第6話 それでも、突き放されることもあります

考えれば考えるほど分からなくなっていった。こうして恋愛のことで悩むことなど、かつてあっただろうか……。いや、たぶん……これが初めてだろう。

「訓練終了! 午後からは外海へ出る。メンバーはこちらで選抜し、追って連絡するので各自連絡を待つように。では、解散!!」

中将の怒鳴り声にも似た大声が耳の端、どこか遠くで聞こえていた。

「なまえ少尉」
「……なまえ少尉!」

……なまえちゃん

……ついでになまえちゃんが好きだよぉ

だから、ついでにってなんか微妙じゃありません? その時のことを思い出していた。

「聞いているのか、なまえ少尉ッ!!」
「は、はいぃぃッ!!!!」

耳元の怒鳴り声でビクゥッ体が跳ね上がる。抱えていたボードも挟んでいた書類もペンもすべてがバサバサバサッと豪快な音を立てて地面へと落ちていった。

「わっ、ごめんなさい!」
「……まったく、ぼうっとするな」
「……すみません」

中将からのひと睨み。地面に落ちたものを広い集めて、ぺこりと頭を下げる。上から降ってきたのは深いため息だった。

「メンバーを選抜する。手伝え」
「はい!」

 

外海への偵察へはもう何回も来ている。甲板の上。手すりに乗りかかるようにして、腕の中に顔を埋める。頭に浮かぶのはボルサリーノさんのことばかり。

「最近特にぼうっとしているな。何か悩み事か?」

あー……、えっと、そのう……そんな曖昧な声を出しながらゆっくりと振り返る。ん? と首を傾げるその人は訓練中とは別人のようで。

「モモンガ中将……」

普段の中将は普通に優しい。訓練中のあの怒声。最初は一体何なんだろうか、あれ私の目の錯覚かな? と疑ったぐらいだった。

「それで、お前はなんで俺を避けているんだ?」
「……そんなこと、どうでもいいじゃないですか」

顔をうつむけて、再び腕の中に顔を埋める。

「そうは言ってもな……、敵船発見時以外は必ず俺とは離れたところにいる。本部に戻ったら戻ったで、最低限の訓練と雑務をこなして研究所へと向かうだろう。そんなことをされてはな」
「……業務に支障はないと思います」
「中尉、お前は俺の右腕だろう。もう少し話をしようとは思わないのか」
「……思いません」
「……」

数秒の沈黙の後、小さな……とても小さな声で中将が「子供か……」と言ったのが聞こえた。「え?」と顔を上げた。

「お前は俺が育てると言った。お前はもう、俺について来る気はないのか」
「……そうは言っていません」
「じゃあどうしたいんだ? このままの状況が続くのはお前の下の部下に示しがつかんだろう。はっきりと決めろ」
「っ、……」

その通りだと思った。でも、今の私の頭の中は別のことでいっぱいいっぱいで。

「……戻るか?」
「はい?」
「大将黄猿のところへ戻るか、と聞いている」

あっ、と今更後悔しても遅かった。こんなことをモモンガ中将の口から言わせてしまうだなんて、私はなんてバカなことを……

「いや、あの……「いい、分かった。大将には俺から伝えておく。お前は荷物をまとめて移動の準備をしておけ」、……ちがっ!!」

クルリとコートを翻し、早足で歩き去って行く中将の後ろ姿をただ見つめることしか出来なかった。違う、違うんです、そう言おうと伸ばした右手が、虚しく空を掻いていた。私はなんてことをしてしまったんだ。変わりたいと願った私の願いを聴き届けて、自分には何の利益も、徳もないにも関わらず、あの人は私を拾って、ここまで育ててくれたのに。そんな人に対して、私は……私はっ……。

体が崩れ落ちていく。

私はどうしたら――

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