菜種梅雨
気まぐれでいつもとは違う道を通ってみた。いつもとは違う駅で降りて、いつもとは違う空を見上げて、いつもとは違う風景を前にして足を止める。交差点の赤信号。行き交う人々の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。「もう少しで雨降るってさ」「え、雨?」「明…
赤髪_短編現代
通り雨
それは雨の日のことだった。大粒の雨がトタンで出来た屋根を打ちつける。風が吹けば隙間から冷たい風が入り込んできた。ぶるりと体が震え、はぁ~と息を吐けば白い靄ができた。ほんの気持ち程度にしかならないだろうけど、肩をさすって体を暖める。もう四月だ…
鷹_短編現代
「「充電完了」」
「うぅん?」ヒヤリとした感覚で目が開く。早朝、ぬくぬくと布団にくるまって寝ていた。そのヒヤリとしたものが手であることはすぐに分かった。同時に誰の手かということもすぐに分かった。「もうー冷たいー」今とても機嫌が悪いんだけど……と、あからさまに…
鷹_短編現代
ぼくは(きみと)幸せになりたい
久しぶりに会った彼は、相も変わらず、彼だった。やぁと軽く片手を上げてはにかむその様子は高校生のときとまったく同じ。変わったことと言えば、学生服がスーツになったこと……ぐらいなんじゃないだろうか。……なんて。もちろん年は取っているはずなんだけ…
無音_短編現代
酷いと思ってないの?
朝。いつも通り目が覚めた。隣にはいつもいるはずの人がいなかった。まだ半開きの目を擦りながらゆっくりと息を吐き出して言う。「…………悪いと思ってるなら帰ってくればいいじゃん」::昨日の夜のこと。この夜はいつもと違っていた。いつもなら絶対にすっ…
赤髪_短編現代
くちびるが色付くまで
しとしとと降り注ぐ真っ白なそれはいつの間にか靴先を被い込んで白く染めた。はぁと吐き出した吐息が真っ白に染まって背景の白と一体になる。そうして暗闇の中へと消えていった。それにはたと気が付いたとき、は初めて時計を確認した。「19時……」はぁ、は…
赤髪_短編現代
ひとりで飲んだレモンスカッシュの味もぜんぶこの舌が覚えている
「さようなら」恋人と別れた日。放課後、教室で1人。ジュースを飲んでいた。ガラリ、と開かれた後ろ側の扉。あれ、まだいたのか? 声のする方向へ顔を向けた。「……先生」「もう下校時刻だ、帰れよい」「うん、分かった」ニシッと笑って立ち上がる。ガラガ…
不死鳥_短編現代
恋するという気持ち、愛するという方法。
「あれ? ちょっと、お父さん知らない?」「ん、知らないよ?」「俺も知らない」「え~~…………」玄関に立つ我が子2人。娘と息子。私と彼の宝物。今日は可愛い娘の高校初日の大切な日だった。「もう。あれほど言っておいたのに」「お母さんいいよ。私もも…
副船長_短編現代
君の虹彩に捧ぐ僕の醜態
トントントンッ、トントントンッ 心地良いリズム音がキッチンに鳴り響く。休日の朝、暖かな温もりからなんとか抜け出して朝食を作っていた。今日はおにぎりとお味噌汁にしよう。あと梅干し。これが我が家の鉄板だった。だいたいの下ごしらえを終え…
中将_短編現代
淋しい宇宙を飼い慣らす
クロコダイルが私を好いているらしい人伝いに知った。クロコダイルが私のことを好いている? 当の本人からすれば『本当に?』と何度も聞き返したくなる話だった。どうせ尾ひれ背びれがついた噂話だろう。その時はそう飲み込んだ。だって、クロコダイルと私は…
鰐_短編現代