめた。副船長って……2人肩を並べてグチり合ったあの日が懐かしい。
「……辛いか?」
「そりゃあ、そうでしょ?」
だって、彼は……愛しいあの人はもうこの世にいないのだから。
「お前、今何歳だ?」
「ピチピチの21歳」
イエイッとピースすると、あーもう! となぜか叫ぶような声。グシャグシャと自分の頭を掻くシャンクスに首を傾げた。
「どうしたの?」
「なまえ、お前ほんと可愛いわ」
「……目、いかれたんじゃない?」
素で大丈夫? 私こう見えてお婆さんよ? と聞き返すと、お前は自覚した方がいいと引き寄せられる。ちょっと! と声を上げれば、ここはこういう場なんだろう? とニヤリと笑う彼。こればっかりはしょうがない。彼はこれでもお客なのだ。
「……意地悪」
「すねるなよ」
「シャンクスがこんな趣味だとは思わなかった」
着せられたのは海賊大将の服。ミニスカ―トで正義のコートを羽織っている。
「いいだろ? 宿敵の恋人って設定だ」
ニシシシシッと本当に楽しそうに笑う顔があの人と重なって、切なさで眉が自然と寄ってしまった。寄せられた体を離してもらう。今はそういう気分ではなかった。きっとシャンクスは気づいている。私がいつもエドを追いかけていることに。気づけば彼の顔を探している。
「なまえ、いいかげん。忘れろ」
「……うん」
間を空けて、エドにもそうしてくれって言われたと続けた。ポロポロとこぼれ落ちる涙はあの人が恋しくて仕方ない私の心そのものだった。
「……私のためなんだって。お前はもっと幸せになるべきなんだって」
なら、私も一緒につれていってくれたら良かったのに。私も一緒にあの場で戦っていたかった。私もあなたの隣で……あなたと共に果ててしまいたかったのに。それで私は幸せだった。ポロリ、最後の一滴を人差し指で拭う。
「ねぇ、シャンクス。私、どうしたらいいと思う?」
「薬、もらったんだろ?」
「うん」
「飲んだか?」
「まだ」
「なんで?」
「……迷ってる」
自分の両膝を抱えて、頭をその中に押し込める。ぎゅう。強く抱きしめる。正直どうしたらいいのかよく分からなかった。そんな私を見たシャンクスがはぁと息を吐く。
「どこに迷う理由があるっていうんだ」
「……逆だよ。理由がないから、困ってるの」
「だったら、俺が作ってやるよ」
「理由を作る?」
どうやって? その言葉は飲み込まれた。シャンクスが息を吸い込む。一度しか言わねぇからな。絶対聞き逃すなよ。目つきを変えた彼がそう言う。辺りの空気が変わったのを感じながら私は次の言葉を待った。
「俺とともに来い」
あの時と変わらない台詞。なんて雰囲気のない言葉。あぁ、思い出す。あの時、不覚にも私は心を揺らしてしまった。だって、こんなにもまっすぐで、バカ正直な告白されたの初めてだったから。だから、……たぶんエドは激怒したんだ。私が少し、ほんの少しだけど心を動かしてしまったから。
「……っはははは!!」
懐かしさと当時の私たちの青臭さに笑ってしまった。
「何で笑うんだよ」
「いや、だって。シャンクスまだ引きずっていたの?」
いや、言葉が悪かった。私なんかのことをずっと想ってくれていたの? そう言えば良かったかな。不貞腐れたように頬を膨らますシャンクスが可愛かった。
「十数年越しの告白……ね」
「あぁ、そうだよ。それも2度目だ。1度目は俺はまだまだだったが、今はそれなりに強くなったつもりだ。お前を守るぐらいはできる」
……四皇がそこそこだって。さすがね。エドが認めていただけある。
「ねぇねぇ。知ってた?」
「なんだ?」
「エドがね、言っていたの。お前を俺から奪う奴がいるとしたら、それは赤髪だ。だから、アイツには気をつけろって」
クスリと笑うと、シャンクスがガハハハハッと豪快に笑う。それは光栄だな。おどけてまるで騎士のように優雅に頭を下げるシャンクスの前に手を差し出す。そっと添えられた手。
「海賊なら、奪ってよ」
ニコリと笑えば、喜んでと手の甲へ口づけられる。
「好きだ、なまえ」
「シャンクス、ありがとう」
貴方についていくよ。これからあなたのことを好きになっていくから。すでにその笑顔に引き込まれている私はきっとすぐに彼の虜になることができるだろう。
「ちょ、シャンクス!」
「俺もう待てないんだけど」
「もう~」
腰に巻き付いてくる手。分かった、分かった! 最後まで言い切ることなく、シャンクスが口づける。いただきます、そう言ってどこまでも私を楽しませようとするあなたのことが私はもう大好きになっていた。
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