ソードに所属してから数か月の月日が流れた。私は汚職海兵になりきれないまま変わらず過ごしている。あぁ…………違った。これは嘘だ。ひとつだけ、変わったことがあるんだった。
「……何かいいことでもありました?」
高いところから聞こえる柔らかな声に意識が逸れる。歩く足を止めないまま、前を向いたまま、私は速度を落とさなかった。頭の中では、ぴょんぴょんと寝癖を跳ねさせたコビーが構って欲しいアピールをしている。最近忙しいから身だしなみが乱れがちなのだ。彼はその癖っ毛を撫でて直して欲しがる。でも、今日はその手に乗ってあげない。軽くかわして手早く次の予定に移りたい。
「うん。ちょっとね」
後ろ手を掴まれた。ハァ――――こういうときに限って、物事は上手くいかないんだよね……。どうやら今日のコビーは簡単に追及をやめないらしい。
「僕に、話せないことですか……?」
彼がどんな顔をしているのか、見なくとも分かる。犬に例えるなら、頭上の耳がぴったりと畳まれて「くーん」なんて鳴いているところである。……これはこれで可愛いので眼福――いやいや、流されちゃだめだ。
「うん、そうだよ」
「…………どうして?」
「どうしてって、そりゃ――っ、」
身を屈めたコビーの顔が真横からずいっと近づいてきた。驚いて肩がビクつく。真横を見たら目が合って、コビーがにっこりと微笑んだ。その場に腰を下ろして大きな体躯を折り曲げる。上目遣いに私を見つめながら、唇が触れそうな距離までじわじわと迫りくるところ――を振り切って顔を逸らしながら「大したことじゃないからだよ」と言った。そうしたら、頬に手を添えられて、強制的に見つめ合う事態に。
今度はムスリと頬を膨らませているコビー。表情がころころ変わるところも犬っぽい、……可愛いなぁ。つい手が出てしまって、跳ねた髪の毛を優しく手櫛で直していく。…………またコビーの作戦にハマっちゃった――自嘲気味に笑っていたら、ここでいつもならご満悦になるはずのコビーが不満気な表情をしていて不思議で首を傾げる。「ごめん、嫌だった?」と言うと、僕はなまえさんの彼氏なのにつれないですね――コビーが言った。
「……誰が誰の彼氏だって?」
今度はコビーが私の横髪を指で優しく梳かしながら言う。
「……誰がなんと言おうとも、この座は僕のものですから」
「ふはっ、何それ」
つい笑ってしまった。
話を戻そう。変わったこと――それは、ぎこちなかったコビーとの関係が円満になったことだ。円満どころかあれよあれよと関係が進んでしまっていた。うん……。最初は流されて始まった。その後はコビーの猛烈なアタックに折れて、お互い大人だからやりたいようにやればいいや、と開き直っている。
ひとつ訂正しておくことがある。コビーはあぁ言ったけれど、厳密に言うと、私と彼は付き合っていない。彼が一方的に言っているだけ、私たちは所謂セックスフレンドである。
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「随分頻繁にあるのね……」
少し前にあったのに、また王下七武海を集めた会議が行われるらしい。この会議は中将以上が参加する、機密性の高いものだ。私は少将なので参加はできない……が、会場周辺の警備に参加することはできる。
王下七武海は海賊の中でもトップレベルの連中だ。かつ、海軍との関係を維持できる程度には話が出来る奴らである。相手として不足はない。この機会に汚職海兵として彼らに接触をしてみてもいいかも。
「ガープ中将。近々、七武海の会議があるそうですね」
「おー、そうじゃったな。お前のところにも話がいったか」
「えぇ。私の立ち回りはどうしましょうか。下手に顔を合わさない方がよければ……」
「いや、その辺は任せるとセンゴクから聞いておる」
「…………いいのですか?」
「あぁ。好きに動け」
「…………承知しました」
まさかGOサインが出るとは思っていなかった。元帥の許可が出ているなら堂々と作戦を立てることが出来る。
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七武海がマリンフォードにくる日程についてはバラバラらしい。海軍側としては会議に参加さえしてもらえればよいので、前日入りをしてもしなくてもよい。もちろん、それよりも前に来ても良い。その辺はその時の状況に合わせて、だそうだ。
さて――ターゲットはどうしようか。ジュラキュール・ミホーク、この人は説明する必要もないので省くとしよう。バーソロミュー・くま。彼は海軍に協力している人なので味方だ。相手にしても意味がない。次にボア・ハンコック。彼女は九蛇海賊団……というよりも九蛇の首領だ。私の能力は女性には効果がないので対象から外す。海峡のジンベイ、ゲッコー・モリア彼らは各々の信念で動いている。どちらも名を馳せてはいるが、世界に与える影響は今のところ大きくない。次は、砂の国の英雄――サー・クロコダイル。彼はアラバスタ王国を救った男。海賊という立場でありながら善人らしいので、相手として相応しくない――今私が求めているのは、海賊らしい、海賊……悪人だ。
最後に――ドンキホーテ・ドフラミンゴ。事前の情報で知る限り、もっとも手広くやっているのがこの男。裏では協定違反を行っていると分かっているが、そのしっぽを掴ませようとしない。かなりの切れ者だ。組織も大きく、ただの海賊団で済ませられない規模になっている。海軍本部は長年この男を追っている。限りなく黒の男を敢えて七武海に迎え入れ、監視をしていた。情報を探るべく、幾名かの潜入も行われたが壁は分厚い。ことごとく失敗していた。
もしも私がうまく関係を築けたら……、海軍内での自分の立場を強固にできるだろう。
――標的はドンキホーテ・ドフラミンゴに決めた。

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