「こんにちは。大将」
私の店のカウンターは外と中にある。海兵の皆さんは大抵外のカウンターのところに腰掛けて数十分話をしたらまた仕事へと戻っていく。
スモーカーさん曰く、ここは丁度よい息抜き所らしい。そんな息抜き所(正確にはカフェなんだけど……)、には今日も海兵のお客さんがやってくる。
開店最初のお客さんは黄色いスーツのダンディな叔父様。間延びした挨拶の後いつも煙草ちょうだ~いと注文されていく(一応もう一回言っておくけど、ここは商店ではなく、カフェです)。
3箱。重ねて置く。叔父様の目は満足そうに三日月を描く。
「はいはい、ここはカフェなんですから、何か注文していって下さいよ?」
「……えぇ、またか~い?」
「なんと言われようがここはカフェなんです。どこかの誰かさんのせいで、煙草やら葉巻やらを少し仕入れてみたら、まさかそっちの方の需要が多いだなんて……、そんな結果になってもここはカフェです」
「はいはい、なまえちゃんにはかなわないなぁ~もう~」
じゃあコーヒーを貰うよ~とカウンターに腰を下ろした叔父様にニコリと笑って、かしこまりましたと返した。
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「ほうじ茶、煎餅」
「はい、いらっしゃいませ。サカズキさん」
ふふふと笑った視線の先にいたのは昼の休憩に来た大将のサカズキさんだった。
「今日はちょっと珍しい煎餅が入ったんです」
「珍しい?」
「はい、わさび味なんですけど、どうです?」
「どれ、頂こうかの」
ではではとお皿に乗せて出せば、いけるなと笑ってくれたサカズキさん。本部での話を聞けばかなり厳しい人だと言っていたけれど、そうは思えなかった。まぁでも、人間裏表があるものだからなぁとその話をした人のことを思い浮かべて笑う。
「どうした? 何かいいことでもあったんかァ?」
「あ、分かります? 実は今日、久々のデートなんです!」
「デートじゃと? あぁ、確かお前の旦那は……」
「はい、スモーカー中将です。旦那がいつもお世話になっています!」
「あぁ、あいつだったか。まぁ、俺の直属の部下じゃないけんの、ようは知らんが」
少々、荒っぽいところがあるようじゃのと一言。やはりそうなのかと苦笑して返すしかなかった。誰に聞いてもそんな風なコメントか返ってくるのでもう慣れっこだった。スモーカーさん、結構無茶しているらしいからなぁ。
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その日の夜のこと。
いつものことながら帰宅は遅いだろうなとのんびりとリビングで待っていた。6時か……んん、8時は軽くいくだろうなと思ったので、ソファで一眠りすることにした。7時半ぐらいに起きて準備して、で丁度いいぐらいだろう。
「なまえ……」
頭に乗る暖かさ。鼻をかすめる葉巻の香りに徐々に意識が浮かび上がってくる。スモーカーさんの葉巻の香りだ。今日はいつもより香りが強いなぁ。そんなことを思いながらクッションを抱きしめる。
「なまえ、起きろ」
「……ん、はい?」
ぽわぽわとまだ夢見心地の頭は目の前にいる人をはっきりと捕らえることができず、夢にスモーカーさんが出てきたと思った。いつもならしないけれど、夢ならばと手を伸ばし、首にぎゅうっとしがみつく。一瞬、ビクリと揺れた体は私の体を受け入れてくれたようで、逃げずにいてくれた。そりゃ夢だから、私にとって都合のいいようにできてるしと納得する。
んん~と頬に頬を擦り寄せるとズリィッと音が鳴る。
「痛い……」
「痛い?」
「髭、痛い」
ブスリ、頬を膨らますと、ハハハッと笑い声がした。
「悪いな、剃る暇がなかった」
「許さないです。罰として今日は私の言うこと聞いて下さい」
「言うこと、なぁ……。たとえばなんだァ?」
なんて素敵な夢なのだろうか。耳元で聞こえる優しい声にうっとりとしてしまう。低いけれど、柔らかい声は私の心をすぐに満たし、もうこれだけで十分だと思ったけれど、言ったからには何か言わないとと回らない頭を回して考えた。
「ん~と……、じゃあ、キスして下さい」
「じゃあって……」
「キ~ス~!!」
「…………」
あ~分かった、分かったと言うスモーカーさんは笑いながらちゅっと優しいキスをしてくれた。
「ん、もう一回!」
ちゅっ
「もっと!」
ちゅっ
「んん~、幸せ~」
「幸せなのは結構だが、そろそろ行かないと予約の時間が来るんじゃねぇか?」
「ん~? 予約?」
「今日はお前が行きたいって言っていた店に行くんだろう?」
店……?
あ、うん。そうだ。今日はスモーカーさんとデートで。それを待ってて、一時間だけ寝ようと思っていて……
「え?」
パッと覚醒した頭。くるくると目を回して状況を確認する。私はと言えば、夢の中と同じようにスモーカーさんの膝の上に跨っていて、首にぎゅっと抱きついていた。
「ふわっ!?」
「どうした?」
「いや、あの……その……!」
ん? と首を傾げるスモーカーさんを見れば見る程に先ほど自分がしでかしてしまったことの大きさに羞恥の念が浮かぶ。
「まさか、お前寝ぼけてたのか?」
「っ!? いや、あの!」
私の様子でそうだと悟ったスモーカーさんはクスクスと笑った。
「なんだ、お前。夢の中ではいつもあんなことしてんのかよ」
「っ……」
し、知られたくなかったぁ――!!
恥ずかしさのあまりにその場から逃げ出そうと立ち上がる。しかし、逃がしはしないとガッシリと掴まれた両手首のせいで浮いた腰はストンと元の位置に戻り、そこから逃げ出すことはできなかった。
「可愛いじゃねぇか、」
「い、言わないで下さい!」
「まさかお前の方からキスをせがまれる日がくるとはな」
「も、もう、勘弁してよ!!」
やだやだと首を横に振ると、なまえとスモーカーさんが名を呼んだ。
「別に俺に直接言えばいいだろう。夢じゃなくてもしてやるんだから」
「だって、恥ずかしい……」
「夢の中の俺ばかりが得するじゃねぇか」
「え?」
「お前の旦那は俺だ。例え俺であっても、夢の中の俺になまえ、お前を取られるのはいい気がしねぇ」
「な、何を言って……?」
「悪いが、なまえ」
「はい」
「レストランはキャンセルだ」
「っ!?」
ガバリと覆う体は野獣そのもので。今回は誘ったお前が悪いと彼は笑った。
「なまえ、おねだりの仕方は知っているだろう?」
「っ、……キス、して下さい」
「いい子だ」
頭をひと撫で。そうして愛していると言う彼のひどく甘い囁きに幸せすぎて笑ってしまった。彼も私も今夜はどうしたというのだろうか。まるで本の中に出てくる世界のような、そんな甘い話になってしまっている。まさか自分がそんな経験をすることになるなんて。
こっちを見ろよ、そう言う彼に目を向けてゆっくりと目を閉じる。先ほどとは違うキス。絡まる彼の舌を感じながら幸せを噛みしめた。

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