「ありがとう、助かったっポー」と言われてなんとも言えない気持ちになるのは私の心が狭いから……?
ハットリを肩に乗せて見送ってくれるルッチさんに手を振りながら振り返る。隣には……
「わしからも礼を言う。ありがとうの」
にこやかに微笑む笑顔。……あれ、おかしいな。反芻していた記憶の3割増しくらいに爽やかで素敵なのですが。私の目……どこか壊れてる……?
今の私は「重そうじゃ」と往診のカバンを取り上げられ、隣には『あの人』が歩いている状態。ここまで来たら話の流れで名前くらい聞いてしまえるのでは……? よし、今だ! と気合いを入れてやっぱり言えずに撃沈してを繰り返してもう何度目か……分からなくなってきている。
まぁそれくらいには話をしながら連れ立って歩いていた。
「ここまでで大丈夫です」
正門のところで振り返って足を止める。ガレーラカンパニーの敷地はとても広く迷いやすい。だから門のところまで送ってもらったのだ。
「そうか。ではこれを」
「はい。お手数をお掛けしました。ありがとうございます」
往診のカバンを受け取る時、ほんの少しだけ触れた指先。僅かな体温を感じて胸が高鳴る。あぁ――どうしよう。顔赤くなってないかな……あんまり見られたくないや。ほんの少しだけ視線を下げて今一度頭を下げた。
結局名前を聞くことはできなかったけれど、隣を歩いてお話をすることができただけでも嬉しかった。すぐ近くにつけているヤガラの船に向かいながらゆっくりと顔を後ろに向けると、まだそこにはあの人が立っていて、目が合うとニッと笑って手を振ってくれた。
うぅ……そんな風に優しくされたら好きになっちゃうじゃん! ――やっぱり私はあの人のことが好きだということが分かった、そんな一日だった。

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