今年の夏は暑い。寝苦しさを感じぬようにと、夕涼みに川辺に足を運ぶ。川辺は幾分ましだ。夕陽の映る赤い川が眩しい。血のように見えてしまうのは、ここ最近血気盛んな妖を相手にしていた代償か。……まぁ、嫌いじゃないが。
「静司くんは夕陽は嫌い?」
足を止めて振り返る。
「………………」
振り返ったところには誰もいない。
これは違う。記憶だ。
かつて、彼女と共に歩いた日の記憶。もう忘れてしまっていたと思っていた。昨日の夢のせいだろうか。静音さんのことを鮮明に思い出す。鈴の音のような優しい笑い声が大好きだった。構って欲しくて、15にもなるのに、俺は彼女の手を握って引っ張った。
「待って、静司くん」
「足が縺れるから」と慌てる静音さんに、「転びそうになったら支えますよ」と返して、後ろ前になりながら手を引いた。静音さんが半分怒りながらも楽しそうに笑ってくれるものだから、それが嬉しくて、幸せだった。
――あれは、子供のころの恋心だ。……くだらない。そう自分に言い聞かせる。
あの人は結婚していた。祓い屋の男と。でもその男が命を落としてしまって。お葬式の日、静音さんは泣いていた。俺はそれを遠くから見ていた。彼女には愛する人がいて、それは俺ではないと分かっていた。それなのに、目を逸らすことができなかった。彼女が男を思って泣くことが嫌で、辛く。それに加え、一門としてのどうしようもない、やりきれなさも感じていた。同じ一門として、的場家は彼らに何もできなかったのだ。
泣き腫らした静音さんが的場家の門の前で足を止めている。そして、何かをぶつぶつと言っていた。何を言っているのだろうか、そう思いながら、挨拶も兼ねて近づいた。この後、彼女は家に帰ってしまうから、きちんと見送りたいと思って。
「祓い屋なんか……祓い屋なんかに……」
「……静音さん?」
振り返った静音さんが、私の顔を見て、ハッとした顔をした。唇をグッと噛み締めて、まるで、何かを堪えるように。その後、すぐにいつもの困ったような笑顔になって、彼女は言う。
「静司くん。お葬式に来てくれたのね。……ありがとう」
静音さんの両頬には幾筋もの涙の痕があって、私と話をしている間もずっと、彼女の頬には涙が伝って落ちていく。
「静司くん」
「……はい」
「貴方は祓い屋なんかに……」
そこまで言った後、静音さんは口を噤む。
「……?」
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
あの時は、静音さんが何を言いたいか、分からなかったけれど、今なら分かる。あの言葉の続きはきっと――――、

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