Momonga Root 1/2

「初めまして」

思わず立ち止まって凝視してしまうほどその人の髪は個性的だった。金髪パイナップルのあの人も凄いけど、この人も凄い髪型。加えて縦縞スーツ。私の目を釘付けにしたその人は扉を閉めて中に入ってきた。

「えと……」
「モモンガと言う。階級は中将だ」
「じゃあ、モモンガ中将でいいですか?」
「それでいい」

これは私が言うのも変な話だけど。モモンガ中将の態度を見ていたらなんか嫌々来ているようにしか見えなくて……私の気のせいだといいんだけど。

「あの、もしかして嫌々来ていませんか?」
「……」

無言だ。どうしよう、気のせいじゃないかもしれない。私どちらかと言えば受けだから、攻めるの慣れていないんだけど……でも一応お客さんだし。今回は攻めた方がいいのかな……

「取りあえず座りますか?」
「……そうだな」

備え付けのソファに座る。流れるのは沈黙。き、きまずい。

「何か飲み物でも?」
「……酒はあるか?」
「はい、ありますよ。何飲まれます?」
「ウィスキーでいい」
「はい」

意外だなぁ、海軍中将が昼間からお酒を飲むなんて。……いや、それを言うなら昼間からこんなところに来る方が意外かな。大抵みんな夕方から夜にかけて来るし。取りあえず特例だとか言って叩き起すのは今回ぐらいにして欲しい。でも海軍には治安の面でお世話になっているからあんまり文句言えないんだよねぇ。

コトンッ

グラスの音が部屋に響く。それからはまた沈黙。私にどうしろと?そりゃまぁ時間制だからダラダラ過ごすだけっていうのもそれはそれでいいんだけど。でも……

「……すまんな」
「えっ!?」

モモンガ中将はグラスのウイスキーを飲み干すとテーブルにグラスを置いて言った。

「私はこういう店には来たことがない」
「そうなんですか? じゃあなんで今回は来ようと思ったんですか?」
「……色々あってな」
「色々……?」
 
 
 
 
 
:
:
 
 
「ぷはははっ!!」
「笑うな」
「だって、だって! 何ですかそれ! 勝ったらいい商品が出るという賭けに酒の勢いで参加したら勝ってしまってここに放りこまれただなんて!」

続けてそれなら他の人に譲ればよかったじゃないですか~なんて言えば、苦々しい顔をする中将が口を開く。

中将ってこういう店行ったことないんじゃないですか? それでしたらぜひ行ってきて下さいよって、みんなに言われたらしい。

「それじゃあ、これは罰ゲームみたいなものですね」

ふふふ。おかしな話ですね! と笑う。どうやら頭に酒の回り始めたモモンガ中将が確かにおかしな話だよと笑ってくれた。良かった。笑ってくれたと安堵する。

「それなら楽しくお酒を飲んで行くだけでも私はかまいませんよ?」
「そうか? なら、そうするか……」
「はい、好きにくつろいで行って下さい」

……と言ったのは今から10分前のこと。ちょっとハイペース過ぎないかと思ってはいたけど……まさかこんなに酔ってしまうとは。

「大丈夫ですか?」
「……あぁ」

日頃のストレスだろうか? やっぱり中将ともなると色々と大変なんだろうなとちょっと心配になってしまう。

酔い覚ましに冷たいタオルと水を出して、背中に手を置く。ゆっくりと撫でればすまないなと一言。とても優しい方なんだろうなと思った。

「きっと疲れていたんですよ。たまには休まないとダメですよ」
「……そうだな。この仕事だとなかなか気の休まることがないからな。どこかで息を抜かねばならんとは分かってはいるんだが……」
「あはは、モモンガ中将は気難しく考え過ぎです。もう少し……、そうですね。海賊の皆さんを見習ってもう少しわがままになってもいいんじゃないですか?」
「……海賊だと?」
「はい。私は仕事柄、海賊の方のお相手もしています。皆さんそれはそれは個性的な方ばかりで、どの方々も生き方が大胆で笑えてきますよ。そういうところはとても尊敬しているんです」
「……」

海兵相手に海賊の話はちょっとまずったかもしれない。と言いながら思ったけれど、口から出ていく言葉が止まることはなく。途中まで言ってしまったし、もう今更止めても遅いと思って最後まで言い切ってしまった。どうか、気分を悪くされませんように。

「……海賊の相手もしているのか」
「え、はい」

「そうか……大変な仕事だな」
「……いいえ。そんなことないです。皆さんとても優しい方ばかりですから」

「こんなことを会ったばかりの相手に言うのも失礼かもしれないが……」
「はい?」

「俺はあなたに海賊の相手をして欲しくないと思う」
「……なんでまたそう思うんですか?」

「……俺が嫌いだから、だろうな」
「ふふふ、モモンガ中将は思ったよりも強引な方なんですね」

「おかしいか?」
「いいえ、他の海兵の皆さんも同じようなことを言って下さいますから」

そう言えばパチパチと目を瞬かせながらこちらを見る中将。視線が合うと、すぐに苦虫を噛んだような顔に変わる。

「そうか、ここはそういう場所だったな」
「はい、そうです。ここはそういうお店です」

ふぅ~と息を吐くと中将は腰を上げてソファから立ち上がる。

「お帰りですか?」

立ち上がって後ろを追いかける。

「やはり俺はこの手の店は苦手だ」
「それはなぜです?」

「欲しいと思ったものを手に入れるまで俺はきっと通い続けてしまう。俺のような男こそ、こういう店にどっぷりハマってしまうんだろうな」
「だからハマる前に去ろうと?」

「あぁ……」
「賢い方ですね」

サササッと中将の前に回り込み、ふふふと笑ってクルリと回る。立ち止まった中将に向かって一言。

「では最後に質問です。この服は中将のご趣味ですか?」

軽く首を傾げれば頭に指したかんざしがリンッとすゞやかな音を立てる。何十にも着飾った布はキラキラと輝いており、綺麗に結び上げられた帯は彼女の美しさを引き立てていた。加えて気品ある振る舞い。それはとても魅力的だった。

「あぁ」
「こんなのどこでお知りになられたのですか?」
「少し前に知り合いから聞いた。舞子というものなんだろう?」
「えぇ、そうです。和の国の文化です」

胸元に指していた扇子を取り出し広げる。軽く舞うように動かせば中将の目が私に釘付けになるのが分かった。私も悪い奴だなと笑ってしまう。

「私、舞子の格好をするのは初めてです。普段は普通の着物を着ているだけなので」

どうです? 似合っていますか? 先ほどとは違って、誘うように中将の顔を見上げれば、彼の喉がゴクリと鳴ったのが見えた。

「中将。まだ帰らないで下さい」

離れていた距離を詰め、ゆっくりと厚い胸板に手を伸ばし、寄り添う。そうすれば戸惑いつつも中将の手が伸びてきて肩を抱かれた。しばらくして降ってきたのは小さな笑い声だった。

「やられた……」
「中将?」
「こんな風に誘われては断れないではないか」
「ふふふ、ちょっと意地悪でしたか?」
「……そうだな。だが、もうそれもどうでもいい」

「え?」

スッと顎を持ち上げられ、視線が上へ向く。目が合うと中将の目が細くなり、口元はうっすらと弧を描いていた。

「あなたは美しい」

――――ッ!?

ストレートな彼の言葉は先ほどまで先攻していたはずの私の心を揺さぶる。余裕なんて一瞬で消え去り、その隙をつくように彼の唇が私の唇に重なった。

「ん……」

その行為は熱く。思っていたよりも情熱的で私の体を熱くした。キツく絞められた帯でいつもより息がしにくいせいか、息が長く持たなかった。もうだめ……と彼の胸を押して顔を離すと、あぁ、すまないとぎゅっと抱きしめてくれた。

「ついつい夢中になってしまった」

再び向き合うと中将がう~んとうなり声を上げる。

「どうしたんですか?」
「あー……そのな。俺は不器用なんだ」
「はい?」
「一度始めたら止められる自信はない。それにどういうわけか、いつも相手が泣いてしまう」
「……はい」
「でも、ここでやめられそうにもない」
「……はい」
「あなたを抱きたいのだが、いいだろうか?」
「っ、」

ここまで正面切ってそう言われたことがなかったので、なんだかこっちが恥ずかしくなってしまう。視線を少し動かしたあと、コクリと頷くと、そうか、それは良かったと中将が笑ってくれた。

「こっちを向いてくれ」
「……はい」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!