Silvers Rayleigh Root 02/02

なんとなく、どこかで見たことのある書類だな、とゆっくりと目で文字を送った。……何かの契約書? 一体なんの……?

え…………?

「……こ、これっ!!」
「あぁ、そうだよ。君とこの船のボスの契約書だ」
「なっ!? 盗んで来たのですかッ!?」
「誰もそんなことは言っていないだろう。ちゃんと話を聞きなさい」

さぁ、落ち着いて、と水を渡される。コポコポと喉にそそぎ込まれていく冷たい液体に火照りきっていた熱が吸収されていた。あぁ、気持ちいい。

「困った子だね。人前でそんな気持ちよさそうな顔をするんじゃないよ、まったく……」
「……え?」
「今すぐにでも君を抱きたいが、それはもう少し先にとっておかなければな」
「っ、ちょ、こんなところでそんなこと!」
「あぁそうだ。その通りだよ。こんなところで君を泣き喚かしてみろ。他の男に君を見られてしまう。そんなのはナンセンスだ」

ほんとうにこの人の頭の中はどうなっているんだろうか、ぱくぱくと開いた口が動く。言葉が出てこなかった。それを見て、満足そうに目を細めたレイリーさんは話の続きだといいながらお酒を煽った。

コトン、とグラスの音がした。

「これは正式に手に入れたものだ」
「…………正式? え、正式にって? それ、それじゃ、まさか……」
「あぁ、そうだ。君を買ったんだ。この私が、」

は? ――――と今度は呆れて声が出なかった。何だって?私を買っただって? この人はやはりどうかしている。

「自分で言うのもおかしなお話ですが! 私の値段はかなり高いものだと思っております。それを買ったって? 一体どうやってそれだけの金額を?」
「別にどうってことはないさ」
「……そうですか、私はどうってことない値段だったのですね!」

舞い上がりつつあった感情もすぐに収まってしまう。なぜだか彼の言った言葉に腹が立ってしまって。まるで君はそれほど価値のある女じゃない、と言われている気がしてしまった。ふぃ、と顔を背ける。そうしてら、クククッと今の私と彼の空気ではおかしい程の楽しげな笑い声が聞こえてきた。キッ、と目をつり上げて顔を向ける。

「あぁ、ほんとうに君は可愛らしい。怒ってしまったのかい? すまないな、言い方が悪かったようだ。……苦労はしたさ。片っ端から大型海賊を捕まえていったんだからね。私自身も早々海軍の目の前に出るわけにはいかないので、受け取りでも苦労したさ」

これでどうだい? とにんまりと笑う様子になんだか急に恥ずかしくなってきてしまった。レイリーさんが言ったことに対して本気で怒るだなんて、まるで恋人がするようなことじゃないか、と。真っ赤に染まった顔を隠すようにして、ふんと息を吐き出し、反対側を向く。隣からは変わらず楽しげな笑い声が聞こえたけれどもそれももう聞かないようにする。

なんでだろう。別に初めてのことでもないのに。こうして誰かに惹かれていく瞬間っていうものは何度経験しても慣れないもので。恥ずかしくて、居たたまれなくて。本当の私は生娘なんかじゃないのに。まるで本物の生娘みたいじゃないか。うるり、と目いっぱいに涙が溜まっていく。別に悲しいわけでもないのにどんどん、どんどん涙は溜まっていった。

「なまえ、そろそろこっちを向いてくれないかい?」

ふるふると首を横に振る。嫌です、と言葉を返す。そうしたら、肩を抱くようにして腕を伸ばしたレイリーさんが私の顔を下からのぞき込んできた。ぽろり、ぽろりとついにこぼれだしてしまった涙。頬を伝っていく涙をすくい上げながら彼は言った。

「そんなに嬉しかったのかい?」
「っ、」

弾けるようにして体が動いた。溜まらなくなって彼に抱きついた。ぎゅ、と精一杯の力を込めて、嗚咽を交えながら言った。

「わ、たし、わたしっ、まさかこうしてレイリーさんが迎えに来てくれるだなんて思っていなくて、……だから、」
「だから?」
「だから、嬉しくって……!」

よしよしと背中を頭をあやすように撫でてくれるレイリーさんの体温が私を包み込んでいく。

「まだ言っていなかったね」
「…………ん?」
「ここに来た本当の理由を」
「やっぱり嘘だったんですね……」

ハハッ、やはり君にはばれていたか、と満足そうに笑ったレイリーさんは真っ直ぐこちらを見ながら言った。

「もう私と君を遮るものがなくなったから迎えにきたんだ。迎えに来ないだなんて、君に失礼だろう? ……だからだよ」
「……ほんと意地悪な人ですね」
「何を言う。それがいいんだろう?」
「ふふ、ほんとうに勝手な人ですね」

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160403 End.

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