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時刻はもう夕方。加えて今日は金曜日。仕事終わりにちょいとマッサージでも……と訪れてくれるお客様方が増える曜日だった。店にスタッフは一人。普段なら店長のカリファさんや他のスタッフがいるのだけれども、あいにく今日は研修とやらでみんな出払っていて、私一人で店番に。完全予約制だし、予約の人数を調整すればいいから、一人でも別に問題はないのだけど。今日はカリファさんの紹介で来る初来店のお客様の予約があるから、なんだか落ち着かなかった。

常連さんなら慣れているのに。初めてとなると、一体どんな人が来るのかも分からないし……いや、まぁカリファさんから大まかな話は聞いてはいるけどさ。でも……寡黙な奴だからしゃべらないでいいって。そんなのアドバイスにもならないんですけど! ……なんてさすがに言い返せるわけもなく。は、はぁ……と相づちを打ち返すことしかできなかった。

一体どんな人が来るのだろうか。

予約時間の数十分前、店前の駐車場のところに車が入ってくる音がした。ガラス越しに見えた車は黒色で、車が止まったところはこの店の駐車場だったから恐らく予約の人が来たのだろう、と体から抜けきっていた力を戻し、背筋を伸ばした。

車から降りてきたその人は迷うことなく一直線に店の前に立つ。あぁやっぱりだとイスから立ち上がってその人を待った。

カラン、カランと電子音が鳴る。

「いらっしゃいませ」

深く頭を下げ後、顔を上げてにっこりと笑う。目に映った男性は眉一つ動かすことなく、ジッとこちらを見据えていた。

「ご予約のお客様でよろしいでしょうか?」

お名前は……と言葉を続ける。あぁ、と小さく返された返事になるほどカリファさんが言われていたように口数の少ない人だと頷く。

「ではまず会員カードを作らせていただきますので」

いつもと同じように手順通りにカ―ドを作っていく。身分証の提示でようやく名前の確認が出来た。ルッチさん。普段なら初めてのお客様でもある程度会話が弾むから、なんてお呼びしましょうか? なんて言っているのだけど、おそらく馴れ合いたくないタイプのお客様だろうから、そういうのは控えた方がいいだろう。余計なことを言うのはやめておこう。

結局、その日はそれ以降会話という会話もなく、マッサージを終えてルッチさんは帰っていった。

それから一ヶ月が過ぎた。

「なまえ、あなた一体何をしたの?」

カリファさんにそう呼び止められて私何かやらかしてしまったのだろうかと顔を真っ青にして振り返る。でも振り返って視界に入ってきたカリファさんの目はとてもキラキラとしていて、とても面白いものを見つけたというのに輝いていた。

「えっと……?」
「あの堅物ルッチが、あの心底嫌そうにして、一回だけだからなとか言っていたルッチがまた予約を取るだなんて!」

はい? と首を傾げる。よくよく話を聞いてみれば、あのルッチさんという人はカリファさんと昔からの友人で、先月はノルマまで後一人ということだったので嫌々でもいいから一回だけ来てと無理を行って来てもらっていたそうだ。あぁ、なるほど、それであんな感じだったのかと納得がいった。

「一体何をしたの!?」

そう詰め寄られても、いつも通り接客して、いつも通りマッサージをこなして、むしろいつもよりもフレンドリーさはかけていたぐらいだったと思うんだけど……そう思いながら首を傾げていつも通りにしただけなのですが、と言葉を返す。

ふぅん? と目を細めたカリファさんは次の予約は一週間後よ、よろしくね、と言ってさっさと行ってしまわれた。

「え、ちょ!?」

……それってつまり、私が指名されたってこと?

伸ばした右手を元に戻しながら、つまりそういうことなのだろうと、ふぅと息を吐き出した。まぁ常連さんが増えるということは悪いことじゃないし。……まぁ、いっか。

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