つうじる・つかむ・つたえる・つつく

「本当のことを話せ」
「……エネル様?」

病室に戻った俺は努めて素っ気ない態度を取った。そうでもしなければ、この狂いそうな想いでどうにかなってしまうそうだった。

「これを見つけた」

さきほど手の平に乗せていたそれをゴトリ、と彼女の側の机の上に置いた。自身の顔の横に置かれたそれを確認した彼女は悲痛に顔を歪め、あぁ……と息を漏らしていた。目を閉じて、何かを考えていた。

「……いつからだ?」
「何がでしょうか?」
「とぼけるな、分かっている。お前の部屋もこれがあったあの部屋もこの目で見てきたんだ。俺の贈り物も、何もかも」
「……申し訳ございません。せっかく頂いたものだったのに、壊してしまいました」

チッと自然と出た舌打ちは二人の間をますます悪くしていった。

「俺がお前を迎え入れたときからか?」

真っ直ぐに彼女の瞳を見た。真実を知りたい。そう心から願った。

「私がエネル様の側妻になったのはまだ10歳になったばかりの頃でした。当時の私はその意味すらよく分からず。周囲からはなんでお前のようなものが側妻になれたのだろうね、と言われました。最初、あの部屋は私を閉じこめる場所でした」
「どういったときに入れられる?」
「エネル様が私に話しかけたとき。エネル様が私に笑いかけたとき、でした」

淡々と、まるで自分のことではないことのようになまえは続けた。

「それからしばらくして、私が18歳になったとき、エネル様は私を正妻にして下さいました。そのとき、私は、これで今までのようなこともなくなる。正妻は部屋が側妻のところから離れているから……と安心しきっておりました。そして……」

何かを言いかけ、声をどもらせたなまえがぎゅ、とシーツを握りしめた。

「そこから私の日常は変わりました」

顔を上げ、意を決したように重い口を開いた彼女の瞳から一筋の滴がこぼれ落ちていった。手を伸ばし、手を掴む。そうしたら彼女は「大丈夫ですから、」と言ってその手をやんわりとふりほどいた。

「なぜ言わなかった?」
「言えるようなことではありませんでした。あなたは神です。神であるあなたに余計な負担をかけるわけにはいきませんから」
「しかし、お前は俺の妻なのだぞ」
「……分かっております。だからこそ、折れるわけにはいかなかったのです。……それに、私にはもう……、この場所にしか居場所がないのです。ご存じの通り、家も家族ももうありません。ここを守ることが私のすべてだったのです」

ずっと、考えないようにしてきたことがある。いつかにその考えに向き合おうとしたことがあったが、結局、それはできなかった。……ただ真実を知ることが怖かったのだと思う。

「やはり、お前は俺を愛してはいないのか」

「…………」

返事はなく。黙り込んでしまったなまえは両手を組み考えるようにして目を閉じてしまった。

「やはり、そうなのか」

「では、私も伺ってもよろしいでしょうか?」
「……なんだ?」
「あなたは本当に私のことを愛していたのですか?」
「……それはどういう意味だ?」

「私はそうは思いませんでした」

真っ直ぐに俺の瞳を見返してくる彼女の瞳は強く、本当にそう思ったということがこちらに伝わってきた。

「あなたは私ではなく、私の翼を愛していました。いつだってそうです。あなたはいつも私の羽根をまるで自身の分身のようにして愛撫しました。そうして、囁くのです。愛している……と。その囁きはこの切り取られた羽根に向かって言われたものなのです」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!