隣まであと一歩
「赤髪はお前が……」「分かっています」ぴしゃりと言い切ってみせた彼女は頭痛を抑えるようにして片手を額に当てた。「分からないんです……」「たった今、分かっていると言っただろう」「いえ、違うんです。彼がよくしてくれているのは分かっています。………
群雨恋心
傍にいて、と言っているようにしか聞こえない
ふ、と思わず口元が緩んだのは、その言葉にわずかながらも動揺してしまったのと、そんな俺を見た彼女がにんまりと笑っていたからだった。そのいたずらな笑顔を見て、あぁ、今彼女は俺のことをからかったんだなとそう分かったからだった。「……別に。殺したい…
群雨恋心
この気持ちを素直に言ったらどうなるのかな
その夜は特に長く感じる夜だった。日付が変わった頃のことだ。急に目が覚めた。カタン隣の部屋から音が小さな聞こえた。耳を澄ませていると扉が開いて、閉まる音がした。こんな時間に一体どこへ? 少し迷った。追いかけるべきか。もしここで追いかけずにいて…
群雨恋心
壁越しに背中合わせ
「ごちそうさまでした」両手を合わせ礼儀正しく両目を閉じてそう言ったは探るように視線をこちらに向けた。目が合うとぱちぱちと瞬く。それに対して、目を細め眉を寄せ、呆れたようにふぅと息を吐き出しながら視線を外した。言われなくとも言いたいことは分か…
群雨恋心
差し出された手を取れないこともある
いくつかの可能性を考えていた。奴から逃げた。追われている。はぐれた。さらわれた。様々なことを予想していた。すぐに連絡を取ろうとしなかったのは、もし逃げていたのならば連絡するのは待った方がいいと判断してのことだった。今回、それははずれだったら…
群雨恋心
とりあえず触れてみたい
「ミホークさんっ」「……なんだ」「降ろして下さい」「なぜ」「自分で歩けますから!」「コートを引きずられてはかなわん」「…………」すっぱりと言い切れば、もう観念したのかすっかり口を閉じて静かになったが頭を寄せて身を任せてくれる。数分もすれば疲…
群雨恋心
境界線を過たず
「ミホークさんっ!!」その瞬間、頭に浮かんだのは疑問だった。赤髪ですら通り名で呼ぶというのに、一体どこのどいつが名を呼ぶなどという酔狂なことをしたのか、と。ふと、だいぶ前、半年ほど前に知り合った女のことを思い出した。そう言えばあの女は……背…
群雨恋心
わからないことがたくさんある
ずきずきと痛む頭。最悪の朝だった。酒やけで枯れきった喉が痛い。ずっと同じ体勢で座り込んでいたせいだろう。ぎしぎしと関節が鳴る。なかなか開こうとしない目を開き、顔を上げると潮風が吹き抜けていく。ザバーン、と2度程大きく船体が上下した。まぁ新世…
群雨恋心
拒絶と拒絶とほんの少しの甘え
「おい起きろ、鷹の目」頭が揺れる。がっしりと肩を掴まれている感覚を感じ取った瞬間、すばやく体を起こして数歩後ろに下がった。赤い髪を視界に入れた途端、酷い頭痛に襲われた。ふらり、ふらりとその場で数回足踏みをする。あははッ!! と人を馬鹿にした…
群雨恋心
近付くなという視線
昨夜のこと。赤髪のところへ行ったときの話だ。近頃、世を騒がせている“麦藁”の手配書を、気まぐれに手土産として持っていった。見せてやると、奴の目が輝いた。俺の手からそれをひったくると、いつの間にか後ろに座っていた小さな女へと掲げてみせる。「!…
群雨恋心