one
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「み、ミホーク、さんっ」
なんとか首を動かして、自分よりもかなり上にある顔を見上げる。帽子とコートを脱ぎ、シャツ一枚になった彼はどうしてこんなにも艶めかしいのだろう。
「どうした?」
「痛いです……」
そう言うと、ミホークさんは再び首筋に顔を埋め、赤い花を咲かせた。それと同時にくびれから太股までを何回も撫で回す。ピリリと走る痛みと共に疼くような甘い快感が脳を刺激する。溜まらず息が漏れた。それを見た彼は口元をつり上げ酷く意地悪な笑みを作り出して見せた。それから、赤い印が増える度に体が震え吐息が漏れていく。
「どうした? 痛いのだろう?」
それはまるで悪魔の囁きのようだった。瞼の向こうに移るのは普段の彼。漆黒のコートを見に纏い、一筋の剣筋で命を奪う。そう…………彼は悪魔……いや、はたまた死神なのではないだろうか、何度そう思ったことか。ガリ、と強い刺激に重い瞼が開く。瞳に映る彼は私の頬を、前髪を撫で、その独特な瞳で貫くように見てきた。まるで目を逸らすことは許さない、というように。あぁ、彼の瞳はずるい。
「……なまえ」
その微かな吐息が耳元を刺激するだけで体が震えてしまう。もうどうにかなってしまいそうだった。
「やっ、…………ん」
本当にやめて欲しいのか、とその悪魔は言う。その一言にどれほど心が揺れるのか、知っていて言っているのだろう。ほんの少し、唇を離したその悪魔ははぁ、と吐息を吐き出した。
「ぁ…………ん……」
体の芯が強く疼く。ぎゅ、と目を閉じてそのささやかな刺激に耐える。いや、もはやこれはささやかな刺激ではなくなっていた。これは拷問だ。彼なりの罪深い、拷問。
「なまえ、その顔は誘っているのか?」
「いや……そんな……」
「もう欲しくて欲しくてしょうがないという顔をしているが?」
「ちがっ……」
彼が言葉を吐き出すたびにその吐息が首筋を、肩を、腹を、あらゆるところを犯していった。あぁ堪らない。じゅくりじゅくりと芯が疼いた。胸に吐息がかかった時、自分でも無意識に自らの手が彼の腰へ伸びていた。その様子を見たミホークさんが喉を鳴らして笑う。
「じれったいか?」
きつく唇を噛み締め、横に首を振る。負けてなるものか、と目を閉じてもう一度首を横に振った。ふわりと彼の香りがした。彼と体を重ねなければ嗅ぐことのできない、発情しきった彼の香りが脳を溶かしていく。スンと鼻を啜るとふっと小さな声が聞こえた。
「んっ……」
重ねられた彼の唇の中から舌が這い出し、固く閉じている私の唇をこじ開けて口内を這いずり回る。歯列をなぞり、唾液が流れ込んでくる。ゾクゾクと背筋が震えた。息継ぎのために離されたわずかな間になんとか息を吸い込む。でもその酸素もすぐにあっという間に吸い尽くされてしまい、頭は朦朧としていた。私の牙がすっかり抜かれたのを確認した彼はその舌をゆっくりと引き抜く。そうして今度は惜しむように、優しい口付けを何度も落とした。
その味はとても甘い蜜の味。
「ん、ぁ、」
いつの間にか彼の舌に自分の舌を絡めていた。
「んふぁ……」
「なまえ、欲しいか?」
「……っ」
少し顔を離した彼は美しい飴色の瞳を細めながら問う。
……欲しい。もう一度貴方が欲しい。
けれどそんな恥ずかしい台詞言えるわけもない。それにこうもやすやすと篭城を破られてしまい、さらにこうして行為を乞うことになるとは。自分の行いが恥ずかしくて、思わず顔を背ける。
「相変わらず、お前は本当に可愛い奴だ」
ちゅっと軽い口付けが1つ。まるで促すようにして落とされた。
もどかしい。
「やっ……」
「どうした、」
「みほーく……」
「言ってみろ」
その催促に、その優しい微笑みにやすやすと解かされてしまった。自制心が崩れ落ち、体はもう辱めを受け入れ、彼を求めるようになっていった。宝石のような瞳が熱くこちらを見る度に、その度に体が犯される感覚。それは酷く艶かしく、視線による愛撫は至極心地よいものだった。
「キス……して……」
ようやくか、と笑みをこぼした彼はじれったく何度も何度も軽い口付けをした。違うと首を振り、口を開けて求めても、それでも彼は優しい口付けを落とすだけだった。
「ん……、ふ、っ、」
気が付けば両目からは涙が零れ落ちていた。脱力しきった体ではもう、その涙を拭う力もなく。ただただ両目から涙は溢れ続け、床に染みを作っていった。ぼやけた視界で見上げた彼の瞳はこちらをジッと見つめていた。
「みほーく、さん」
「なまえ」
頬を伝っていく涙を彼の大きな手が拭う。そうして頬に優しい口付けがいくつも落とされていった。その行為により収まった涙。ようやく焦点の合うようになった瞳で彼を見上げながら言った。
「好き……です」
彼は何度かゆっくりと瞬いた。そうして悩ましい様子で目を閉じた後、ゆっくりと目を開いた。彼の腕が背中にまわり体が引き寄せられる。力の抜け切った体は彼の腕の中に納まり、きつく抱きしめられた。
「……知っている」
「ん…………」
耳元で彼が囁く。甘く優しい響きに私の中の何かが反応して背筋が震えた。もう……彼のその声を聞くだけで、それだけで感じてしまう。

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