33:召使いの申し入れ

単刀直入に言うね。ゾロはきっと曖昧に言うと伝わらないと思うから――話の切り出しはそう言って、私は彼に予め宣言した。例え数秒でも、前置きがあるのとないのでは違うだろうと思ったから。

「船に乗っている間、私と肉体関係を持って欲しい」

でも……この感じだと前置きのありなしは、あまり意味がなかったかも……。

…………人間って、こんなに真ん丸に目を見開くことができるんだぁ~~すご~い! と思うくらいに、ゾロの両眼が今にも飛び出しそうなくらい、すんごいことになっていた。私もそれに驚いて口をぽかんと開けたくらいだ。――と同時に。

カラーン、カランカランッ――

何かが落ちる音がした。我に返り、音がした方に慌てて振り向く。そこに立っていたのはサンジさんで、その手元は何かを握っていたと思われる状態で不自然に固まっていた。床を見ると、おしぼりとそのトレーが二つ分、散乱している。

「あ…………」

いや、まぁ別に聞かれて困る話ではなかったので、隠そうとは思っていなかった。だからこうして堂々と……ていうか、これってそんなに動揺する話、…………なのかな? ナミさん、ロビンさんと話した感じだとすごく軽い感じだったんだけど。性生活について、この二人は大っぴらに話をしていないのかもしれない。……そんなことある? 今まさに性欲旺盛な年齢の男達だよ? そういう話は全然しないの……? それは素朴な疑問だった。

どうしたものか、と考えている間も、二人は固まったまま。う~ん。これは私がどうにか場を納めないといけない感じだろう。二人がこうなってしまったのは私のせいだし。

「えっと……。ごめん、…………話は全部忘れて?」

よし。この二人はやめよう。他にも男の人はいたからそっちにしよう。船長はナミさんがいるから……あとは、確かフランキーさんとウソップさん……かな? ブルックさんは骨だって言っていたし、チョッパーくんはトナカイだからきっと無理だし。……うん、よし。ごめん、私はここから全力で逃げます。いたたまれなさすぎて辛いです。

「あの……サンジさん。お食事ですけど、テーブルに置いて頂ければ、あとで取りにきますので。……すみません。その、大変お騒がせしてしまいまして。あの……私、一旦、出ますね。その方が……」

ぱちぱちと瞬くサンジさん。ゾロの方に視線を向けると、ハッ――と我に返っているところだった。

「あ……いや、悪りぃ、ちょっと面食らった……」
「いや、こちらこそごめん。そんなに驚かれるとは思っていなくって。ごめんね。話は忘れてくれていいから……」
「…………」

ゾロが真っ直ぐに私の方を見ている。言っていることの真偽を確かめたいのかもしれない。その視線を振り切って立ち上がる。

「えと……、サンジさんも。すみませんでした。どうか、忘れてくださいね」

サンジさんは変わらず瞬いている。……う、やっぱり居心地が。さっさと外に出よう。扉に手をかけた。

カチャンとドアノブが回ったそのとき――

「……ごめん。なんか変な空気にさせてしまったけど――」

慌てた口調でサンジさんが言う。キィ――ほんの僅か、ドアの隙間が開く。ひゅ――と吹き込む海風が部屋の中に塩の香りを充満させた。そこでようやく、部屋の中にある別の香りの存在に気付く。食欲をそそる香りだ。サンジさんが作ってくれた料理だろう。少しだけ罪悪感が募る。自分でお願いしたくせに逃げるのか、それは失礼ではないのか。……とにかく、隙間風が入ってくるから一旦閉めよう。

――パタンと閉じる。振り返るべきかどうか、迷っていたら、足音が聞こえた。ゆっくりと振り向く。

 

「……なまえちゃんさえ良ければ、その……もう少し居てもらってもいい、……かな」

そこにいたのはサンジさんだった。彼が困り顔で曖昧に笑う。やはり、迷惑なのだろう。

「……それは全然大丈夫ですけど、気が進まない二人をわざわざ巻き込みたくはないんです。他の方に当たりますので、お気になさらないでください」

「いや……、待て! それはまずい…………」

ゾロが慌てて口を挟んできた。

「…………?」
「その話は、ルフィには絶対にするな」

その様子を流し見ながら、あぁそうか、と思い立ったので補足を入れた。

「あ……うん、大丈夫。ナミさんとロビンさんには先に話を通していて、そこのところは聞いてるから。二人から、船長以外はいいよって聞いてる」

「…………おい、まじかよ」

あ”――――と頭を抱えた剣士。「うちの女共はあっけらかんとし過ぎてねぇか」とゾロが悪態をつく。それに答えるように「マドマゼル達はそういう経験が豊富だからな。俺たちより、よっぽど大人だ」とコックが言う。

「まぁ……ということですので、ご心配なく。私は次の相手を探しに……「ちょっと待て(待ってくれるかい)」…………?」

二人が同時に言うものだから、何を言っているのか聞き取れなかった。二人を交互に見比べる。なんか、ばつが悪そうに顔を見合わせているんだけど。ゾロは視線で座るように促してくるし、サンジさんも片手を差し出して、席へ誘導してくる。気が進まないけど……こうなっては仕方がない。重い足取りでドアから離れる。先ほど座っていたゾロの向かいの席に足を運んだ。気が進まないのなら、別にきっぱりと断ってくれていいんだけどな……。

「……ひとつ、聞いていいか?」

頬杖を付きながら、落ち着いた声色でゾロが言った。どうやら彼は気持ちの整理ができたらしい。先ほどまでの、浮ついた表情から一転して、しっかりと芯のある瞳がそこにはあった。……良かった。これなら真面な話ができそう。ホッと胸をなで下ろす。私にとって、この問題は死活問題だからね。

ゾロの向かいに座って、こくりと頷く。

「俺もいいかな?」
「はい、どうぞ」

遅れて歩いてきたサンジさんが、私の隣に座る。それを流し見て軽く会釈をした後、目前にいるゾロに視線を戻す。ゾロはハァ――と気合いを込めるように息を吐き出して、天井を仰ぎ見ながら言った。

「目的は何だ?」
「直球だね」
「いや……まぁ、濁してもややこしくなるだけだろ。はっきりさせておいた方がいい」
「くそマリモにしちゃァ真面なこと言うじゃねェか」

悪態を付き合いながらも、こうして傍にいるんだから、やっぱり仲が良いのだろう。……ふふ、ちょっと癒やされた。おかげで先ほどまでの重めの空気がさっぱりとして、軽やかになった気がする。これなら私の口も動いてくれそうだ。……よし、さっさと説明を済ませてしまおう。

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「……世界は広いなぁ」

話を聞き終えたサンジさんが独りごちた。それに関しては、ゾロも同意見だったらしく、頷いている。

「お前の目的は分かった」
「それは良かった。じゃあ返事はどうかな? あと数日は持つと思うんだけど、そろそろ主を決めないと割と危ない期間に入るんだよね」
「……俺でいいのなら、「いや、誰もでもいいっていうのなら、俺がやる!」」

ゾロの言葉に被せてきたサンジさんが強めの口調で押し通ってきた。

「……えっと」

……まぁ確かに、私からすれば正直どちらでもいい。

「おい、くそコック。今、俺が話をしているのが分からねェのかァ~?」
「そんくれぇ分かってるわ! くそ剣士がうじうじしているからだろうがァ!!!」

だいたい分かってきたわ、この二人の罵り合いのパターン。二人とも、『くそ』を前に付ければいいと思っている感じが最高に幼稚でいい感じに、仲の良さをアピールしている。二人の仲が良好なのは分かったけど、一旦それは置いておいて――、正直どちらでもいいけど、どっちも良いといってくれるのなら、どっちもが良い。なので、私は遠慮なく飛びつきます。二人ともイケメンだし、相手に不足は全くない。むしろ大歓迎!

「ほんとっ!? 助かる! じゃあ、二人共にお願いします!」

「えっ?」「はっ?」

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