Sion (ごきげんよう)

私の出勤はスモーカーよりも少し早い。彼を起こして先に家を出る。カフェではモーニングを出しているので海兵の皆さんが出勤前に朝食を取れるように、という計らいだった。そして、その海兵の中にはスモーカーも含まれていた。密かに呼ばれているスモーカーの定位置、旦那椅子に軽く腰をおいたスモーカーに朝食を出す。そうこうしているうちに次々とお客さんが来店し、店はいっきに騒がしくなった。

「なまえちゃ~ん、モーニング2つ!」
「あ、こっちも!」
「も~! 朝はモーニングしか出さないから言わなくて持っていくって言ってるじゃないですか~」

「まぁまぁいいじゃないの。こっちはなまえちゃんと話がしたいんだって」

ヌッと隣に差し込んだ影。少しだけ驚いた。お盆を握る手に少しだけ力を入れて、ゆっくりと顔をそちらへ向ける。

「おはようございます、クザンさん。珍しいですね!」
「ん、たまにはねぇ。ねぇ、スモーカー?」
「なんで、俺に話を振るんだよ」
「なまえちゃん、モテモテだよ?」

クザンさんのそういう声で「おっと、今日は旦那もいたか」と少し声のボリュームを落とした他のお客さんが遠巻きにこちらを見ていた。

「もう、クザンさん! スモーカーはそんなこと気にしないですよ。どこかの誰かさんとは違って!」
「ん、何々? 昔の話を掘り起こそうって?それこそ、スモーカーが妬いちゃうでしょう?」

あ、と思った数秒後、クザンさんの言葉に動きを止めたスモーカーがクザンさんの方へ顔を向けた。やばい、余計なことを言ってしまった。モグモグと口いっぱいに入ったサンドウィッチを胃袋に流し込んで彼は言った。

「妬くかよ、こいつは俺のもんだァ」

そのスモーカーらしからぬ発言にあれ、間違えてコーヒーじゃなくてウィスキーだしちゃったとか?とスモーカーのトレイに乗ったマグカップを確認してしまった。いや、やはりいつものブラックコーヒーだ。そうこうしているうちにスモーカーは席を立ち、「ごちそうさま」と一言を残してその場を去っていった。

残された私とクザンさんは顔を見合わせてパチパチと互いに瞬いた。そのすぐ後に沸き上がった「ひゅーひゅー」という声によって、私がみんなに茶化されたのは言うまでもなかった。あんにゃろ、朝っぱからからやってくれたな! と私にしては珍しく暴言を吐き出したのだった。まぁスモーカーの真似なんだけど。

:
:

その後、クザンさんと話していて知ったのだが、今日は海兵の食堂がお休みの日らしい。正確には内装の掃除をするから業務停止というわけらしいんだけど。スモーカーは普段食堂を利用しているのだが、彼のことだから、おそらくそれを知らないと思う。

食堂が休みということは昼間のここはきっとお客でいっぱいになってしまうだろう。……なら、その前に届けにいってあげるか。急いで有り合わせのもので弁当を作る。モーニングの時間帯の後でランチの時間帯の前。その時間で海軍本部へと足を運ぶこととなった。

本部入り口、門番の海兵に手を振る。

「これはこれはなまえさん。元帥に用事で?」
「ん、今日は父さんじゃなくて、こっち」

バスケットを少し上げて、お弁当をねと言うと、納得するようにニコリと笑った門番がどうぞと扉を開いてくれた。

「それを受け取った旦那さんの顔を見てみたいものですね」
「ふふふ、えぇ、そうね。どんなだったかは帰りに報告することにしましょうか?」
「それは、是非」

まるで悪いことを企むように2人で小さく笑ったのだった。

:
:

本部内部の様子はもうだいぶ頭の中に入っていた。でも、……そういえば。私、スモーカーの部屋に行ったことなかったや、とスタスタと迷うことなく歩いていた足が止まってしまう。う~ん、どうしよう。

「なまえッ!?」

「あ……スモーカーだ!」という声は最後まで発しきることはできず。うぐっと押し込まれるように声が出た。そりゃそうだ、私がスモーカーを見つけるよりも、私を早く見つけたスモーカーが大股で歩いてきていて、気づいて顔を上げたときにはもう腕の中にいたのだから。

「ちょ、ここ本部だけど……どうしたの?」
「それはこっちの台詞だ」

なんでこのタイミングなんだよと言葉を続けたスモーカーはどうにも私の体を隠そうとしているように見える。なんかやけに後ろを気にしている様子だし。

こちらからはスモーカーの後ろで起こっていることはまったく見えないのだけど、ガチャン、という音から扉が開くか、閉まるかしたのだろうなということが分かった。

「ちょっとスモーカーくん、会議が始まるわよ。早くしなさい」

あ、この声!!

その懐かしい声に気づいた私がグッと体に力を入れると待て今はまずい、行くなというようにジッとこちらを見据えてくる視線。え、でも……あなたも会議があるんじゃ? 早く、行かないと……とどうしたものやらと考え込む。

「……そこに誰かいるの?」

ビクリ、スモーカーの肩が揺れた。ぷっ、そんなんじゃバレバレだって。なんか必死になるスモーカーがおかしくて、クスクスと笑い声を上げた。

コツコツと高いヒールの音がこちらへと近づいてくる。これはもう逃げられないよね?首を傾げながら顔を上げると、観念したように息を吐き出したスモーカーがゆっくりと後ろを振り向いたのだった。それに続いて私もスモーカーの体の影から顔を出した。

「ヒナさん~!!!」
「え、なまえっ!?」

久しぶり~と満面の笑みでヒナさんに駆け寄る。クスクスと笑い声を上げるヒナがスモーカーに向かっていった。

「そんなに隠そうとしなくてもいいじゃない」
「……おまえはまだいい」

しかしなと苦々しい顔をこちらへ向けるスモーカーが次の言葉を発しようとしたとき。

「おー! スモーカーその子って、もしかして……」
「おぉ、なまえちゃんじゃないの!」
「あいつがスモーカーの嫁か」

開かれた扉。部屋の中からこちらを伺うように顔出している男たち。どの人もスモーカーに負けず劣らずの強面で、体もとても大きい。どうやら、全員正義のコートを背負っているよう。

「チッ……」

あ~あ、とだけ言うスモーカーには説明を求められそうになかったので、ヒナにあの人たちは? と訪ねた。

「ん、海軍中将のみんなよ。ちょうど、中将が集まって会議をするところだったの」

そういうことか!

何事だ? とぞろぞろとこちらへ歩いてくるみんなに視線を向けながら、朝の仕返しは十分にできたようだと、機嫌よく笑う私なのだった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!