第4話 再会

なまえは熱々の焼き鳥を落としてしまわないように駆け出した。少しでも早くミホークさんのところに行かないと――と。そういうときこそ、落ち着いた行動をするのが大切なのだと口を酸っぱくしてミホークに言われていたにも関わらず。そして、案の定、彼女は足を縺れさせてしまうのだった。

 

 

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― なまえ視点 ―

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ガクン――と視界が落ちた。焼き鳥が飛んでいくのを止める余裕もない。 せっかく買ったのに……なんて言っている場合じゃない、手に焼き鳥を持っていたせいで動き出しが遅れてしまった。スローモーションに地面が近づいてくるのを感じながら、何となく感じたことのある感覚に見舞われる。これは……デジャブ? いや、違う。ちゃんとあった。私がまだ島にいたときに、これと同じようなことがあった。

あの時は確か――

「おーおー、あぶねぇなァ」

反射的に閉じて瞼をゆっくりと開く。……あれ? 私、転んでない? 誰かの声が傍からして、痛みを感じてないことに驚いて、ミホークさんの声じゃないって理解して、それでようやく、知らない誰かに助けられたと理解した。

はじかれるように顔を上げると、私はまだその知らない人の腕の中に居た。

「大丈夫か……?」
「えっと、はい……すみません。ありがと、う……」

「あ……」「え……」

「マルコ!?」
「なまえ!?」

知らない人じゃなかった。知っている人だった。かつて一緒の船に乗っていた私の大事な人、金色のパイナップル頭の不死鳥のマルコだった。

「なまえだって!?」

ひょっこりとマルコの後ろから顔を出したのは金髪のリーゼント頭。

「ささ、サッチ!?」

噓でしょ、まじですか。本物ですか? え? 何度も何度も二人の顔を交互に確認する。……変わっていない。二人とも年を取って皺が増えているけど、全然変わっていない。それは、2人からした私もそうだった様子。

「なまえ! お前、変わってねェなァ!」

サッチが飛び切りの笑顔でそう言った。なぁ? と同意を求められたマルコもとても嬉しそうに笑いながら「大きくなったねェい」と一言。

私は二人が本物で、今目の前に実在していると実感した途端、嬉しさのあまり破顔した。

「ふぁあああっ! マルコぉ! サッチぃ!」

今となっては懐かしき思い出。私が白髭海賊団の船に乗るきっかけを作った二人だ。マルコはあの日、海賊に追いかけられていた私を救ってくれた。その時と同じよう支えてくれている。私の体が大きくなっていたって変わらないようだ。びくともしていないところはさすが。

久しぶりに会えた友人に興奮が止まらない。

自分の2本足でちゃんと地面に立った後は、二人に両手を伸ばした。二人は何をやりたいのか心得てくれたみたいで、腰を折ってくれた。私は二人の首に両手を回して、ぎゅうぅぅと強く抱きしめた。……どうしよう。すっごく嬉しい。未だに興奮収まらなくて、アドレナリンが溢れ出ている感じがする。

「おいおい、落ち着けよい」
「落ち着けるわけないよ。何年振りだと思っているの!」
「え? あ――。何年ぶりだ?」

マルコが数えるように上を仰ぎ見つつ、隣にいるサッチに目を向けると、彼が首を横に振る。それを目に留めて自分の頭で計算する。

「えっと……たしか16歳だったから、約10年ぶり?」

「え、――ってことは、なまえはもう25歳超えてるのか?」
「そうだけど?」

信じられない! そんな目で二人が私を見てくる。

「何……その目は」
「いや、わりぃ。俺たちと居たときはもっとこう……」
「幼かったって?」
「ん、あぁ。そうだよい」

なぁ? と互いに顔を見合わせる様子に笑みが零れた。まるであの時に戻った気分。彼らの関係はあの時のままらしい。すごく安心する。

「10年もあれば人は変わるよ」
「あんときのマスターは良くしてくれなかったのか?」

「よくしてくれたよ。それに……」

そこでようやく、ミホークさんのことを思い出した。しまった、ミホークさんのところに戻るところだったのに。慌てて周囲を見回すけれど、彼の姿は見当たらない。もしかしたら身を潜めたのかもしれない。

考えてみたら当然だ。だって、マルコとサッチは指名手配中の海賊で、あの白髭海賊団の隊長達だ。彼らがここにいるということは、必然的に……。どうしよう。もしかしてミホークさん、船の方に向かったんじゃないの?

「なまえ……?」

急に黙り込んでしまったせいで、二人が心配そうにこちらを見ている。……なんて言おう。

「ごめん。二人に言わないといけないことがある」
「……どうしたよい?」
「私の連れについてなんだけど」
「……連れ?」
「実はその人が海賊刈りでして……えっと、それでついさっきまでそこに居たんだけどいなくなっているのね。そんなことする人じゃないとは思うんだけどさ。二人の姿を見たからもしかしたら……」

「そういうことはもっと早く言えよい!」
「いや、ほんとごめん! 私も今気が付いた」

「じゃあ取り敢えず船に戻った方がいいな」サッチがそう言うと、マルコが頷く。

「なまえも来るかい?」
「え? あ、いや。私は残るよ」
「そうかい……」

今ついていったら後ろ髪を引かれて戻って来られなくなるかもしれない。それくらいあの海賊団が大好きだ。だから、……今はやめておこう。

サッチが言う。

「えぇと。その男は有名なやつか?」

はは……有名も何も、

「王下七武海――鷹の目のミホーク」
「――は? 鷹の目? ってあの海賊狩りの鷹の目のミホークか?」
「うん、そう」

まじかよい。マルコが悪態をついた。そして、サッチの視線が……痛い。

「なまえ、それじゃあ俺たちは……」
「ごめん……」

としか、今は言えない。

すっかり眉間に皺を寄せて険しい顔になった二人が「今は兎に角親父に知らせに帰る」と踵を返す。何か言いたげなマルコに対し、サッチが「早く行くぞ」と急かした。

ミホークさんと一緒にいるということは、2人にとって、いや……白髭海賊団にとって、私は相容れない存在になる。

「じゃあね。二人とも。会えてよかったよ」

悲しい。……けど、こればっかりは仕方がない。

「あぁ、じゃな。船に戻るよい」
「……うん。親父さんによろしく伝えておいてね」

あぁ、悲しい。胸が抉られそうだ。話したいことがいっぱいあるのに。聞いてほしいことがうんとあるのに。まだ、二人と話をしていたいのに。

「そんな顔するなよ、なまえ」

マルコがポンと私の頭に手を乗せて言う。

「まだもう少し島にはいるのかい?」
「え? あ、うん。着いたばかりだから……」
「なら、また連絡するよい」

「おい、マルコ! いいのか!?」
「じゃあサッチ、お前は抜きな」
「はぁ!? そんなの許さねぇぞ!」

ふふっ――堪らず笑みを零すと、マルコもサッチも笑った。そして二人で何やらこそこそと話をしている。

「まったくもう! 俺は知らないぞ!」
「あぁ、俺が親父を説得するよい」
「へぇへぇ」

話がまとまったらしい。今度は、先ほどと打って変わって晴れやかな顔をしたサッチがポンと私の頭の上に手を置いた。

「その時に鷹の目との関係しっかり聞かせてもらうからな!」
「うん。話すね」

そうして、騒がしくも懐かしい彼らとの再会は幕を閉じた。

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