こぼれた涙が2人の糸に染み込んで

それから数日の間、今回の任務で亡くなった、ヴェルゴさんとモネのことをみんなで弔った。最高の仲間だったと言って、お酒を飲んで。そうして、気持ちを切り替える。そうしないと次へ進めなかった。

正直、そんなに簡単に切り替えられるもんじゃない。そんなのみんなだってそうだ。でも、次の計画の始まりがもうすぐそこまで迫って来ている。……だから。それがどんなに嫌でも、どんなに辛くても、気持ちは切り替えないといけない。涙を拭って、みんなと同じ輪に入って、お酒を酌み交わして、今はそうやって過ごすしかなかった。

ドフィのことはなんとなく避けていた。それはお互いにだったと思う。私はあんな酷いことを言ってしまった。……ドフィはきっと傷ついてて、私の顔なんて見たくないんだと思う。でも船の中じゃどうしたって、避けきれない時が出てくる。私たちの部屋はそんなに遠くにあるわけじゃないし。いつかは話すときがくる。いつかは話さなければならない。

次の任務はドフィが治めている国、ドレスローザ王国での大規模なものだった。もちろん、私もその作戦に加わる。とても大事な任務だ。だから、その前にちゃんと話しておかないといけない、そう思った。中途半端な気持ちで挑んで、もし、もしもそれでよくないことになったりしたら、…………きっと耐えられない。

コン、コン――

「入れ」

就寝前、意を決してドフィの部屋を訪ねた。ドフィは愛用のソファに座って、酒瓶を片手に本を読んでいた。

白い町 フレバンス――

本の表紙を見ながら扉を閉めた。

「懐かしいね、その本」
「あぁ……」

ドフィは本を見つめたまま、答えていた。その声は柔らかく、少し安心した。

「ローくん、生きていたんだよね。説得するつもり?」
「……まぁな」

ドフィは……きっともう許している。私の行いすべてを。……そう分かったけれど、言わずにはいられなかった。

「ドフィ、…………ごめんなさい」
「なにが、だ?」

パタン――本を閉じたドフィが上体を起こしてこちらを見た。

「一番傷ついているのはドフィなのに、毎回酷いことばかり言って……」
「お前は容赦ねェからな」
「…………ごめん」
「俺はなまえのそういうところを見込んでいるんだ。気にするな」
「そうなの?」
「あァ……」

コツコツコツ――

ヒールの音が鳴る。幼い頃はずっとブーツを履いていた。でもそれも、いつだったか、なんのタイミングだったか、ヒールを履くようになって、身の回りのものがどんどん変わっていって。気づけばもう30歳手前になっていた。ドフィなんかもう40歳を過ぎている。

私たちはそれだけ一緒の年月を過ごしてきた。

ソファに座るドフィの前に立って、彼の両足の間に足を入れていく。それをすんなりと受け入れたドフィが上体を反らしてこちらを見上げる。

「私ね、ドフィのことが好き」

「…………」

「大好き」

実のところ、ドフィに自身に対して、こうやって好意を言ったことがなかった。だから……、これが初めてだった。今までたくさんの関係を持ったけれど、それはすべてドフィの心の隙間を埋めるためのもので、私の隙間を埋めるものじゃなかった。だから、……だから、私はずっと言わずにきていた。でも、もうそろそろ…………私だって、自分の心の隙間を埋めるために、そのためにドフィに抱かれたいって。

にっこりと微笑みながら、ドフィを見つめる。彼のかけているサングラスを外して、逃げ場をなくすようにして、彼の頬に手を添えた。ちゃんと向き合って欲しいから。逃げないで欲しいから。

「俺がお前にしたことは……」

「うん。酷いよね、ほんと」
「…………」

口を閉じて下唇を噛んだドフィに続けて言った。

「でもね。それは…………なんでそうしたのか、ドフィが分かってなかっただけで、意外と単純なことなんだよ」
「…………何が言いたい?」

眉間に皺を寄せて、意味が分からないと首を振るドフィ。拳を握りしめ、勇気を振り絞るようにして言った。

「ドフィ。……私はもう大丈夫だよ? ドフィのことちゃんと受け入れられる。大人になった。ドフィが気づいていない、複雑な気持ちだって、すごく愛おしく思えるほどに成長したんだから」

ドフィはしっかりと合っていた視線を逸らした。

「…………まぁ、実はヴェルゴさんから聞いてはいたんだけど、ドフィの口からちゃんと聞きたかったくて……っ、てッ!!?」

ぎゅ、と抱きしめられた。

「なんであのお節介野郎が俺よりも先に言うんだよ」
「ふふふ、それはね、”お節介野郎”だからだよ、きっと」
「…………ったく、」
「それにね、彼はドフィの親友だからだよ、きっと」

私の両頬に手を伸ばしたドフィが細くしなやかな手を伸ばして私の体を拘束する。頭の後ろに回された手は柔らかに包み込んでゆっくりと体を引き倒した。ちゅ、と口付ける唇は震えていて、吐き出す息はとても熱かった。

彼はスッ――と息を吸い込んで言った。

「お前のことが好きだ、なまえ」

「……うん。私もドフィが好きだよ」

やっと。やっとだ。やっと…………。

「なまえ」
「ん?」
「指を、」
「指…………?」

ソファの上、彼の体の上に覆い被さったまま、彼は指を出せと言う。言われるがまま指を差し出すと、ドフィが私の親指をほんの少し切った。チリリ、と走る痛みに眉を寄せ、首を傾げる。いったい何を……? そして、同じようにドフィも自身の指先を切った。

「何するの?」
「急だったからな……」

シュルシュルとドフィの指先から糸が出てきて、それが私の親指の血を吸い込んで赤く染まっていく。その糸の反対側、その先はドフィの指先から流れ出る血を吸い込んでいった。その糸はまるで生きているように波打ちながら、ドフィの糸が私の方へ、私の糸がドフィの方へいく。お互いの左手、薬指に巻き付いていった。私の薬指にはドフィの血を啜った真っ赤な糸があった。

「…………赤い、糸?」

「俺がなまえを拾ったのも、なまえがここへ戻ったのも。なまえが俺を受け入れたのも。すべてこの糸のおかげだっただろう?」
「……素敵。そういうの大好き」

「あァ、そう言うと思っていた」
「さっすが、ドフィ」

左手を掲げて、薬指に巻き付いた糸をジッと見つめる。これはドフィの愛の証だ。数十年の想いが詰まった、世界一綺麗な指輪。私と彼が共に過ごし、共に生きた証。

嬉しくて嬉しくて、自然と頬が緩んでいった。今にも泣いてしまいそうだった。

「なまえ、……死ぬまでずっと側にいてくれるか?」
「…………もちろん。死んでからだって、私はずっとドフィの側にいるよ」

ほろりとこぼれた涙が2人の糸に染み込んで溶けていく。

「ねぇ、ドフィ」
「あ?」
「もう一回言って?」

「…………愛してる、なまえ」

ようやく糸が繋がった――

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170104 End.

Afterword

いつか書きたい……そう言ってから完結までたぶん1年ぐらいかかったと思います。すごく前のことなので、まだここに来られているかは分からないんですが、あのとき、コメントでドフィのお話が読みたいと言って下さった心優しい読者様に捧げます。私に書いて欲しいと言って頂かなければ書かなかったと思うので、本当に感謝しています。

原作沿いのドンキホーテファミリーのお話を書くことには以前から興味がありまして。もちろん、コラさんには生きていて欲しい!!っと思うのですが、まずは原作を忠実に再現したいなと思っておりました(モネとシュガーの仲間になる時期が違うのですが汗)。エクセルで年表作って、あぁーでもない、こーでもない!うん、ややこしい!!ってなりながら笑、楽しく書かせて頂きました。

キャラクターの死が入るのでどうしても切なくて暗いお話になってしまうのですが、それを乗り越えるドフィとヒロインを感じてもらえたらなと思います。できるだけ生生しく書くように心がけました。実際のドフィが何を支えに乗り越えたのか、それは分かりませんが、ここのドフィの支えは貴方です。それが伝わって、最後、彼と一緒になる喜びをお伝えできたならば、それが私の喜びです。

無事完結できました。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。今回は暗いお話になりましたが、次このファミリーを書くときはハッピーでドタバタなお話にしたいと思います(*^^)

ではでは!!

 

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