one
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薄汚れた監獄の中。署長の後ろをついて歩く。今日は珍しくハンニャバルも同行していた。
「ねぇねぇ、未来の署長さん」
「む、なんだなまえ」
「今からどこに行くんですか?」
「なんだそんなことも知らんのか。では、署長であるこの私が説明スマッシュ。あ、副署長だった」
いつも通り、野心を覗かせるハンニャバルに苦笑していると、前を歩いていた本当の署長がこちらに振り向く。
「こらこら、なまえ。署長は私だ」
「ん、知ってますよ、わざとです」
「……」
だって、ハンニャバルってば面白いんですものと言えば、はぁとため息が返ってくる。
「今から地下6階へ向かう」
「……地下6階?そんなものあるんですか?」
「なんだ、知らなかったのか?」
すっかり気を取り戻したハンニャバルが首を傾げた。
「うん」
まぁ、なまえに話すのは初めてだからな、話は歩きながらするぞという現署長が再び足を動かすように私達をせかした。
あ、はいと後ろをついて歩く。
「地下6階は、LEVEL6;無限地獄とも言われている」
淡々と流れる現署長の言葉は左耳から右耳へと綺麗に通り抜けていく。だってつまんないんだもの。
「ねぇねぇ、署長」
「む、なんだ?」
隣を歩くハンニャバルに小声で話しかける。
あれ、訂正しないのね。
「私にこんな話をするってことは……期待されているってことなのかな?」
「……期待、次期署長候補という訳か!?」
「いやいや、それはないよ。だって、次期署長はハンニャバルでしょ?」
「……それもそうだな」
こそこそ、こそこそと後ろで話していると「……お前等俺の話を聞いているか?」振り返った現署長に言われた。
「あ、はい! もちろんです!」
ため息をつく不憫な署長に全力の笑顔で答える。その後も退屈な話に耳を傾けながら、監獄の中をひたすら歩いた。
LVEL6と刻まれた、大きな扉――
看守に署長が声をかけると、その扉が開いた。
「わー暗い、狭い、汚い!」
「そんなんじゃ署長になりたい。あ、間違えた。署長になれないぞ、なまえ」
「んー別に興味ない」
だからいいのとハンニャバルに返す。
「行くぞ」
「はーい」
一歩足を進める度に血の臭いが漂ってくる。ここに入る囚人は皆大物で終身または死刑囚。拷問はほぼない。たまにミノタウロスが殴ってるぐらいらしい。あえて言うならば、「無限の退屈」それが拷問だと言える。漂う空気に身を震わせる。ここの空気は異様だ。体が震える。今日はあの一国を支配しようとした大物が入ってきたので、その確認のため来たそう。
「あそこだ」
実は、私は……まだその人が死刑囚になる前に会っていた。その確認のために連れてこられたのだった。
ジャラリ――
どの檻の中にも大きな鎖が繋がれていた。手足すべてに鎖が付けられ、とても不便そうだなと場違いなことを考える。その鎖は海楼石。ここにいるほとんどが悪魔の実の能力者らしい。私達の前を歩いていた署長が立ち止まり、前へと私を促す。なかなか足を踏み出せなかった私をハンニャバルが大丈夫だ、奴は何もできないと優しく声をかけてくれる。数歩歩けば、檻の奥で退屈そうに天井を眺めているその人がいた。
「……」
クロコダイルさん。
私の視線に気づいたその人はゆっくりと私の方へ目を向ける。そして、目を見開いていた。
「お久しぶりです」
まさか、こんな風に再会することになるとは思わなかった。
「あ、あぁ」
いつだっただろうか、数年前、まだ私が海軍本部で働いていた時だった。七武海のお世話をする機会が何度かあり、そこで知り合った。知り合ったといっても、何度か暇つぶしの相手をした程度でただそれだけの仲だった。そう、別に肉体関係があった訳ではない。でも……なんとなく惹かれていた私は、こちらへ移動する際にまたどこかで会えたらいいなと思っていた。そんな矢先のできごとだった。予想以上に反応してくれたのでこちらの調子も狂いそうになる。これ以上はここにいない方がいい、そう思った。
「しょ、ちょう」
「どうした、なまえ」
「確認できたので、もう行きましょう」
分かったという現署長。大丈夫か? と私の顔色を伺ってくれるハンニャバルにうんと頷き、足を動かす。去り際に檻の中へ視線を向けると、彼が檻の前の方まで出てきていた。注がれる視線は熱く熱く私に向けられていて、すぐにその場を離れてよかったと、心の底から思った。
元の階層に戻った私たちは持ち場へと戻る。署長室に残った私はマゼランさんに確認した。
「マゼランさん」
「署長だと言っているだろう」
「いいじゃないですか、あなたは署長には向いていないですもの」
ふふふと笑えば、まぁそうかもなとマゼランさんは言う。
「次期署長はハンニャバルですよね?」
「……おれの後は……」
「あいつしかいない、ですよね?」
「あぁ」
あと、あいつを支えてやれるのはお前だ。そんなことをマゼランさんはよく言う。
「……だとしたら、光栄です」
私とハンニャバルは結構仲がよかったりする。それは男女の仲というわけではないけれど、何かと彼は私を気遣ってくれるし、私も何かとハンニャバルに会いに行く。それは、きっとまだ、恋愛まで発展しきれていない。けれども、いつかはそうなるんじゃないかなぁと頭のどこかで思っていた。
そう、そんな今。今になって彼が、クロコダイルが目の前に現れた。
まだハンニャバルに出会う前。彼は海軍本部に来るたびに、幾度となく私を誘惑してきた。何度も、何度も、好きだと言ってきた。そして、何度も何度も断り続けた。別に彼が嫌いなわけじゃない。ただ、私は人に対してなかなか心を開くことができないタイプで、仲良くなるには時間がかかる、ただそれだけの理由だった。あのまま、何年も経っていたのなら、きっと私は彼に落ちていたであろう。そう自分でも思う。そうならなかったのは、きっと縁がなかったためだ。そう言って、すぐに別の人を探し、ハンニャバルと出会った。……再び現れた彼は今度は終身囚。この状況に運命なんて言葉は当てはまらないと思う。でも、気になってしまうのはなぜ?
「ふぅ、ま、もう会うことはないだろうし」
どうでも、いいか……
あー署長になりたいと呟くハンニャバルに頬を緩めながら、私は夕食を口へと運んだ。

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