「それでね、もういいやって」
「え! それで別れたのッ!?」
「…………うん」
「いいの? あれだけ好きだって、幸せだ~~って言っていた彼じゃない」
「でも……会えないのは辛いよ……」
「…………そっかぁ」
彼氏歴最長2年という私が言えた口ではないけれども、友人は一人の彼氏と長年連れ添っていて、きっとその彼とこの子は結婚するんだろうなぁと思っていた……のに。決めるのは当人達だから私がとやかく言うべきではないと思うけれど。……でも、なんだかしっくりこない。
「あのさ……」
「ん?」
「今更かもしれないけれど」
「うん……」
「お節介かもしれないけど」
「……何よ。早く言ってよ」
「…………ついていったらいいんじゃない?」
「…………え?」
「彼がさ、ウォーターセブンを離れるって言うんなら、一緒についていったらいんじゃない」
「でも、私はここに……」
「仕事なんて何でもいいじゃない。なんなら、お金貸すよ? いつか返してくれたらいいし」
「…………なまえ」
「私、後悔して欲しくない。友達として、幸せになって欲しいって、心からそう思ってる」
「っ、」
「もしかしてもう間に合わない、かな……?」
「ううん! 大丈夫! 気が変わったら来てって。彼も……」
「なんだ……! じゃあ彼もついてきて欲しかったんじゃない?」
「でも何も……」
「そりゃ言えないでしょ。自分の勝手に振り回すことになるし。彼、すごく優しい人でしょう?」
「…………うん。すごく、優しいんだ……」
「じゃぁさっ! 行ってきなよ!」
「え、今っ!?」
「うん。今! いますぐ!」
「でも、なまえは……?」
「私はいいよ。適当に誰か捕まえて飲むなりなんなりするし。独り身は身軽だから大丈夫!」
「っ、」
「いいから、ねっ?」
ぽろぽろと涙を零しながら、ほろ酔い加減の友人の腕を取る。表に出てヤガラタクシーを一台ジャック。彼の家のすぐ近くまで送っていくようにお願いした。連絡は自分で出来ると言うから、私はここまで。
「また後で連絡してくれる?」
「……うん。結果、連絡する……」
ずぴぴぴぴ――酷い顔をしてるけど、と笑いながら彼女を見送った。どうか、上手くいきますように……。
見上げた夜空は深い紺色で、煌々と光る街灯に照らされて星は見えなかったけれど、水面に映った真ん丸のお月様がまるで絵画のように美しい。もう数時間もすれば街は静まりかえる。辺りの光は消え失せて夜空の星々が輝く時間がやってくる。その時間が好きだった。
「どーしよっかなぁ」
先ほどのBARに戻ってもう一杯飲もうかなぁ、と振り返ったところ、ぱっちりと目が合った人が居た。
「あ……」「おぉ!」
奇しくも『名前も知らないあの人』に再び会うことができた。
「この前は助かった!」
「いえ、仕事ですから。ハットリくんの調子は……」
よくよく見ると、隣に立つ人はルッチさんと、その肩にはハットリが乗っていた。二人は仕事の帰りのようだ。
「きゃあ相変わらず綺麗な艶! こんばんは、ハットリくん。ちょうどいいところに。ちょっと触診してもいいですか?」
柔らかく微笑んで腕を伸ばす。許可を求めるようにルッチさんの方に視線を向けていたら、バサバサバサ――とハットリが腕に飛び移ってきた。
「よしよしいい子ね。ちょっとごめんね……」
「な”! ハットリが懐いとる。おぬし、なかなかやるのう……」
「そうですか~?」
「ハットリが人の腕に乗っているところを初めてみたっぽー」
「…………え、初めてですかっ!?」
それは確かにびっくりだ。そんなに神経質な感じには見えないけれど……まじまじとハットリを見ながら触診していく。嫌がる素振りのなく大人しいので大変助かります。……うん。特に問題はなさそう。気になっていたところの経過も良好な様子。良かったと胸を撫で下ろした。
「ん、ひとりか? わしらこれからそこのBARに行くんじゃ。この前のお礼に奢るぞ」
ちょいちょいと指で示されて、先ほどまでいたBARの方向に視線が動く。まさかこんなタイミングで誘って貰えるなんて……。どうしよう、なんて考える間もなく、喰い気味に「ぜひ!」と答えた。あぁきっとほろ酔いでお酒の勢いっていうのもあったと思うけど。
「あ、でも。お代はしっかり頂いているので、奢りはいいです」
「そうか? じゃあ、ナンパってことにしようかの」
「え?」
ナンパ……ナンパ? え、ナンパって、『あの』ナンパ? 男の人がが女の人を口説いて誘うっていう。…………あれですか? え、……これは現実?
「あれ? あのう、おねぇさ~ん?」
「くるしいっぽー」
「あ、ごめんハットリくん!」
またも腕にいるハットリくんを潰しかけてしまった。慌ててルッチさんの肩に戻す。
「じゃあ俺は先に帰るッポー」
「おう、また明日の」
からからと笑いながらルッチさんに手を振る様子を見守りつつ、頭の中を整理する。…………ん? まさか、二人きりですか!! いきなり!? 嘘でしょう。心の準備できてな……。
「よし、じゃあ行こうか」
「は……い……」

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