やさしいひとのやわらかい嘘

今ならえいえんを上手に交わせる

小さく返した頷きに、カクさんはとても喜んでくれて、連れ出されるようにして腕を取られてBARを抜け出した。鳴り止まない心臓の音がやけに五月蠅い。カクさんは静かに隣を歩いていた。二人はいつの間にか恋人繋ぎをしていて、私はふらつく足を支えてもらっ…

いついかなる時もさみしいひとのために

「あのう……」と声を出すとほぼ同時に、カクさんの指が頬に触れた。視界にはゆっくりと瞬いて頬を緩めるカクさんの姿があって、私は驚きのあまりに瞬きも出来なかった。カクさんの指が横髪を優しく梳いていく。「さらさらじゃのう」またカクさんが独り言のよ…

えいえんって3回唱えてえいえん

このひとときが永遠に続けばいいのにそう思うくらいには幸せなひとときで、傍で無邪気に笑う彼は本当に素敵で、大工仕事のなんたるかを語る様子はとても微笑ましい。自分の仕事に誇りを持っているのがよく分かった。時折向けられるこちらを見透かすような透明…

泥濘のじゃれ合い

「それでね、もういいやって」「え! それで別れたのッ!?」「…………うん」「いいの? あれだけ好きだって、幸せだ~~って言っていた彼じゃない」「でも……会えないのは辛いよ……」「…………そっかぁ」彼氏歴最長2年という私が言えた口ではないけれ…

胸底でまばたく梨礫

「おまたせっ!!!」「遅〜い!」「ごめん!! 仕事が長引いた!! お詫びに奢る!!」「ならばよし!!」「助かる!!」今日は友人と夜ご飯を食べに行く日。明日から1週間の連休をもらうということで仕事を納めるためにばたばたしてしまった。大遅刻だ。…

えいえんという音に騙される

「ありがとう、助かったっポー」と言われてなんとも言えない気持ちになるのは私の心が狭いから……?ハットリを肩に乗せて見送ってくれるルッチさんに手を振りながら振り返る。隣には……「わしからも礼を言う。ありがとうの」にこやかに微笑む笑顔。……あれ…

失くしたと思っていた心臓

あぁいうのを格好がいいというのだろうか、その時のことを脳裏に思い出しながら、もはや実際にどうだったのか正解が分からなくなるくらいにはしたなぁと感慨深くなる。あっという間のことだったから本当に現実に起こったことだった……よね? と思えて来るほ…

夏を齧る

名前も知らないその人と出会ったのはいつだったか……1ヶ月くらい前だったと思う。私の仕事はヤガラ専門のお医者さんで、その往診中に出会った。ヤガラの往診に向かった家の隣は小洒落たBARで行ったことはないけれどそこそこ人が入っている。そこから出て…

透けて消えるまばたき

人が人を好きになるのに理由なんて必要ないよねぼんやりとそう言うと友人が「まーた変なこと言って」と揶揄い交じりに笑う。確かに私は変わり者で有名であるけれど……でも、それとこれとはまた別の問題だと思っている。と言ったところで友人はまた笑うだけだ…