吐いた感かくでもう胃がざわめきそう

みょうじなまえが目覚めた。その吉報のち、十三番隊隊長、浮竹十四郎が目を覚ましたという報告が、護廷十三隊、全隊内を駆け巡った。その後、一週間の時を経て開かれた隊首会。その場には、永らく続く欠席から復活を果たした、浮竹十四郎の姿があった。

 

「浮竹ぇ……!」

浮竹の目覚めを誰よりも喜んだのは親友の京楽春水だった。隊首会会場前の廊下で待ち伏せていた彼は、浮竹の顔を見るなりに嬉しそうに背中を叩く。

「――っ、こら京楽。痛いじゃないかっ!」
「いいじゃないの。これくらい!」

そう言って、京楽はバッシ、バッシ、浮竹の背中を叩く。

「ちょっと、京楽隊長! それはあまりに失礼ですよ!」

傍にいる伊勢七尾が慌てて止めるも聞く耳持たずだった。

「だってさぁ、もう遠慮する必要もないんでしょう?」

ぽつり、出てきた台詞。それまで嫌そうにしていた浮竹の顔がハッとなる。顔を上げて、京楽の方に向き直る。浮竹は京楽の表情をまじまじと見た。

「そうだな……!」

噛み締める。浮竹は、ぐっ、と歯を噛み締めて笑った。それはもう、幸せそうに。京楽も笑う。同じように、歯を噛み締めて、涙が零れてしまわぬように。

二人の様子に、伊勢副隊長もにっこりと笑う。彼女は、京楽がいつも浮竹のことを心配していたことも、浮竹が京楽に心配をかけまいとしていたことも、どちらもよく知っていた。だからこそ、この二人の友情がこれから先も続くだろうという、明るい兆しを象徴するこの瞬間に、胸を温めていたのだった。その目頭に涙が溜まっていたのはここだけの秘密である。

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隊首会、会場内――

 

護廷十三隊隊長、ただ一人を除いて全員が揃った後、山本元柳斎重國が口を開く。まだ一人来ていない者がいるが……、そんな隊長達の視線を物ともせずに彼は言った。

「遅れてくるように言っておる。もう着くじゃろう」

その数秒後、山本総隊長が言ったとおりになった。

「市丸隊長、みょうじ副隊長が到着されました」
「…………入れ」

扉が開く。真っ先に足を踏み入れたのは、市丸ギン。その数歩後ろ、斜めに下がったところ、みょうじなまえが遅れて歩き出した。

ざわり、空気が揺れる。

堂々と胸を張って歩く市丸は、自分の納まる場所、そこだけを見て歩いていた。三番隊隊長が立つ位置だ。対して、みょうじは視線を彷徨わせていた。なぜ自分がこんなところに呼ばれたのか、そう言いたげに身を縮込ませている。その場にいる隊長達は皆、みょうじを見ていた。

市丸がいつもの場に納まると、みょうじはその真後ろに立つことにしたらしい。大回りに歩いて、後ろに立った。

「揃ったの。では隊首会を始める。まずは、浮竹から報告を」
「ハッ!」

一歩前に歩み出た浮竹が口を開く。快活に返事を返した浮竹からは病弱で青白かった頃の面影が消え失せていた。その姿は精気に満ちあふれていた。

「私は運に恵まれ、病気を克服しました。本日をもって、療養を脱し、護廷十三番隊、十三番隊隊長としての職務に正式に復帰致します」

うむ――山本総隊長の歯切れよい返事に、浮竹はホッと息を吐き出す。

「それはめでたいことだ」

朽木白哉が言う。

「ありがとう、朽木隊長」

浮竹が返すと、今度は涅マユリが口を開いた。

「それで、経緯はどこまでを話す、つもりかね……?」

視線は山本総隊長に一直線だった。視線を受けた彼が両目を閉ざすと、涅の視線は逡巡したのちに、みょうじの方に向く。ビタで視線が絡み、みょうじは飛び上がるように、市丸に縋り付いた。

「なまえちゃん、食われるわけやないんから」
「すみません、……でも、涅隊長の目、本気で怖いんですもん……」

まぁ確かに……。今にでも飛び掛かって「実験だよ、実験んんん!!」と剥かれそうな勢いの目の血走りようだ。あの様子は、恐らくなまえちゃんに目を付けているということだろう。市丸は内心ため息をつく。変な奴ばっかに好かれよってぇ。ある意味天才やな、この娘はホンマ……。

「隊長らには話すつもりじゃ。それで、当事者に来てもらっておる」

みょうじが「え”」と喉を詰まらせる。彼女は内心、そんなこと聞いていませんでしたが、とパニックになっていた。山本総隊長を泣きそうな目で見つめている。

「みょうじ副隊長。前へ」
「っ、…………はい」

市丸と身を交わして、みょうじが隊長らの前へ出てくる。当然のことながら、その場の全員の視線が向き、彼女は更に泣きそうになっていた。助け船を求めるが如く、市丸隊長に視線を送るが無視された。こればっかりはどうしようもないので、諦めろということだろう。はぁ…………みょうじは長息を吐き出して顔を上げる。

そこから、隊長らに向けて、みょうじ副隊長の功績が報告された。端から知っていた隊長らを除いた、他の隊長達は誰もが目を見開いて驚いていた。

隊首会での大きな決定事項の一つとして、みょうじの技術開発局への入局があった。浦原喜助、たっての希望らしく、その力を護廷十三隊のために活用させて欲しいということだそうだ。断る理由もなかったため、市丸隊長の許可を得た後に、みょうじは頷いたのだった。

当然「隊の仕事はさぼったらあかんよ?」と釘を刺されているみょうじは、「私が抜けるときは阿近が助っ人で来てくれますよ」と浦原から部下を勝ち取り戦力としたのだった。因みに、とばっちりを受けて可哀想な阿近は、まだこの話を知らない。

そんな、晒し上げにも等しい会がようやく終わる。本日の隊首会はここまでとする――山本総隊長の締めの一言の後、みょうじは脱力して天井を見上げたのだった。

 

「つ……疲れたァ――」

そんな彼女の元に、浮竹と京楽が近付いていく。

「なまえ!」
「浮竹隊長っ! お元気そうで本当に良かったです」
「これもすべてなまえのおかげだ。本当にありがとう」

「本当だよ。ありがとう、なまえちゃん」
「京楽隊長まで……いえ、私が願ってやったことですので」

浮竹隊長には元気に生きて欲しかった。ただ、その思いだった。みょうじはにっこりと笑う。

「っ、」

感極まった浮竹がみょうじの肩を掴む。人目を憚らない行為にみょうじがたじろいだところ、市丸が助け船を出そうとしたその前に、みょうじの顔の真横に、涅の顔が至近距離で迫っていた。

「っ、~~~~!?」

視界に入った途端、体を飛び上がらせたみょうじ。浮竹も驚いて後ろに下がる。解放されたみょうじの肩を今度は涅が掴む。

「君の力は本当に面白い。近々、実験するから技術開発局にくるんだよ」
「っ、は……はいっ!?」

ゆっさ、ゆっさ、体を揺さぶられながら、物凄い言葉を投げかけられて、みょうじは目を剥いた。何言ってんのこのマッドサイエンティスト……!

これは流石に……さっさと隊舎に戻った方が……、市丸の助け船が伸びるより早く、今度はまた別の者の手がみょうじを攫う。

「なまえ」

名を呼ぶ声に、みょうじは顔を上げた。藍染惣右介、彼がにっこりと笑いながらこちらを見ていた。微笑みを見ているはずなのに、背筋がゾワリとするのは気のせい……ではないのだろうな。みょうじは顔面を真っ青にしながらも、返事を返す。

「藍染隊長。お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」

お世話にというのは、みょうじが伏せっていたときに彼が何かしらの力を使って、みょうじの目覚めを助けてくれたことを指していた。

「君が目覚めて良かったよ。僕はそれだけが気掛かりだったが……元気そうでよかったよ」

つまり、元気ならさっさと顔を出さないか、と暗に言っているのではないか。みょうじは脳みそをフル回転させて藍染の腹の内を理解しようと必死だった。藍染がふっと笑う。すると、みょうじの顔色が更に青くなる。二人の関係を知っている市丸からすれば、あちゃァ――と顔を覆う程度で済むことだったが、それ以外の人からすれば、意味深なやりとりに怪訝になる。

みょうじの腰に回された藍染の手の平が優しくも強かに、彼女の体を引き寄せる。っ、とっとっと――ふらつくみょうじの両肩に手を置いて、藍染はひそひそと耳打ちをした。

「私も君の研究がしたいと思っているんだが、それについてはどうかな……?」

ぼふんっ、一瞬で首まで真っ赤になったみょうじの頭から湯気が上がる。

「ちょ……藍染隊長、揶揄わんといてくださいよ。なまえちゃん、まだ本調子じゃないんですから」

慌てた市丸が止めに入るも、彼は離さない。

「……返事は?」

きゅ――下唇を噛み締めたみょうじが上目遣いに藍染を見上げる。その様に目を細めた藍染が思わず手を頬に伸ばしそうになってなんとか思いとどまる。鏡花水月を使ってしまえば簡単だ。この場でも何でもできてしまう。……が、それは違う。この者達の前で、奴らの記憶に叩き込むことに意味があるのだ――藍染はその一心で堪えていた。

耐える藍染の視線の先、みょうじがにっこりと笑う。藍染にだけ見えるように、みょうじは蕩けるような甘い笑みでにっこりと笑った。

はい――たった一言。だが、その一言が、藍染にとってどれだけ嬉しかったか、みょうじは知らないだろう。

藍染は噛み締めるように頷いて、笑顔を返した。それはそれは優しげな笑顔だった。

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