船長の部屋にはベッドがないらしい。正確に言うと、ソファベッドなるものはあった。普段は医務室で寝ているらしく、ここでは仮眠しか取らないそうだ。
「こうなると分かっていたら運んでおくべきだったか」
「ソファがあれば大丈夫だって」
なんなら立って出来るし。そこまで言わなくとも、そう思っていたのが伝わったのか、「ふしだらな女だな」と船長が言った。
ソファの上に降ろされて向かい合う。口付けを受け入れながら、思ったことを聞いてみた。
「……もしかして、ずっと我慢していたの?」
「俺には理性があるからな。こんなに欲に振り回されそうになったのははじめてだったが……」
「それであんなにため息を……?」
「くそ……俺がどんなに耐えていたか分かるか、お前の能力は反則だろ。他の奴はどうやって」
「うん、耐えたのは君がはじめてだよ、船長」
「ローでいい。俺もお前……えぇと、名前はなんだったか」
「ひどい~なまえです。自己紹介したでしょ」
「悪いな。こっちは誰かさんのせいでそれどころじゃなかったんだよ」
「……それはそれは、大変失礼を」
ソファの上に押し倒されながら、ローの首に腕を回す。彼は器用に上の服を脱いで上裸になっていた。
「折角だ、いろいろと試してもいいか?」
「えー……実験台は嫌だよ」
「聞いた話によると、そっちの体力はあるんだろ? こんな機会は滅多にない、礼をすると思って協力しろ」
「…………まぁ、それなら仕方ないね」
三食昼寝付き、かつ、肉体関係も持ってくれるというのだ。私からしたら天国のような環境だ。礼のひとつやふたつ、しないと割に合わないだろう。無料ほど怖いものはないのよってロビンさんも言っていた。
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トラファルガー・ローという男は性欲というものが欠如している人生だった。人がどうして欲で溺れていくのか、それが理解できないでいた。……今までは。
彼は、なまえと出会ったその瞬間から欲に溺れていた。はじめて見た見ず知らずの女を自分のものにしたいと思った。こんな風に思ったのははじめてだった。それ故に、この感情の意味が分からないでいた。
話では聞いたことがある、一目惚れ。これがそれだというのか……? と思うと同時に感じた違和感。だがそれも――腰を据えて話をすることで、その正体が分かったのだった。
こいつの能力は危険だ。
「…………今も能力を使っているのか?」
感情の境目というものは曖昧ではっきりと分からない。
「ん? ううん。使っていないつもりだけど……?」
くるりと大きく目を開けたなまえが真っ直ぐに見上げてくる。伸びてきた腕が首の後ろに回ってグッと引き寄せられた。抗うことなく顔を寄せる。間近にある柑子色の瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
今感じているこの感情は、一体どちらの感情なのか。
「ふふ……眉間に皺寄ってる」
耳元で囁く声。
「これが平常だ」
「……うそ。さっきはもう少し優しい顔してた」
「…………俺が?」
「うん」
この俺が、優しい顔を……?
「ねぇ……ロー」
「あ”?」
「感情は、気にしないで。私のことは考えないで。今だけを考えて。男の人ってそういうの、得意でしょう?」
「っ、」
両眼をカッ開いて、なまえを見た。
「おまっ……」
ふざけたことを抜かすんじゃねぇ……! と言うはずだった言葉を喉の奥に飲み込む。
切なげに寄せられた両眉、緩く貌作られた弧を描く唇。それは、諦めの表情のように思えた。
「なんて顔……してんだ」
「ローだって、酷い顔してる」
「俺は……いいんだよ別に」
「私だって、いいんだよ。もう慣れっこだから気にしないで」
またその顔……。
「ふざけるな……お前だって人間だろうが」
「…………?」
言いたいことの意味が分からなかったのか、なまえが不思議そうに首を傾げている。それを可愛いと思ってしまう俺はもう、彼女の術中にはまっているのだろう。……だが、嫌な気はしない。
「嫌なことは嫌と言えばいい。しなくていい」
「……ううん。そういう訳にもいかないから」
「理由は狂うから、か? それ以外の理由は……」
「ない、よ。誰かと関係も持たなくてよくなるのなら、私はもうやりたくない」
「それを今言うてめぇの性根は嫌いじゃねぇが……」
なまえの指に指を絡めていく。
「悪いな……今は、俺がこうなった責任を取ってもらう」
「それに関してはこっちからもお願い。私も限界だから」
「あぁ……」
どちらともなく唇を重ねる。舌を入れ込んで迎えてくれるなまえの舌に絡める。裏をなぞり、僅かな呼吸を繰り返す。それだけでぼーっと視界を霞ませたなまえが頬を高揚させていた。
「ふ……ん、」
閉じられた瞼の上に親指を置く。ゆっくりと開いた両眼を覗き込みながら手の平をくびれに這わせた。ぶるりと身体を震わせてなまえが顔を横に背ける。それを許さない。舌を入れ込んで歯列をなぞってやる。息苦しさを感じてか、はたまた快感に溺れているのか、なまえがくぐもった声で喘いでいた。それが耳に心地よく、このままいつまでも聞いていたいと思うほどに現状に溺れる。
「ふっ、んんっ、ふ……ん…………」
両手首を探り当てて掴む。頭の横でかっちりと固定をしてなまえを見つめた。肩で息をする彼女の瞳はここではない何処かを見ていた。口元はだらしなく開いたまま、わずかに緩い弧を描いている。どうやらそれなりに良かったらしい。喜びを噛み締めながら首筋に口付けていった。首を伝うなまえの汗を舐めとる。汗に混じる甘い匂いが鼻を刺激して腹の底で得体の知れない感情が蠢くと同時に――尻の後ろ、尾骶骨の辺りが疼く。こんな感覚ははじめてだった。感じたことのない感情が己の中にあったことに少しだけ困惑する。このまま、欲望のままに、なまえを抱いて大丈夫か――自分で自分に聞いたところで分かるわけがなかった。
くたりと動かなくなったなまえ。抵抗しないことをいいことに、俺はその身体を弄ぶ。上を服を脱がせて彼女の乳房を露わにし、堅く膨れた乳頭をじっくりと観察した。ピンク色――男とは違う、美しい形に神秘さえ感じた。触れていいものか、と戸惑いつつ、触れたいと本能が喚き散らす。
なまえの顔を覗き込みながら、そっと人差し指を置いた。
「っ、~~~~」
耐えきれない声が漏れ出す。なぜ、どうして彼女は我慢するのか。
「聞かせろよ……」
自分でも驚くくらい甘い声が出たと思う。ハッ――両眼を見開いたなまえが真っ赤に顔を染めていた。
「やっ……男の人ってどうしてそんなに啼かせたがるのよっ」
「いいじゃねぇ……か。善がらせてるって実感が湧くんだよ」
ちゅ、と乳輪に口付けを落とす。そのまま舌で周囲を舐め取る。執拗に、何度も何度も。その間、ピンと立ちきった乳首には一切触れない。ぴくついているようにも見えるそれを横目に見ながら、目を閉じてなまえの吐息にだけ意識を向けた。
「あ……もうっ、意地悪なんだから……」
そう言いながら、なまえが手を伸ばしてきた。
「私だって……」
何をするのかと思えば、上裸になっている俺の胸に手を伸ばしてきた。手の平でやんわりと撫でられるだけで、あろうことか、俺の方の乳首まで立ってくる。
「なっ……」
「……知らないの? 男だって『ここ』感じるんだよ?」
ふふっ――悪びれた笑みと共に身体を起こしたなまえが胸元に顔を埋めてくる。そしてそのまま、俺の乳首を咥えやがった。なまえの舌が詰ってくる。
「っ、~~~~」
「……気持ちいい?」
「やめ……、っ…………」
一気に膨らんでいく欲望の塊。下半身に熱が集まって、脳みそが溶けそうになった。ジーパンの下で立ち上がったそれが痛いくらいに膨らんでいる。あぁ――入れたい。なまえの中に押し入れて突き上げて、めちゃくちゃにしたい。強い衝動に駆られた。
「確認……するが、能力はもう使ってねぇ……んだよ、な?」
息をするのも苦しい。
「うん。……と、思うだけ伝えておく。……ごめん。もしかたら肌を合わせたら勝手に影響するのかもしれない。私は何もしていないつもり……なんだけど、」
苦笑しているなまえ。どうやらなまえの方から見ても、俺の様子はおかしいらしい。
「抗わないで……」
なまえは一切ためらうことなく、俺のズボンのボタンを解いて、反り立っていたそれを解放する。少しだけ息がしやすくなった気がする。
「ねぇ……咥えていい?」
「まさか、そんなことさせるわけがねぇだろ……」
女にそんなことをさせたくはない。そう言うと、なまえは目を真ん丸にして驚いていた。
「ローって、見た目と違って紳士だよね」
「あ? 喧嘩売ってんのか……?」
「ううん」
ふふ……なまえが笑う。
その間も、身体全身の血管が脈打つような強い感覚に目眩を覚えていた。このまま耐えられる自信がない。……この俺が、だ。
「もう入れる?」
なまえは気を遣ってくれたらしく、自分で服を脱いで同じように裸になっていた。
もう返事をするとか、そういう余裕はなかった。行動で答える。なまえの穴に指を入れて慣らす余裕もなかった。突き立てた竿は一切の引っかかりもなくぐずぐずと入っていく。そのくせ、入った後は内にある襞が素直に動かしてくれない。まるで絞り取るように上下左右360度、全方位から俺のことを締め付けてくる。
「…………っ、う…………」
動く度に全身に走る快楽の波が意識を狂わせてくる。いや……おかしいだろこれは。そう思っていたことだけを忘れないように、どうにかそれだけは……あとはもう何も考えられない。ただ獣のように快楽を求めて腰を振った。下になっているなまえの声も耳には届いてこなかった。俺は……一体どうしてしまったんだ。

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