どうしてって……?
首を傾げて見返した船長の顔が不思議そうにこちらを見ている。その後ろにいる人たちはどちらかと言えば吃驚して目を点にしているように見えた。
「覇気を無効化できるのか」
隣で膝をついていた副船長が、酷く気分……いや、機嫌悪そうに立ち上がった。まだ余韻があるのかもしれない。少し体がふらついているように見えたから、大丈夫? とつい言いそうになったけれど、見上げた顔が鬼のようだったので黙っておくことにした。触らず神に祟りなしって言うし。
「それが例の実の能力かよい?」
同じく、体を起こした一番隊隊長が気分悪そうに頭を押さている。
「覇気? 能力? …………というかッ! まさかこの人たちに話したの!!?」
「ん? あぁ、まぁな!」
「まぁな! じゃないよ!」
悪魔の実の能力を知られるということがどういうことなのか、まさか四皇の彼が知らないわけがない。なに? 虐めなの? いびりなの? なんなのこの人!
「いやいやそんなことよりも、お前すげぇぞ!」
「はっ!? 何が?」
「俺の覇気だぞ? 手抜きとはいえ、不意打ちのやつを普通にかわしてんじゃねェか!」
すげぇ! すげぇよ!! ――なぜだか一人でめちゃくちゃはしゃいでいる私の主。話の流れにぜんぜんついていけてないんだけど。なに、この状況……。
助けを求めるとしたら一人しかいない。先ほど鬼の形相をしていたからあんまり話しかけたくなかったんだけど……、隣を見上げて盗み見た副船長はやはりご機嫌斜めの様子。それでも、恐る恐る声をかけた。一応ご機嫌取りのつもりで敬語にしてみたり。
「あの―、副船長?」
「…………なんだ」
「覇気ってなんですか?」
「…………は? 知らねェのか」
「知らないです。すみません」
「鷹の目と一緒にいたのにか?」
「一緒にはいましたけど、こんなの初めてです」
はぁ――深いため息。口にくわえていた煙草が灰になって放り投げられる。懐から出した新しいそれに火を灯して、煙を吐き出した副船長は、少し気持ちが落ち着いたのか、額の皺が一本減った気がする。……気が。
「まぁ、あれだ。気合いだ」
「…………はい?」
「口じゃどうこう説明したところで理解できないだろう、お前」
「そりゃそうかもしれないですけど……、でも普通ごたごたと御託を並べて説明ぐらいするんじゃ」
「そんな気分じゃねぇ」
「…………あ、はい。ですよねぇ」
「お前も感じただろ、お頭の存在ってやつを」
「かなり強めの主張? って感じで感じたと思います」
「まぁ、それだ。それ」
「………………」
なんだか雑じゃない? と思うのは気のせいだろうか。来たばかりのときはもっと優しかったと思うんだけど。……あれ、おかしいな。
「……覇気についてはなんとなく分かったとして。これも悪魔の実の能力ってわけなの?」
「俺もその道のプロじゃねぇから、確かなことは言えないが、お前から聞いた話から推測するに……」
「……するに?」
「主になった奴の力の影響を大きく受けるってことだと考えられる」
「…………能力までってこと?」
「普通、覇気を使えるようになるまではかなり時間がかかる。……にも関わらず、お頭の覇気に対抗した。つまり、お前自身が打ち消すように覇気を出したってことだ」
「…………え、なんか。すごいね」
「あぁ、すげェよ。正直、俺も唖然としている」
え?――慌てて見上げた副船長は眉間に皺を寄せて、複雑そうに歯を噛みしめている。…………なんていうか、不満げな顔っていうのかな、こういうの。
「なかでも、だ。お頭が使った覇王色の覇気は早々誰でも使える代物じゃねェ。でもそれを使った。……使うことができた。……なら、主の力を受け継いだと考えるのが無理のない考えだろう」
「……なるほど」
「鷹の目と一緒だったときはそういうのなかったのか」
「そういうの……は、なかったかな。そもそもミホークさん以外の人と会うこともなかったから、こんな状況にならないもの」
「…………だから、か」
「え? 何?」
「…………いや、なんでもない」
そう言って、口を閉ざしてしまった副船長は眉間の皺の堀を緩めて煙草をくわえて一息吐き出した。揺れる煙が海風に流されていく。視線が自然とそれを追って流れていって、船長と一番隊隊長が何やら話込んでいる様子が目に止まった。
…………嫌な予感しかしない。

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