トントントンッ、トントントンッ――
心地良いリズム音がキッチンに鳴り響く。休日の朝、暖かな温もりからなんとか抜け出して朝食を作っていた。今日はおにぎりとお味噌汁にしよう。あと梅干し。これが我が家の鉄板だった。
だいたいの下ごしらえを終えて、さぁ、後はお味噌汁だけだ! と気合を入れて大根を短冊切りにしていた時のこと。
トントント……
ふわりと暖かいものが肩にのししかかる。すぐに誰の仕業か理解した私はもう、と声を漏らした。
「モモンガ、今包丁使ってて危ないから駄目だよ」
あぁ……と言葉は返ってきたのに、前に回された腕にはぎゅ、と力が入った。この人はほんとにもう!
「こら、モモンガ! 人の話聞いてる!? 私、包丁持ってるの!」
「……離せばいいだろう」
「朝ご飯、できないでしょ」
「もう少し、あとでもいい」
「いやそれあなたの都合であって、私の……「……なまえ」……っ、もうっ!!」
そんな甘えた声を出されてしまったら、無視できるわけないじゃないか! 包丁をまな板の上に置く。切りかけの大根を見ながら、あぁ……乾いちゃうじゃないと思う。手に張り付いた切りかすを落とすために横へスライドして水道の前へ移動する。その間もずっしりとのしかかったまま、ずるずると一緒に移動する後ろの人になんだかもうおかしくて笑ってしまった。
「そんなにかまって欲しいの?」
「……」
ぎゅ、と今一度抱きしめられる。ふふ、と笑いながらくるりと反転して、腕の中へ頭をうずめた。すっぽりと収まった体。ひんやりとしていた体がぽかぽかと暖かくなった。そのままリビングに置かれていたコタツのところへと連れて行かれる。
「相変わらずの力持ち!」
「お前は軽いからな。もう少し肉がついてもいいぐらいだろう」
「……そんなこと言って、あと数年もしたら重くて持ち上がらないって言うことになるわよ?」
「俺はまだまだ現役だ」
「何ムキになってるの?」
浮き上がっていた体がゆっくりとおろされる。コタツにくっつけるようにして置かれている床置きのソファの上に2人して座った。
「ねぇ、なんでムキになっているの?」
「なっていない」
「嘘だぁー!もしかして、この前のこと気にしているの?」
「……していない」
絶対気にしているでしょ。この前、モモンガよりも下の階級の若い海兵達と飲む機会があったとき、その若さとか、ムキムキの筋肉とか、すごくいいわね~と褒めたことがあった。モモンガはそれを隣で聞いていて、それからどうやら自主的にトレーニングを始めたらしい。……これはガープさんから聞いた話だから一応秘密になっていることなんだけど。
「ほんと? じゃあまた……「それは駄目だ」」
ふふ、ほらやっぱり気にしてる。
「ふ~んだ、モモンガなんか知らない」
心にも思っていなかったけれどそう言ってみれば、う……、とあからさまに困った顔をするモモンガが目に映った。なんて分かりやすい人なのだろうか。
「しかし、なまえ……」
「嘘、嘘!もう言わないから」
「……」
むぅ、と口が結ばれる。からかわれたって気づいたのかな? ハハッと笑って返すと、ソファの背もたれに押しつけられる。ちょっと! 抵抗しているうちに素早くソファの背もたれを後ろに倒したモモンガが上に覆い被さっていた。うぐ、と喉を詰まらせたような声を上げたあと、その人をジトッとした目で見つめる。
「痛い……」
「お返しだ」
にっこりと細められた切れ長な目が三日月を描く。ゆるゆると口元を緩ませて楽しそうに笑う彼を見ていたらなんだかこちらまで楽しくなってきてしまう。
「ふふ、今日は本当に甘えん坊ねぇ」
覆い被さる彼の頬に手を添える。ゆっくりと近づいてきた唇を器用にかわし、頬に口づけた。そのまま頬をゆるゆると押して、彼の体を隣へ誘導する。ボスンとされるがまま体を隣に納めた彼が何とも言えない顔でこちらを見ていた。
「こらこら、まだ朝だぞ」
向かい合うようにして横に寝そべり、にっこりと笑って見せた。彼は仕方がない……というようにして、苦笑いを浮かべ、コツンとおでこを合わせてくる。
「モモンガのおでこ広い」
「……そこはおでこというか、頭だろ」
「ふふ、うん、そうとも言う」
ニシシシッとひと笑い。過ぎていく時間のことなんてすっかり忘れていた。
ゴトゴトゴトッ、ジュッ――
「あ……! 火!」
お味噌汁用の鍋の火を切るのをすっかり忘れていたと慌てて体を起こそうとする。
「ちょ、モモンガ離してよ!」
「自動で切れる機能があっただろう」
「っ、そうだけど、……そろそろさっきの続きしないと朝ご飯食べれないでしょ?」
「まだいいだろう」
ああ言えばこう言う。こういう時の彼はとてつもなく厄介。言葉巧みにかわされるからいつも説得できずじまいになる。
「離してよ~」
もう出る、出るから! と精一杯の力を込めてコタツから……いや、モモンガの腕の中から抜け出そうともがく。でもびくともしない。こうなったら……、彼の両手の先を見つけて親指を握る。そして間接をあらぬ方向へと曲げだした。
「痛い、痛いぞ、なまえ」
「なら離せ、この野郎ー!」
耳元ではクククッと楽しそうな笑い声が聞こえて余計にムカッとなる。その怒りの矛先を全力で握りしめた親指に向けるのだけど、それでもまったく動かなかった。もう! と再び声を上げ、くねくねと体を動かして抵抗する。分厚い胸板を全力で押したり、足で急所を狙ったり(見事にかわされる)、いろいろしているうちに彼の方も少し疲れたようで拘束が緩んできた。腕が緩んだ隙をついてごろんと体を転がす。追いかけるようにして延びてきた両手がくびれをがっしりと掴む。
グィッとそのまま捕まれればもう腹筋が崩壊しそうになった。
「っ、あははははは!! も、もんが、それなし! 無理無理無理。っ、ははは!」
「ここがなまえの弱点か?」
「っ、はっ、ん! もう、やめっ!! これ以上は無理!」
涙目になりながらお願いやめて! と声を上げてモモンガの方を見た。目を爛々と輝かせたモモンガがめちゃくちゃ楽しそうに笑っていた。
「こ、このやろ~~~~!!」
数十分後、ぐったりと横たわった私の隣で「悪かった、ついついやりすぎてしまった」とひたすら頭を下げているモモンガがいたのだった。
「……モモンガなんか、知りません」
「……なまえッ!」
「寄るな~~!!」
160112 End.
Afterword
最後の方はなんかもうこっちが見てられなくて、なんか見てるこっち……いや、読んでるこっちが恥ずかしくなってきます。書いてるときはそうでもなかったのになぁ。そんなわけで読み返せない作品となりました笑
珍しくモモンガと同世代の女の子がヒロインです。年近かったら甘えやすいやろう……ということで。ツンツンな彼がデレッとしたら……もう死にますね(/ω\)…………好き。

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