ローさんが亡くなって、ローくんが消えて、約13年のときが流れた。その間のファミリーの計画は順調だった。……でも、今日、パンクハザードが襲撃された。正確に言えば、私たちが作ったスマイル工場が、……なんだけど。滞在しているヴェルゴさんの話によると、襲撃者は麦藁のルフィとその同盟相手である、死の外科医 トラファルガー・ロー。そう、あのローくんは生きていて、海賊になっていた。
ヴェルゴさんから連絡を受けたとき、私たちがいたところはパンクハザードからあまりに離れていて、すぐには行けない距離にあった。だからドフィはおおまかな指示を出して後はヴェルゴさんに任せることにした。それに、ヴェルゴさんほどの人なら大丈夫って、そう思っていた。そこには協力者であるシーザー・クラウンも、モネもいるんだから、絶対大丈夫って。
……でもそれは慢心だった。
「ヴェルゴからだ。最後に話したいことがあるそうだ」
「……最後? え、最後って、それ、……どういう?」
自室に入ってきたドフィが電伝虫を渡してくる。状況がさっぱり掴めていない私に向かって、ドフィは言った。
「作戦は失敗した」
「…………え?」
震える手で耳元に持っていった受話器。「もしもし」と言った。
「なまえか」
「ヴェルゴさん?」
「あぁ。なんだ、元気そうだな」
「……うん、元気だよ。ヴェルゴさんは?」
「あぁ、……少しやっかいなことになってはいるが、……元気だ」
「そっか。……よかった」
「…………」
「ドフィから聞いたよ。話したいことがあるって」
「そうだ。……今、そこにドフィはいるか?」
「うん、いるけど?」
ううん、と軽く咳払いをしたヴェルゴさんが少し声を張り上げて、「ドフィ、悪いが少しの間席を外してくれ」と言った。ドフィが部屋から出ていくのを確認して、また受話器を耳元に当てる。
「うん、いいよ。……それで?」
「ドフィとはうまくいってるか?」
「何、急に……」
「あいつ、見た目ちゃらちゃらしてる癖にそういうの下手だから、心配でな」
「…………うん。下手、かもね」
「何かあったのか?」
「そりゃもうずっと一緒にいるから、色々あったよ」
「それでも一緒にいるんだな」
「……私はドフィが好きだからね」
「あいつは何か言ったか?」
「……悪いなって。いつもそう言うよ」
「フッ――あいつらしいな」
「…………ね」
「なまえ……」
「ん?」
「俺はもうすぐ死ぬ」
「は?」
「もう決めた」
「何言って…………!!」
「だからお前にドフィを頼みたい」
「いやだ!!」
「いやだって、お前は子供か? あんなに私はもう子供じゃないって喚いておきながら……」
「いやなものは、い、や!! ドフィの面倒見るのはヴェルゴさんの役目でしょ?」
「あァ、俺の役目だな。……でも、その大役も、今日で終わりにする。……俺は今日、ここで自爆する」
「っ、そんなっ!!!」
「今更なまえがどうこうしたところで、もうどうにもならねェよ。どうにかなるならとっくにどうにかしているからな」
「……そんな」
「……だから、どうしても言っておきたかった。なまえ、ドフィのこと、頼んでいいな?」
「…………もちろん!」
「泣くな、なまえ」
「っ、……む、り、だって。……だって私、っ――ヴェルゴさんのこと大好きなんだよ。イヤだよ…………こんなの、」
「ハハハッ、ありがとう。でも、ドフィの前ではそんなこと言ってくれるなよ。最後の最後であいつに睨まれるのはごめんだからな」
「ふっ、……何それ。ドフィはそんなこと「なまえ、ドフィはお前が思っている以上にお前のことを大事に思っているから」……え?」
「じゃァな、元気でやれよ」
ガシャンッ――
それ以降、もう二度とその電話が繋がることはなかった。
「終わったか?」と部屋に入ってきたドフィが、私の手の中にあった電伝虫を取り上げた。ドフィに名前を呼ばれてようやくそこで現実を理解した。
「ドフィ、……ヴェルゴさんが…………」
「あァ……」
「死んだの?」
「…………」
「ドフィ、答えて?」
「…………」
「ドフィ…………なんで?」
「俺のせいだ」
「っ――――なんで!? なんで!! なんで!!!!」
責めちゃいけないって、分かってた。……でも。口から出ていく言葉は止められなくて、すべてが刺々しくドフィに刺さっていって、彼の身を引き裂いていった。
「……すまない」
「っ、…………謝ればいいってもんじゃない!!!」
「…………」
黙り込んでしまったドフィの頬を私は力いっぱい、手の平で叩いた。
パァ――――ンッ
ハッ、と彼を見上げた。その頬は痛々しく赤く腫れ、サングラスが歪み、隙間から見えた瞳がジッとまっすぐにこちらを見つめていた。ギュッ――と胸が締め付けられた。
私がヴェルゴさんと共に過ごした時間よりも、ドフィがヴェルゴさんと過ごした時間の方が、何倍も多くて、濃くて、……なのに、2人の絆の方が深くて、強かったっていうのに、ズタズタに傷ついている彼に八つ当たりして、傷つけて…………私、最低だ。
口からは堪えきれなくなった嗚咽が漏れていった。
「……俺のせいだ」
ぎゅうっと強く拳を握りしめたドフィはきびすを返して部屋から出ていこうとする。その背中に向かって彼の名前を呼んだ。
「ドフィ!!!!」
動きを止めたドフィに続けて言う。
「ごめん!!!」
ドフィは部屋から出て行った。

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