Sir Crocodile Root 1/2

「こ、こんにちは」
「……」

ギロリとこちらを見る目にビクビクと体が震える。なぜこの人が私を指名したんだ。見上げる顔。身長は私の倍あるんじゃないだろうか……。いや、それは言い過ぎだとしても、それにしてもデカい。

コツコツ――

サササッ――

コツコツ――

サササッ――

コツコツ――

サササッ――

そうやって、近づいて来られる度に後ろにさがれば、その度に眉間に皺が寄っていく。

「おい、てめぇ。名は」
「……なまえと申します」

スゥ―― ハ――

モクモク煙を出していたそれを男は一気に吸い込み、吐き出す。肺の煙をすべて吐き出した後、私はなんと怒られるだろうかと想像し、身を震わせた。

「俺はクロコダイルだ」
「……存じておりますが……」

知らない方がどうかしている。元王下七武海、サー・クロコダイル。一国を手玉に取っていた男。私とでは器も何もかもが違う。もちろん、性別も違う。故にこの状況。やっかいなことに指名された。蹴るなんてこと、怖くてできない。煙をすべて吐ききったクロコダイルは私の予想と反して、用意された2人がけのソファーにドッシリと腰を置いた。ふかふかのソファーが深く沈む。こんな人に付かれたら、私壊れてしまうんじゃなかろうか……。始まる前からはしたないと思いつつ、先のことを心配してしまう。先ほどとはまた別の意味で体を震わせていたら、こっちへ来いと呼ばれた。

「……はい」
「座れ」
「……」

少しだけ間隔をあけて座る。いや、だって、初対面だし。正直、恥ずかしい。モクモクと室内を漂う煙は上品な香りで、やはりタバコと葉巻は違うのだろうかとそんな疑問が頭の中に浮かんだ。クロコダイルが息を吐けば煙が出る。煙はモクモクと形を変えて、最後には部屋の空気の一部となって消える。なんか面白いな……。何となく、ぼーっと見つめていた。

「……嫌いか?」
「え? ……い、いえ」

意表を突く一言に慌てて首を横に振った。そうか――また煙が生まれていく。この人、ヘビースモーカーなんだろうなぁ。

「そんなに吸っているってことはやっぱり美味しいんですか?」
「あぁ? ……あぁ、そうだな。吸ってみるか?」
「いえ、それはさすがに」

いいですよと両手を振って遠慮する。

「……なら、味わうぐらいさせてやるよ」

味わう? 首を傾げれば、頬に伸ばされた手。鰐のような目が私を見て笑う。捕食者の目だ。ドキリと胸が鳴る。

「お姫様は何にでも興味を持たれるから面白い……」

以外にも役柄に忠実なこの男。ヒラヒラのドレスを着せられた私は、年の離れた旦那、つまり王様に今まさに食されようとしている。そんな光景。王といっても彼の衣装は普段のまま。けれど、センスがいいようで、とても魅力的なおじ様だった。初めてみたときに「あ、かっこいい人」なんて思ってしまった。次の瞬間には恐怖で満たされたんだけど。

「今宵はどういった趣向で?」

そう言うと、私の答えを待っているようで、早く言えと目で私をせかした。腰の低い言葉の筈なのに、この人が言うとなぜか圧力をかけられているように感じる。それにしても、どうやら私が答えないと物語は進まないらしい。

「……っ」

けれど、自分でして欲しいことを言わされるほど、羞恥心をかき立てられるものはなく……。みるみる赤く染まっていく顔。言うのには自分の恥と戦わなければならない。くそうと恥と戦っていれば、ニヤリと笑う男。この人はどうやら癖のある方らしい。

「……甘くて、蕩けるのが、いい」

絞り出すような声で言えば、クククッと低い笑い声。あぁ、なんて楽しそうな顔。なんて意地悪な人。

「姫のためなら……」

ペロリと一度唇を嘗められる。生暖かい。目を閉じれば、すぐに重ねられた唇。軽いキスなんて通り越して、すぐに舌が進入してきて、あの煙の味が口の中に広がる。

「――ッ! に、にがっ」

びっくりして、両手で押せばすぐに舌が離れていく。

「味わいたいと言ったのは姫だろう」
「言ってはないです!」
「甘くしてやるからおとなしくしていろ」

有無を言わさないと目が言う。離れた体は彼の腕で引き戻されて、すっぽりと腕の中に埋まる。顔を上げればすぐ近くにある彼の顔が嬉しそうに笑っていて。素敵だなんて思ってしまった。でも、次の瞬間にはまた口内に苦みが広がって、腕の中でモガく。

「ん~! ん~!」

しばらくして解放してもらえたときにはもう頭の中が真っ白で、お願い通り、私はすでに蕩けていた。いじめ甲斐のあるやつだとボソリと言った彼を拒否するすべなんて私にはもうなかった。

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