家族って一言で簡単に言えるけど

広い部屋に連れて行かれた。特に何の説明もなく。正確にはなんとなぁく2人の後ろについて行ったが正しいんだけど。少し大きめの一枚扉を開ける。中には広い空間があった。海軍の会議室ぐらいだろうか、と部屋を見渡す。

ドフィの背中から少し顔を出して覗き込んだ先には長い長い机が一つ。トランプの柄を象った印象的な椅子が合わせられていた。そこには人が座っていて、そこに座る人も、他にもたくさん並べられている椅子に座っている人も、すべての人の目が一斉にこちらに向いた。まるで品定めをするような視線。でも、不思議と恐怖はなかった。

「なまえ」

思わず立ち止まってしまった足を急かすようにしてドフィが名前を呼んだ。慌てて後ろについていく。ドフィはトランプ柄の椅子に向かい合うようにして置かれた真っ黒な椅子に座った。その隣に並ぶと、「座れ」とその横に申し訳程度に置かれている小さな椅子に座るように言われた。とても小さな椅子だった。でも、私にぴったりで。なんだか少し嬉しくなった。ドフィとお揃いの真っ黒な椅子。目の前に目を向けると、ちょうどハートマークの椅子にヴェルゴさんが座ったところだった。ヴェルゴさんはどうして向こう側にいるのだろう。

シン、と静まり返った室内。誰一人言葉を発しない。それがなぜなのか、それは私でも分かった。ここではドフィがすべてなのだ。

「以前に話した通り、俺達はまだ仮のファミリーだ。それももう終わる」
「……それはどういう意味で?」

誰かがそう言った。ドフィの方を見たら、フフフフフとひとしきり笑った後、その顔がこちらに向いた。ん? と首を傾げる。とん、と背中にドフィの手が当たり、軽く押された。立てってこと? ん? ん? ん? と首を捻りながらおろおろと立ち上がる。みんなの視線が集まるからなんだかすごく落ち着かない。

「こいつがなまえだ」

再度、ポンと手の平で前に押されておっとっと、と前へ数歩進む。顔を上げると、ほぅ……と至る所から声が聞こえた。すごく居心地が悪い。視線を下に下げてそれになんとか耐える。

「じゃあ、」
「あぁ」

何? 何の話? 後ろを振り返って困惑している頭でドフィを見た。ドフィがにんまりと笑った。これから楽しくなる、とでも言うように。

「なまえ。今日はお前の誕生日だって知っていたか?」
「……へ?」

今、なんて?

「俺はこの時を待っていた。お前が12歳になったときにファミリーを正式に結成すると決めていた」
「はっ?? なんで、私???」

「ドフィ、説明してよ!」そう声を上げたら、シッと小さく叱られた後、椅子に戻るように促される。それでも負けずに睨みつけていたけれど、しまいには首根っこを捕まれて無理矢理椅子に座らされてしまった。

「ドフィ、いいのか。能力者っていうのは聞いているが、まだ子供だぞ」
「あぁ。でもな、こいつを侮らない方がいい」

「……悪魔の実の能力者……んね~~」
「まぁそれはこれから分かることだから楽しみにしていろ」

全員がドフィの言葉に小さく頷く。

ドフィはファミリーの主で、一番偉い人で、一番尊敬されている人。一度は持っていた権力を失い、どん底から這い上がり、その上と下の両方の世界を見て、今ここに座っている。ゆっくりと腰を上げたドフィが言った。

今このときを持って、ドンキホーテファミリーを正式に結成する。なまえ、お前は俺たちの新しい家族だ――――
 
 
 
そうして、私はドンキホーテファミリーの一員に迎えられた。まず初めに困ったのが思ったよりも家族が多かったこと。人の名前を覚えるのは苦手だ。いくら幹部は少ないと言われても。しばらくは名前を覚えることで必死になりそうだ、と苦笑する。そうと決まればさっそく……新しくできた家族、みんなのところへ行って一人一人に挨拶をしてまわることとなった。なんだかすごく気恥ずかしく感じてしまうのは、嬉しさの裏返しってことでいいのかな。
 
 
 
挨拶が済む度に、みんないそいそと部屋から出ていく。どうやら今は忙しい時期らしい。時間があれば、「あれはどうなった」「あそこはどうなっている」と話をしているようだった。ドフィも私の後ろについて来ながら、時折何か聞かれて、それに答えているようだった。すごく尊敬されているっていうのは伝わってくるのに、ここにいる人は誰もドフィのことを怖がっていない。なんだかすごく不思議。

「なまえ、終わりか?」
「ん、うん。終わったー」
「挨拶なんて別になんか話すことがあるときにすれば良かっただろ」
「そうはいかないよ。これから先、きっとどこかで迷惑かけることになるだろうから。だから先に言っておかないと!」
「なんだそれ」
「保険かけてるの。どう? もう大人みたいでしょ?」
「フフフフフフ、お前は相変わらず訳の分からないことを言うな」
「ん、なんで?」
「家族なんだ。迷惑かけたって別にいい」
「…………そうだね」

本当の家族と家族でいた時間なんてなかったから。家族っていうものがまだよく掴めていなくて。さっき不思議だなって思ったのはこのせいかも知れない。組織の主じゃなくて、一家の主としてドフィがいて、それがちゃんと成り立っている。それに慣れていなかったから。

「慣れていけ」
「……うん」

でも、なんとなく分かってはいるんだ。海軍にいたとき、おつるさんと私との間にあった関係は家族に近いものだったって思うから。そういう関係になるまでに少し時間がかかるってことももう分かってる。だから、

「ドフィ」
「……なんだ?」
「しばらくは傍にいてね」
「……あぁ」

すぐに、とはいかないけど。ドフィに寄りかかって、ヴェルゴさんに助けてもらって、そこから少しずつみんなと本当の家族になっていきたいと思う。

「部屋に戻るか?」
「うん」
「疲れたんだろ。もう寝ろ」
「うん。なんかすごく疲れた」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!