One
:
「なまえ」
名を呼べば振り向く。視線も合う。だが……
「こっちへ来い」
「嫌」
なまえはコラソンの側から決して離れようとしない。コラソンに寄り添う様子に舌打ちが出る。それに対して体をビクつかせたなまえはコラソンの黒いコートを握りしめ、その中へと体を隠してしまった。ようやくそれに気づいたコラソンがなまえに顔を向けた。なまえはコラソンの口パクをうまく読みとることができる。
(どうした?)
何回か首を横に振り、俺の方へと視線を向けるなまえ。その視線をたどって俺の方を見たコラソンがあぁ、そういうことかと小さく頷いた。サラサラとペンを走らせて俺の方へメモを差し出す。
(なまえに何のようだ?)
「特に用はない」
コラソンは、ん? ならなんで? と首を傾げた。その間ももぞもぞとコラソンの体に張り付くように引っ付くなまえはこちらを見ようともしなくなった。
(また何かしたのか?)
「何もしてねぇ。っていうか、お前子供嫌いだったよなァ? なんでなまえはいいんだよ」
(別に……)
「いやいやいや、お前の方こそなまえに何かしただろ?」
(していない)
「チッ……」
なまえはどんな時でもコラソンから離れようとしない。拾ってきたのもコラソンだった。どこのどいつか知りもしなかったが、あの子供嫌いのコラソンが子供を拾ってきたんだ。何か、人知れぬ理由があるのかもしれないと、ファミリーに入れてやった。それ以降ずっとだ。なまえは俺の側に近寄らない。いつもコラソンの黒いコートの中にいた。
食事が終わり、一息ついていた時だった。
「そういやァ、なまえは何歳なんだァ?」
そう言えば、そうだなと首を傾げたコラソンがなまえを見た。そうするとなまえがにこにこと笑いながら答えた。
「16歳」
「はァ?」
何を言っているんだという目でなまえを見たら、その隣にいたコラソンはそうだったんだなぁと頭を撫でている。
「お前その話を信じるのか?」
(信じる)
それでか。子供嫌いのコラソンがスルーしたのは、こいつがもう子供じゃなかったから、と納得する。そうこうしているうちに嬉しそうに微笑んだなまえがチュッとコラソンの頬にキスをする。目を瞬かせたコラソンが頬を緩ませていた。ドクンッと胸が跳ねる。まさか……
「お前等どういう関係だァ?」
「ん、家族だよ」
ね? とコラソンを見るなまえのそれは家族を見る目ではなかった。少なくとも俺にはそう見えていた。
その夜のこと。今のねぐらにはファミリー1人1人に部屋が与えられている。もちろん、新入りだろうと部屋はある。俺は用があって外を歩いていた。
コンコン――――
耳の端に小さなノック音。誰の部屋だ? と視線を向けた。
「あそこは確か……」
コラソンの部屋だ。
ノック音の後にゆっくりと扉が開く。扉の前に立つ人影を目を凝らしてみる。ん、あぁ。サングラスが邪魔だな。
「コラソン、一緒に寝よう?」
返事はもちろんなかった。が、入れと言わんばかりに開かれたままの扉。嬉しそうに体を弾ませた人影がコラソンの後を追って部屋に入っていった。
「……」
おそらく俺は嫉妬していたんだと思う。でも、そんな自分を認めたくはなかった。扉の前に立ち名を呼ぶ。
「コラソン、話がある」
数秒の間。ギシリとベッドの軋む音がした。今まさにその最中だとしたら、と思うとなぜか苛ついた。キィッと警戒した様子で小さく開かれた扉。俺の顔を確認するとホッと息を吐き出したコラソンがゆっくりと扉を開けた。首を傾げ、話とは? と続く言葉を待つ様子からその気がまったくなかったことが読みとれて安堵した。そうか、こいつはそういうやつだったなと今更そう思う。カサリ、と部屋の奥から音がする。
「……誰かいるのか?」
クィッと顎を動かし、軽く睨むとコクリと一回頷いたコラソンがその者を手招いて呼んだ。
「なまえか……、こんな夜遅くに何をやっている」
「……眠れないから」
ギュウッとコラソンの枕を抱きしめて眠そうにとろとろと歩いてくるなまえは普段見せるツンケンした態度ではなく、その変わりように少し驚いた。まるで体を冷やす、と言うようにコラソンが自身のコートを脱いでなまえの体を包み込んだ。
「ん、ありがとう。コラソン」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でるとなまえが嬉しそうに笑う。
「コラソン、使いだァ。今回は少し遠い。今夜にでも出発してもらいてェんだがなァ」
コラソンは俺に忠実だ。こうして欲しいとほのめかせば大抵頷く。「え、でも……」とそれを聞いたなまえがたじろぐとコラソンがなまえに向かって口を動かした。
「うん……分かった」
ニッコリと笑うとなまえの頭を撫でたコラソンがこちらを向いて話の続きをせかした。あぁ……とあらかじめ準備しておいたメモを渡す。コラソンはそのメモにじっくりと目を通すと、一回頷いた。一度振り返り、部屋の中へ戻っていく。帰ってきたときにはもうすでにいつものコートと帽子を身にまとっていた。
「頼んだァ」

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