ぬくまる・はしる・はたす・ひかる

ほかほかと風呂に入り、のんびりと過ごしていたときだった。自分の体に小さな傷がついていることに気がついた。……こんなのあったっけ? そこには小さな文字でこう書かれていた。

“アメ、毒”

「……なんだろ? ……アメ? 体に悪いっていうこと?」

首を傾げつつ、風呂から上がり、神の元へと歩いていく。これから昼食だった。朝食と同じようにしてご飯を頂き、食べ終わった後に「ごちそうさまでした」と手を合わせる。

「ヤハハッ、相変わらずちまちましたことをする」

そう言うと神は私に一粒のアメを差し出した。

「お前にやる」
「……ありがとうございます」

なんで? と思いはしたけれど、神はすぐに顔を背けてしまったし、それ以上追求することはできなかった。疑問は疑念に変わって神の言うことが信用できなかった。体に刻まれていた言葉が脳裏に浮かぶ。……これを食べてはいけない、そう直感した。だからアメを口に含まなかった。

そうして、次の日が来た。目を開いたらそこには神の顔があって、その人が神だと認識できている自分にひどく驚いた。

……記憶がある。

でも、それを悟られてはいけないような気がした。だから、昨日の朝の記憶を元にして下手ながら演技をした。「あなたは誰ですか?」と叫び声を上げ、ちょっと過剰過ぎたかなという演技だったけれど、神は笑っていた。下手だからこそよかったのかもしれない。

アメを食べなくなってから記憶以外にも異変があった。食欲がなくなり、急に体に力が入らなくなってしまった。頭もぼうとするようになった。なぜだか急にいらいらしてしまうこともあった。

自分が怖くなった。……でも、それでも記憶がなくなってしまうよりはましだったから、絶対にアメは口にしなかった。

日に日に弱くなっていく私の体はついに起きあがれなくなった。病室のベッドに横たわり一日を過ごした。食事を一切食べようとしない私の様子に神はいらだっていた。……けれど、決して怒鳴るようなことも殴るようなこともしなかった。ただ、優しく抱きしめてくれた。

そのうち、夢を見るようになった。いや……夢ではない。昔の記憶を思い出を思い出すようになった。瞳を閉じると、そこにはここにいた頃の自分がいる。思い出したくない過去も思い出してしまった。

ここから逃げて優しい人たちと出会い、そうして私はしばらく行商人の彼と一緒に旅をした。でも、途中で海賊に襲われて、私は捕まり召使いとして売られることになった。まだ商品としての価値があるからと手を出されることはなかったけれど、売られた後のことを考えれば、それから先生きていたいとは思わなかった。

そんな時にあの人に出会った。

その姿を思い浮かべた途端、約束を果たさなければ、とそう思った。

――当たり前だった日常がいつの間にかなくなっていて、怖くて私は光を探した。だけど、どこにも差し込む光はなくて。私はただただ待つことしかできなかった。いつか、光が射し込むことを信じて。

静かな病室の中、歌を歌った。頬を涙が伝う。

――信じることを疑う時もあった。けれど、それでも私は信じることをやめなかった。すがるものならそばにいくらでもあった。でも、私がすがるのは1つだけだと決めていた。決めているからこそ苦しかった。

「っ、ふ……」

涙が止まらなくて、自分でもうまく歌えていないことは分かっていたけれど、それでも私は歌った。

――当たり前だった日常がいつの間にかなくなっていて、怖くて私は光を探した。ようやく差し込んだ光は涙をこぼす私を包み込み、こう言った。「帰ろう、僕たちの場所へ」そうして私はようやく光を取り戻した。

「っ、みほ……く」

あの人を思い出した。

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