腕の中の温もりは弱々しいながらも呼吸をし、しっかりと俺の服を掴んでいた。遠くでいくつもの金属と金属が重なりあう音が聞こえる。
――なまえ、お前は幸せになりたいか
――幸せって何なの? 私、よく分からない
城でお前はそう話していた。俺とお前は似ているのかもしれない。話せば話す度にそう思わされた。そう思う度に感情が膨らんでいった。この女が哀れで、少しばかり気になるようになっていった。
「なまえ、お前は幸せになりたいか」
誰に聞くわけでもなく、小さな声でそう呟いた。
――じゃあドフィは今幸せ?
――ん、まァな。
――いいなぁ。私も幸せになりたい
俺はお前が側にいてくれたら、それだけで幸せだった。
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パッチリと目が覚めた。不思議なぐらい視界がクリアだった。見たことのある部屋だった。
「あ、ドフィ~なまえが目を覚ましたよ~」
「とれぇぼる?」
不思議と名前が頭の中に浮かんできた。
「おぉ、治療の甲斐があったんねー、ドフィ」
部屋の中に入ってきた巨体に首を竦めつつ、顔を見上げた。
「フッフッフッ、ようやくお目覚めかァ」
「なまえ、だるい? 熱は? んねー?」
「ちょ、落ち着いて。えと、トレーボルであってる?」
合ってる、合ってると笑ったその人は鼻水を揺らしながらこちらに近づいてきて、私の額に手の平を置いた。
「ん、んん、大丈夫そうんねぇー」
「そうか、そりゃァ良かった」
笑う二人をただ呆然と見つめた。なぜ、どうして? 記憶がある。体調も良くなっている。私は神の居る神殿にいたはず。でも、ここは。首を回して一通り部屋を見回した
「ここは俺の城だ」
そう、神の神殿に行く前にいた部屋だった。
「……どうして?」
「……さァ、な。俺は気まぐれだからなァ」
ドフィはそう言うと、小声でトレーボルに何かを伝え、彼を部屋から出した。相変わらず不気味な笑顔だなとこちらに向かって歩いてくるその人を見た。
「心配しなくてももう何もしねぇよ」
「……でも気まぐれなんでしょ?」
「フッフッフッ、変わらねぇな。お前は……」
グシャグシャと乱暴に頭が撫でつけられる。彼が何を考えているのかよく分からなかった。
「しばらくしたらこの国は戦場に変わる。その前にお前は帰れ」
「……え、帰るって?」
「あいつのところに行きたいんだろ?」
「う、ん」
なぜだろう。それが私の望みなのに、素直に喜べなかった。その理由は目の前の人がひどく辛そうな顔をしていたから、なのかもしれない。
「なまえ、幸せになれよ」
「……ドフィ?」
「俺たちのこと、過去のことはすべて忘れろ。これがあれば、お前はもう泣かなくてすむ」
そう言って、ドフィは私の頬に手を添えた。懐から小さな包み紙が出てきた。それはアメではなくて、チョコレートで、今までのように口移しで放り込まれることなく、彼の細く長い指によって口の中に放り込まれた。
口の中には甘くて苦い味が広がった。
未だ頬に手を添えたまま、ドフィは考え込むような表情をしていた。額に眉がより、瞳がわずかに揺れていた。
「なまえ、元気でな……」
意識を飛ばす直前、ドフィは強く抱きしめながらこう言った。
「愛していた……」と。

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