トラファルガー・ロー。
彼の第二の人生は、故郷である王国から死にものぐるいで逃げ出した後、ドフラミンゴという男の元で過ごすことだった。当時の彼の幼い瞳に灯るのは”復讐”の二文字。あの、人を射抜くような目はきっとこの時にできたものなのだろう。
そして今、彼は第三の人生を歩んでいる。自分の団を持ち、率いる、海賊船の船長という人生だ。
元々細く鋭い瞳をさらにつり上げ、キャプテン、トラファルガー・ローは私を睨みつけた。腕を組んで小刻みに足踏みをする様子から、彼のいらいら度がぐんぐんと上昇していっているのが手に取るように分かる。原因は私が通せんぼしているせいだ。
「俺にどうしろっていうんだ」
「……そんなの貴方が一番分かっていると思うけど」
「は?」
自覚はある。彼が触れて欲しくないところに土足で踏み込んで、必死で閉めた錠前をレンチで乱暴に切断して、彼の実は繊細な胸の内をぎりぎりと傷つけていることぐらい分かっている。
嫌悪感を丸出しにしながら、大げさ過ぎるぐらい喧嘩腰に声を出した彼は誰がどう見ても強がっているというのが分かるだろう。……でも、彼自身はそれに気づいていない。……おそらく。
そう、……これは誰かがやらなければならないこと。誰かがやる羽目になる、損な役回りだ。それを私は自ら進んで引き受けた。
「……もう終わったんだよ?」
いい加減、目の前にある事実を理解して欲しい。すべてが終わったことを、彼の、ローの第二の人生は終末を迎えて、今度は第三の人生がスタートする、……いや、もうしているということを受け入れて欲しい。
ふん――と鼻息がひとつ。目の前に立つローは私から視線を逸らして空を見た。それを目で追う。揺れる船体に波しぶきが当たりザバーンッ、と音を鳴らし、遠くではカモメの鳴き声。あぁ、――長閑だ。少し前にあった王国での戦闘を思えば、この平和な一日がどんなに大切なものか噛みしめることができる。
今、彼は何を思っているのだろうか。彼の横顔を見つめながらそう思った。
ゆっくりと流れていく雲の向こう、彼の瞳には何が映っているのか、見当もつかない。ただ、ふん――と鳴らした鼻息は彼の癖で、答えの見つからない螺旋階段を上り、下り、立ち止まり。ついには溜まらなくなって深い海の底へ飛び降りようとしている、…………そんなときに吐き出す息だ。
「ドフラミンゴは海軍本部中将、つるによって捕縛。確認も済んでる。だから、本当にすべてが終わったんだよ」
返事はなかった。ローは私の脇をすり抜けて、何事もなかったように船室へ戻っていった。
私はただ、彼に生まれ変わって欲しい、それだけなのに。……彼は一体何に怯えているのだろう。深い海の底に落ち着いた船の一室、そこでひとり悶々と頭を働かせる。ああ――これじゃあ私の方が先に参っちゃうかも、な。

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