嘲笑って嘲笑って僕のヤンデレラ

簡素な部屋には一人の女がいる。……いや、正確にはいた……か。

「……どこへ行った」

一週間、任務を終えて戻ってきてみれば部屋はもぬけの殻。ただいないのではない。最低限必要な服、日用品、そういったものが一式なくなっていた。……つまり、もう戻らないということか。腰を下ろせば、ギシリとベッドが軋む。幾代もこの上で共に過ごしたあの時間はなんだったのだろうか。夢か、真か。真っ白なシーツに手を這わしその肌触りを確かめる。……違う。なまえの肌はすべらかでしっとりとしていて、それでいてその下には熱い血が流れ、傷つけようものならそれが溢れだしてくる。それがなまえだ。

「……」

正直自分でも驚くくらい、この状況に参っていた。たかが女一人。女一人が自分の側から消えた、ただそれだけのことでこれほどまでに動揺することになろうとは……夢であるまいかと強く唇を噛みしめる。ピリリという痛みと共に鉄の味を感じた。あぁ、夢ではない。この動揺も、彼女を失ったことも。すべてが真だった。

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夜が苦痛だった。この部屋で一人ベッドに横になっていることがこんなにも落ち着かないことだとは……認めたくないが、認めざる得ない。一度は横になった体を起こし、壁に背中を預けるようにして座る。片膝を立て、虚ろな目でぼぅと考えていた。

「……なまえ」

カチャン――

それは幻聴か、と思うほど遠くの音のように聞こえた。だが、すぐに体が動く。彼女が姿を消した今、この部屋を訪れるものなどいない。”敵襲”その2文字が頭に浮かんだ。ベッド下に仕込んでいたナイフに手を伸ばし気配を消す。扉横に立ち、足を一歩踏み出すその瞬間を待った。相手の足が一歩、床に落ちる前に組敷き床へキツく押しつける。喉元へ刃をつけ一線、引く間際だった。

「……ったい」

その声に喉笛をかききりかけていた手が止まる。拘束していた手から力が抜け、その中から抜け出したその人物がゆるりと体を起こした。ツ――、喉元の鮮血が美しい。

「何するの、ルッチ」

痛いじゃない、と一週間前と寸分も変わらない仏頂面の彼女がいた。

「……ちょっと、聞いてるの?」

何の反応もしないこちらの様子に腹を立てたのか、彼女は眉間に皺を寄せ、酷いしかめっ面でこちらを睨みつけていた。

「……どこにいた」
「はぁ? 覚えてないの? 一週間前に会った時に言ったでしょ。会社のみんなで旅行するって」
「……」
「何、もしかしてそれでそんな顔してんの?」

ふい、と顔を背ける。あぁ、よかった。心の底では安堵の気持ちでいっぱいだった。

「聞、い、て、ん、の?」
「……」
「……そんなんじゃ、愛想尽かされても知らないからね」

いつもなら聞き流せるような売り言葉に食らいついてしまう。

「ん、ちょ! 何!? 何なのよ!?」

首元の赤を舐め取る。なまえの味だ。「っ、」と顔をしかめる様子が堪らなかった。深く深く口づける。

「馬鹿、やめ!」

押し払ってくる手を押し退けてベッドに上げる。暴れる両腕を押さえつけてしまおうとしたときだった。グラッと体が揺れた。

「っ、何勝手に盛ってんのよ! 馬鹿ルッチ! あんたはいつもいっつも私の気持ちなんて後回しなんだから! 任務だから仕方ないだろって他の女と寝るし、その癖私が他の人と一緒にいるだけで怒るし。もうとにかく横暴!! もう私怒ったから! で、決めたの。……こうすることにした」

ジャラリと音が鳴る。……まさか、けだるい視線を向けた先には海軍製の海楼石の手錠。それもご丁寧に手首と足首の両方があった。すでに俺の手首の片方にはめられているその手錠は片方だけでも悪魔の実の能力者である俺の体を拘束するには十分だった。

「驚いた、想像以上だわ」

にっこりと艶やかな笑顔を浮かべたなまえはもう片方の手にも手錠をかけ、足首にも丁寧に手錠をかけた。酷くゆっくりな手つきにもやもやとする感情。

「……なまえ」
「ふふ、何、ルッチ?」

「キスしろ」
「……何、今の自分の立場分かってる?」

「……しろ」
「……やぁよ」

ふん、と顔を背けて俺の隣に横になったなまえは布団を被りおやすみと言う。……待て、まさかこのままなのか。

「おい」
「ん~、もう寝なさい」

「なまえ!」
「うっさい、明日起きたら可愛がってあげるから。今日はもう寝なさいって言ってるでしょ、このわがまま猫!!」

そう言いつつ、すりすりとすり寄ってくる彼女は本当に質が悪い。ふわりと香る香りが脳を刺激する。むくむくと抑えきれない感情が育ち、それと同時に手錠によって動けないはがゆさに苦しめられた。

「……固いの、今はいらないから」
「……」

どうやらシンデレラはいつの間にか染まってしまったようだ。道を踏み外せたのは俺か……。結局、翌朝なまえが目覚めるまで一睡もすることができなかった。

(Plan:Christmas)
151210 End.

Afterword

ヤンデレ……じゃないかな?どちらかと言えばわがまま?

時々行き過ぎた愛情を見せてしまうルッチとそれを受け入れつつも、その感情は行き過ぎてんのよ、貴方。正気に戻ってきてと支えてあげるヒロイン。ヒロインはルッチの扱い雑そうだけど、ルッチのことちゃんと愛しています(*^^*)お幸せに~

 

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