07:いまもまだ、僕は永遠を信じてる

道を戻っていく最中、シャンクスと話をした。

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シャンクスとの約束はなまえが船を降りた後に交わした。『船を下りたなまえを引き戻さないこと』それが交わした約束だった。

明確に事細かに決めた約束ではなかった。だから、シャンクスの言う『約束は破っていない』ということは確かに当てはまるのかもしれない。ただ、あの時の自分の言葉に含まれるニュアンスという奴には『今後一切海賊には関わらせないこと』というものが含まれていたように今考えれば思う。実際にそう言ってしまわなかったのは、それを言ってしまったら自分となまえの関係の一切が断ち切れてしまうような気がして怖かったからだ。突き詰めてしまえばそういうことなのだ。

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なまえは海賊のくせに優しすぎた。

いつだったか、交戦中の見知らぬ海賊を助けた上に騙され、連れ去られたときがあった。あの時はなまえ自身の強さが十二分にあったので誰も警戒していなかった。まさかなまえが連れ去られるなんて、一味の誰も夢にも思っていなかった。夜になってもなまえが船に返って来ない――そうなってしまってから始めて事態に気づき総動員で捜索された。

見つけ出されたなまえは海楼石の鎖を嵌められていた。幸い抵抗することもなく素直に従っていたらしく外傷はなかった。手錠を嵌められていたはずなのに、敵船の者とそれなりに打ち解けていて、覇気を使い損ねたくらいだった。

敵の目的はなまえを海兵に生きたまま引き渡すことだったらしい。それが幸いだった。そのときは事なきを得たが、二度目はどうなるかは分からない。……それからだ。それから、なまえの監視役として私が傍にいるようになった。なまえはそのことに気づいていたのだろうか。それを提案したのは私で、了承したのはロジャーだった。にやにやしながら「それならもういっそ……」とからかわれながら傍に立った。

同時に、情報を集める仕事もこなしていた。人を誑たぶらかすことにかけては自信がある。それを生かした情報収集。大切な仕事だった。……なまえがそれを好いていないことには気づいていた。でも、それが私の生き方だったのだ。仕方がなかった。

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久々にあったシャンクスはかつてを思い出すように笑いながら言った。

「覚えていますか? なまえが消えた日のこと。あのときのレイリーさんの取り乱しようったらすごくって。貴方でもあんな風になるんだと、俺はびっくりしました」
「あの時は、生きた心地がしなかったよ……ほんとうに」

ふふ、と微笑が返ってくるのを感じながら続けて言った。

「あの子は優しい子だ。これ以上こちらの世界に関わって欲しくなかった……」

ぴたりと、シャンクスの足が止まって、ゆっくりと彼が振り返った。

「……それ、なまえにちゃんと言いましたか?」

少し、殺気を感じた。

「……いいや」

怒り、だろうか。彼から強い感情を感じた。誰かに喧嘩を売られたのは久しぶりだ……本当に。

「シャンクス……私は買わない」

そう言うと、張っていた肩を落としたシャンクスが、肺に溜めていた空気をはぁ~~と吐き出していた。張り詰めた緊張の糸が一気に緩む。

「一発くらい殴られる覚悟だったんですけど」
「私はもう、そういうのはしない。隠居した身だからな」

「……目、笑ってないですよ」

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彼女の背中を目前にして、息を大きく吸った。

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先に行きます、と目配せをしたシャンクスを見送る。

お待たせ――

突然の登場に驚いたらしい。体を飛び上がらせた彼女がシャンクスの方に顔を向けた。その顔を確かめた後ににっこりと笑みを零す。少しだけ声を尖らせながら言った。

「一体どこまで行っていたの! 溺れてるんじゃないかと思って心配したんだから!」
「あぁ悪い悪い。夜道で暗いから迷ったんだ」
「……もう。でも、何もなくて良かった」

ほっと息をつきながら笑うその横顔は最後に見たときよりも大人びている。時の流れを感じながらも、なまえとシャンクスが話している姿を見ていたら昔の景色が瞼に蘇ってくる。私は自分で思っていたよりも重傷なのかもしれない。……まさか、これ程に焦がれていたとは。

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「あぁ、でも……おかげで懐かしい人に出会えた」

くいっ――シャンクスの顎が動く。真後ろに向くように視線を誘導されたなまえがぽかんとした顔で首を傾げている。

その様子を見ながら、私は空いているなまえの隣に腰を置いた。そして、彼女が振り向くのをじっと待った。

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「……?」

シャンクスが無言でこちらを見ていた。なまえはその視線を辿りながら、言われるがままにゆっくりと首を動かしていく。

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「……久しぶりだな、なまえ」

視線が交わる。彼女の双眸がゆっくりと何度も瞬いていた。世界はこれほどまでに美しかったのかと思えるほど彼女の周りは綺麗に輝いていた。なまえの唇が貌かたちを作っていく――私の名前の、最初のひと文字。それが発せられるのが待ち遠しくて堪らなかった。

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「れい、りー?」

「あぁ、そうだ。君の師匠だよ」

「っ、」

正直、張り手を食らわされる気でいたのだが。それくらい、私は彼女に酷いことをした自覚はあった。まどろっこしいまでに、彼女の気持ちをかき回したのだから。先ほどシャンクスから聞いた話では、なまえはきっと私に腹を立てていると思っていた。

……でも、違っていた。

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「レイリー、レイリー!!」

なまえはそう言って、勢いよく私に抱きついてきた。あれほど人目を気にする子だったのにそんなことはおかまいなしで、彼女は私が倒れそうになるくらいの衝撃で、私に抱きついて……いや、しがみついてきた。そして、彼女は言った。

「ごめん、なさいっ!! 私、おねぇちゃんのこと守れなかった! ロジャー船長と約束していたのに、守れなかった! ごめんなさい!! あの子のことも、私じゃ育てることができなくて。預けて見守ることしか私にはできなくって。ほんとうに、役立たずで!! ごめんなさいっ! ごめん、なさいっ!!」

彼女は、何度も何度も何度も、何度も何度も何度も、何度も、『ごめんなさい』と言った。

「落ち着いて、なまえ……」

「ロジャー船長との大切な約束だったのに、みんなのことを頼むって言われていたのに、みんな……みんな……わたし、逃げてばっかりで、」

泣きじゃくるなまえを落ち着かせるために抱きしめて背中をさすった。それでもなまえは懺悔を続けていたけれど、その声はだんだんと小さくなっていった。なまえの隣に座っていたシャンクスが、どこか悔しそうな顔をしながら、笑っていた。

すぅ――、すぅ――

腕の中から聞こえる小さな寝息。覗き込むとそこにはくったりとしたなまえが目を閉じて眠っていた。

「……あまり眠れていなかったみたいだったんで良かったです」

シャンクスがそう言うと、シャンクスの横に座っていたベックマンがいそいそと立ち上がる。そして、私の腕の中に居るなまえを覗き込んで「本当に眠ってやがる。すごい威力だな……」と、シャンクスの方を見ながらそう言った。シャンクスはそれを煩わしそうに手で払ってかわしながら、彼と睨み合っていた。

 

「レイさん。部屋、連れて行く?」

机を挟んだ向かいに立っていたシャクヤクが言った。

「……そう、だな」

本当に眠れていなかったのだろう。抱え直しても身を捩りもしない。深い深い眠りに入っているようだった。

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シャクヤクに案内されて酒場の中に入っていく。

「この部屋を使って」
「……すまんな、ありがとう」
「いいのよ」

にっこりと笑うシャクヤクに心からお礼を伝えた。ベッドになまえを寝かせて布団を被せる。

「貴方が話していたのって、この子だったのね」
「…………」

振り返ると、シャクヤクが眉根を寄せていた。自分がまいた種だと分かってはいても、こういうときはどうしても苦しくなる。

「気にしないで。気にしてないから」
「……大抵はそう言って本当は気にしているものだ」
「何よそれ、経験則?」
「経験が多いのが、私の美徳でね。張り手のひとつやふたつ……いや、何十とあったさ」
「……ふふっ。……それはこの子の前では言っては駄目よ」
「……いや、長い付き合いだ。ずっと昔にもう気づいているだろうさ」
「へぇ……それでも、この子は」
「少なくとも、張り手は食らわされていないな。残念なことに」
「それは、本当に残念……ね」

貴方の『最愛』を奪った子、なのにね――シャクヤクが落とした言葉が私の胸の中に入ってくる。

誰といたとしても、『最愛』はいつもここにあった。だからと言って、それを伝えたところで、なまえはきっと首を振るだろう。

どんなに、愛していると言ったところで、この腐りきった口から放たれた時点で、それは陳腐な言葉にしかならないのだ。

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