「おい起きろ、鷹の目」
頭が揺れる。がっしりと肩を掴まれている感覚を感じ取った瞬間、すばやく体を起こして数歩後ろに下がった。赤い髪を視界に入れた途端、酷い頭痛に襲われた。ふらり、ふらりとその場で数回足踏みをする。あははッ!! と人を馬鹿にしたような……いやこの場合は実際に馬鹿している、その声が甲板に響いた。その声はぐわんぐわんと頭を揺さぶり頭痛を引き起こす。
目障りだ、と声を出そうとした時だった。
「ちょっと、お頭?飲み過ぎです!」
「はぁん? 飲み過ぎって……飲ませたのはお前だろう?飲ませておいてそれは……」
「飲めないなら飲めないって言って下さいよ! ……もう、聞いてます? 鷹の目さんもですよ!?」
虚ろになっていた瞼を開き、ぱちぱちと瞬くと、ふ、と口元を緩ませた女がとても楽しそうに笑っていた。はい、お水ですと差し出されたコップを受け取る。
「なんだかほっとしました」
「……どういう意味、だ?」
「お頭から聞いていた鷹の目さんはそれはそれは冷徹な人で、とっても怖いと聞いていたんです。なりふり構わずその背中にあるおっきな剣で敵味方関係なく切りさいていく、と」
あながち、その話は間違っていないのだが。どこをどうやってそう捉えられたのか、問いつめてやろうと思った。ためしに一抹の殺気を放つ。シュンッ、とその瞬間打ち消すようにして、女の後ろから相打つようにして殺気が放たれた。目を細めれば、そこには同じく目を細めて額に血管を浮き上がらせている赤髪がいた。
「鷹の目、てめェ……どういうつもりだ? 今何をやった?」
ザッ、ザッ、と大股でゆっくりと歩いてくる赤髪の周囲には蒸気が立ちこめる。上等だ、と対抗するようにしてこちらも足を踏み出した。
「……お前等、船の上でやるんなら刃物は使うなよ」
あぁ”ん?と心底不機嫌そうに声を上げた赤髪の視線の先にはマストの上に座り込んで高みの見物をしようとゆっくりと煙を吐き出している男がいた。
「なまえ、危ねぇからこっちに来ておけ」
「……はい」
思っていた以上に素直にその言葉を聞き届けた女がマストの下へ移動する。右手を挙げれば上にいた男によってあっと言う間にマストの上へと移動させられた。
「おいベック! なまえに触れんなよ!」
「かまわねぇが、落ちるぞ?」
「ちょ、まって、離すのはなし! なしで!」
「だとよ。気になるんならさっさと終わらせてしまえ」
こちらがふ、と笑みを作るのとほぼ同時にして奴が言う。
「違いねェ」
奴は腰の、俺は背中の。それぞれの刀が甲板に寝そべる。邪魔なコートを脱ぎ捨て、帽子を置く。
「いつぶりだ?」
「お前が腕をなくしたせいだ」
「なくしたんじゃねぇーよ」
互いに走り込み拳がぶつかる。
シュン――
2人を中心にして風の輪が生まれる。
「託してきたんだ」
「だから、お前は馬鹿だと言っている!!」
「は?なんでてめぇに馬鹿って言われなきゃ……」
数十分後――
「副船長。あの2人、そろそろ止めた方が……」
「ったく、」
互いにまったく別の方向を向いて一体誰に話しかけているのか。
「酔っぱらい共が……」
心底面倒だというようにマストから飛び降りた副船長がついでに……と手を伸ばして女もその場に降ろした。甲板に足を着けた女はありがとうと一礼して赤い髪の男の元へと歩いていく。
「おーかーしーら!」
「ん、あァ?なまえか?」
「えぇ、そうですよ~!もう十分暴れたことですし、そろそろお休みしましょう?」
「あー……あぁ……」
すとん、とその場に腰を降ろしてしまった赤髪は数秒足らずで豪快ないびきを上げた。
「もう、マイペースなんだから!」
「まぁ、こいつはここに置いておけばいいだろう」
「ですね!」
2人の視線が赤髪からこちらへ向いたのが分かった。
「鷹の目さんは……」
「来るな」
「え……?」
「それ以上俺に近づくな」
「ど、どうしたんですか?」
「お頭に引けを取らないぐらい、面倒な野郎だ。……なまえ、放っておけ、そのうち眠るだろう」
「……はい」
行くぞ、と歩きだした男の後ろに女がついていく。ちらりちらり、と気にするようにして向けられる瞳が気になった。でもそれも、急に襲ってきた睡魔によって消え去る最後まで見届けることができず、ついにはその場に座りこんでしまう。まさかここまでなるとは、呆れを通り越して笑えてくる。まさか、この俺が女にほだされ、酔わされるとは。

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