第28話 最悪の目覚め

「っ、」

ほんの僅かに動いただけなのに激痛が走った。最悪の目覚めだ。

「……なまえさん?」

目を開くよりも先に、声がした。

「あ〜~、たしぎ?」

右手を掬い上げられて、「はいっ」と元気な返事が返ってくる。あぁ……ちょっとだけ、癒やされた。目を開くと、目元を潤ませたたしぎが心配そうにこちらを覗き込んでいた。…………こういう友達に見守られるの、憧れていたからちょっと嬉しい。にっこりと笑うとたしぎも笑ってくれた。

「……目を覚ましました!」

たしぎが振り返りながら言う。後ろに誰かが居るのだろう。でも、この体勢では見えない。……と、たしぎの視線がゆっくりと動いて、真横にその視線の先にいた者が現れた。……あぁ、こうなった原因を作った人だ。

「…………」
「…………」

そちらから何か言うべきだと思ったので、私は口を閉ざしたままにする。

横になったままだと話が為難いので体を起こしたい。たしぎの手を借りて体を捻った。

「っ~~~~、」

右肩、脇腹に走る激痛。思わず手で押さえると、男が言った。

「……すまねぇ」
「…………」

謝罪は当然だと思う。何しろこちらは冤罪だったので。

「……なまえさん、ごめんなさい。スモーカーさんは私がなまえさんに何かされたって早とちりしたみたいで、」

えぇ、はい。そうだと思っていました。だから、こうして責め立てないようにしております。もしも自分が彼の立場だったとして、私ももしかしたらそうなったかもしれないと思ったので。でも、それにしても……やり過ぎではなかったでしょうか。

たしぎが申し訳ありませんと頭を下げた。

「いや、まぁ……」

たしぎは悪くないと言いたいけれど。正直、上手く誤魔化して欲しかったと思っている。だから、たしぎにも否があったと思うし、スモーカーさんにおいては、上官としてもっと別のやり方があったと思うので、論外だと思う。

男の気だるそうな顔に目を向ける。これが普通の顔だと知っているけど、なんか腹が立つな……。あぁ、もう……体中が痛い。あぁ、でも……私も……、私ももう少し融通を利かせて良かったのかもしれなかった。三人共に否があったと、私は思う。だから――

「いいです。そんな気にしなくていいですから」

罵倒を浴びせられて張り手を食らわせられるとでも思っていたのだろうか。拍子抜けしたとばかりに、二人は間抜けな顔で私のことを呆然と見ていた。ハハッ――なんて顔してるの。

「えぇっと。スモーカーさん、体は大丈夫ですか?」
「…………は?」
「……私、きっと何か……能力を使ったんですよね?」

言う前は確証はなかったけれど、それを聞いたスモーカーさんの顔が引きつったので、やっぱりそうなのだと悟った。

「まだちょっとだるいが、……お前ほど生活に支障は出ねぇよ」

スモーカーさんが私の腕に手を置いて、ゆっくりと上に動かそうとする。でも、何かに引っ張られるようにして、うまく腕が上がらない。

「……?」
「右肩……、上がらないだろ?」

確かに、筋が引っ張られるような感覚がするだけで、うまく動かない。無理に動かそうと反対の手を使うと「馬鹿野郎!」と声を上げて止められて、それと同時に腕に痛みが走った。腕の奥が軋むように痛い。

確かにこれは……。うまく動かせないだけならまだ……、と思っていたけれど、痛いとなれば話は別。しばらくは使いものにならないだろう。回復を待つしかない。……はぁ。ため息をついて顔を上げる。

スモーカーさんが大変申し訳なさそうに眉根を寄せて肩を落としてた。そんな顔を見たら、何も言えなくなるじゃないですか……。長息を吐き出した後に、ふっと笑う。

「……もういいですから」
「だが、」
「その顔を見れただけで十分です」
「……?」
「あれ程の戦闘狂がこんなにもしょげているんですよ。反省しているのは見れば分かります。それだけでいいですから、ね?」
「……相手がお前みたいな女だと知っていたら、あんな手荒な真似はしなかった。俺はそこまで落ちちゃいねぇ……」

「どっかの馬鹿が妙に隠すから勘違いしたんだ」と返された嫌みに苦笑するしかない。確かにその通り。「でも、勘違いじゃなかったら、あれが通常の対応ってことですよね。それもそれで問題あると思います。見直した方がいいのでは……?」なんて返そうものなら突っかかれそうだったので、それは胸の内に隠しておくことにした。この人は絶対に……ぶつかると倍でぶつかり返してくる人だろう。そういう人に接するときは逃げるが勝ちなのである。まぁ、逃げてあれだったけどね……!

「……なんだ?」
「いえ、なんでもありません」

「スモーカーさん、失礼ですよ。せっかく和解して下さるんですから。好意は有難く受け取って下さい」
「あぁーあぁー、分かったよ」

チッ――あからさまに不機嫌そうではあったけれど、素直にたしぎの言うことを聞いているので、ちょっと可愛いと思ってしまった。関係が良好のようで何よりだ。

「さすが、たしぎ……! 分かってる」
「……えぇこれくらいはさせて下さい。なまえさんの怪我は相当酷いんですから。ここで和解できなければ、スモーカーさんは……」
「え、そんなに私の怪我は深刻なの……? もしかして、治らない……?」
「いえっ! すみません。不安にさせてしまいましたよね。怪我は、打撲や擦り傷、切り傷だったので、安静にしていれば問題ないそうです。ただ……頭を強く打ったと聞いていますので、念のため、様子は見させてください」
「……俺が……悪かった……」
「ふふ……」
「……なんだよ」
「いいえ。しばらくはそうやって大人しくしていて下さいね」

あまりにしょげているものだから、「くふっ」と笑ってしまった。当然、スモーカーさんは苛立ちMAXではあったけれど、自分がしでかした手前、それ以上何かするわけもいかず。ただただ拳を握り締めるしかないようだった。……これでしばらくの間、退屈な時間を潰せそうだと心が弾んだのはここだけの秘密にしておこう。

「鷹の目は今、会議に戻っています。予定ではもうそろそろ……終わるかと。それまではゆっくり安静にしてお待ち下さい」
「了解。大人しくしておきま~す」
「私たちはこの辺で……」
「うん、ありがとう……」

「スモーカーさんは始末書を書いてくださいね」
「あ”~~、ちっ、面倒くせェ……」
「これだけのことをやったんですから、当然です。今回は手伝いませんからね!」

心底嫌そうなスモーカーさんに、ちくちくと小言を言うたしぎ。その様子を見守りながらひらひらと手を振った。なぜかスモーカーさんに睨まれたが、それは無視する。

「またね、たしぎ」
「はいっ。では、失礼します」

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2人が退室した後、室内を見回す。ここは宿泊していた部屋の中だ。机の上には替えの包帯やら消毒セットやらが並べられていた。医療用の機械が並んでいないところからしても、大事は無かったということが読み取れる。……良かった。一時は死ぬかもしれないと思ったほどだったので、ほっとした。改めて、両手を開いたり閉じたり、上体を捻ったりして確かめる。

手は……指先までちゃんと動く。頭もたぶん問題なく回っているし、会話も出来た。……思い返せば、ここまで怪我に対して落ち着いて対応できるのは、白髭海賊団にいたときの経験のおかげだろう。あそこにいたときは、小さいながらに看護も経験したし、怪我だって自分のことは自分でできるように教えてもらっていた。ミホークさんは……まず、怪我をしない人だから全然出番はなかったけれど、こうしてあの時の経験が役に立ったと思うと、大変うれしく思う。

……足はどうだろうか。

左手だけを動かして布団をどかしていく。利き腕ではないので、なんとなく違和感があるが、右肩を痛めているので左腕を使うしかない。両足が出せるところまで布団を引っぺがして、ベッドから両足を下ろした。ふらふらと両足を動かしてみる。

痛みは、――ない。

良かった。立ち上がってみても、腰に痛みが来ることはなかった。一番酷いのは、右肩ってことだね。えぇっと、確か……部屋に備え付けられている鏡の前に移動する。鏡の向こう側の姿を目を凝らして見つめた。顔は腫れていない……あれだけ痛かったんだけど、逆に凄いな。あーでも、目がちょっと赤い。これは、……目を傷めたのかな。それとも、寝ている間に泣いた……とか? どちらかは分からないけれど、時間が立てばはっきりするだろう。様子見だ。

サッと顔を洗って身支度を整える。冷たい水が心地よい。ミホークさんのことだから会議が終わったらすぐに帰るって言うはずだ。安静にと言われても、ここに留まり続ける方が心休まらないだろうから。私もミホークさんの馴染みの医者の所に行く方がいい。……そんな人がいるかは知らないけど。……まぁ兎に角。私に出来る範囲で先に準備を済ませておかないといけない。

必要な荷物をまとめる。流石に荷物は運べないので、先に船に運んでおいてもらえるように廊下に控えていたお付きの海兵に頼んだ。何故か物凄く不思議そうな顔で見られた。……え、私、そんなに酷い顔をしているのかな。さっき鏡で見たときは大丈夫だったのだけど……。

時計に目を向けると、そろそろ会議が終わると聞いてからもうすでに1時間が経っていた。少し、遅すぎるのでは。なんだか心配になってきた。私に続いてミホークさんの身にも何かあったのでは……? そう思うと、動かずにはいられなかった。会議室までの道はもう完璧に覚えているので問題ない。

ゆったりとした足取りで会議室まで足を運んで、扉の前で警備している海兵と一緒に並んで会議が終わるのを待った。私の件があったせいか、警備が強化されているようだった。

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「あとどれぐらいで終わるか分かりますか?」
「はっきりとは……ですが、話は終盤に差し掛かかっていますので、そろそろかと」
「ありがとうございます」

――この人は誰だ? とその場にいた海兵はみんな首を傾げながらも、客人としての金属手形を胸につけているなまえをただただ見つめることしかできないのであった。

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会議が終了したらしい。「終わったようです」と隣の海兵が声をかけてくれて、大きな扉を開いてくれる。軽く会釈を返した後に、ひょっこりと顔を中に覗かせた。ミホークさんは……あ! いたいた!

「ミホークさん!」

――と、

「っ!? なまえ、仮面はッ!?」

「あ、…………あぁッ!!!」

そんなこと、すっかり忘れていた。

ミホークさんが慌ててコートの中に私の体を引き入れてくれる。……今日は視界良好だなぁとか、なんか身が軽くて動きやすいなぁとか思っていたなぁ。変装するの完全に忘れてた。……それで出会う人みんながあんなに不思議そうに私を見ていたのかぁ。みんな「この人は誰だ……?」と思っていたに違いない。それでも引き止められなかったのは……、首から下げているプレートを手に乗せる。たしぎから貰った金属板――お出かけの際に「出入りする時は門番に見せてください」と渡されたもので、先ほど「首から下げておくといいですよ」と言われていた。素直にその通りにしておいて正解だったらしい。効果は抜群だ。

ミホークさんの俊敏な動きでコートの中に隠されはしたものの、そこにたどり着くまでの過程で、普通に身を晒していたので、すでに正体は露呈してしまっていた。

「……すみません」

大変申し訳ないですとぼそぼそと呟くが、今はそれどころではないらしい。

「………………もう遅いか」
「…………?」

ミホークさんの影からひっそりと様子を覗き見る。待ち構えていた四方からの視線に体が飛び上がって、ミホークさんにしがみつくことでなんとかこらえた。どうやら全員から注視されているらしい。……迂闊だった。

耳を顰めると聞こえてくるのは、『鷹の目が連れていた者が女であった』ということだった。口々に言う言葉は違うにせよ、総じて言っていることは同じであった。あ~せっかくここまで頑張ったのに。……私のバカ。

「だから被っておけと……」
「……すみません。自分でも呑気過ぎたと思っています。すっかり怪我の方に気を取られていて……」

あぁそうだ、怪我は――とミホークさんの視線が下りてくる。

「大丈夫です。……と思ったから、離れたんですよね?」
「まぁ……。手加減はされていていたようだったからな」
「え、……あれで?」
「まさか受け身のひとつも取れないとは思っていなかったそうだ」
「…………返す言葉もありません、ね」
「…………」
「それより、もう露見しましたし……隠さなくてもよいのでは?」
「…………」

自分のしでかしたことは棚に上げておきながらも、じとり――とした視線でミホークさんを見上げた。ふん、と鼻息しか返って来なかったけれど、何も言われないのでいいのだと思う。こうなれば当初の目的を果たしたいと思う。

恐る恐る、安全領域から足を踏み出す。コートの外には好奇心旺盛の変人達がいるのだ……と、踏み出してしまったら案外何でもなく。くるりと周囲を見回したところで、何やら考えに耽っている七武海の面々がいるだけだった。ほっと胸を撫で下ろす。

少しだけ後ろを流し見て、ミホークさんが不服そうに腕を組んでいるところを確認する。どうやら用件が終わるのを待ってくれるようだ。さっさと済ませてしまおう。

「……あのう」

向かった先は、壇上の上にいるセンゴク元帥の元。ほんの少しだけ警戒の色は見えたけれど、スモーカーさんからの報告を受けているのか、戦闘力はないと思われているようで、私ではなく視線がミホークさんの方に向かって動いた。そして、また視線がこちらに向けられる。何の用で? と言いたげな顔。

大袈裟になりすぎないように気をつけながら頭を下げて、改まった口調で言った。

「ミホークさんがいつもご迷惑をおかけしております」

ゆっくりと頭を上げると、センゴク元帥が呆然とした様子で立っていた。

「……う、む」

返って来た返事は、謝罪を受け入れてもらえたと思ってもよいものか、微妙なところだった。

「名は……?」
「え……? わたし、ですか?」
「あぁ、そうじゃ」
「なまえと申します」
「わしは、海軍元帥のセンゴクと言う」
「はい。存じております。手紙を拝見しましたもので……」
「……あぁ!」

そこまで話が進んで、ようやく合点がいった! と言わんばかりに、元帥の声が弾んだ。どうやら、話をすっ飛ばし過ぎていたらしい。前置きというものを忘れていた。

「何度も忠告を……って、えっ!? あれっ!?!?」

目の前で話していたはずの元帥がだんだん離れ……いや、違う。私が……私の体が宙に……? えっ、なんでっ!? 元帥の視線が私の真上に向かっていたので、私のその先を辿った。

「なんだこいつ……?」

この部屋で最初に会ったあの鰐の目を持つ男だった。

――え?

その男は器用なことに片腕で私の体を持ち上げていたのである。ミホークさんにそんな持ち上げ方をされたことがなかったので、面食らってしまった。何この人、なんでこんなことを……?

そのままくるりと回されて向かい合わせにされる。うぐっ、と声が漏れたのは、服が首に食い込んだからだ。

「ちょっ! なん、……ですか……おろ、して……!!」
「センゴクには礼儀正しい癖に、俺らには敬意を払わねぇってかァ? あ”ぁァ?」
「なんっ、」

「フフフッ」

別の角度から聞こえたのはこれまた個性的な笑い声。大変不気味な声の元を探して顔を上げると、そこにはさらに大きな男が立っていた。ピンクのふっさふっさした羽毛を背負い、逆三角のサングラスをかけていた。目に刺さるピンクピンク!

見るからに背後が危なそうな人たちである。お近づきにはなりたくない。すぐに視線を明後日の方向に向けた。

「つれねぇ女。まぁそういう女もまたいいんだが」

「キシシッ。こんなところに来るとは変わった奴だな」
「……え”?」

まだデカい人いるの? とさらに顔を上ずらせる。気づけば私はその場にいた七武海の全員に取り囲まれていた。……いや、ミホークさんは除きますけど。……っていうか、皆さんなんでそんなに興味津々なのでしょうか……。

それでも私が大人しくしている理由は、この状況でも騒ぎ立てることなく見守っているミホークさんと、元帥の存在だ。二人が「まぁ大丈夫だろう」と認識しているようなので危険ではないのだろう。でも、逆に私も動きずらい。

「えっと、あのう……なまえと申します。以後、お見知りおき頂けますと、幸い……です?」

クハハハハッ――急な大声に身が跳ねる。どうやら鰐男のご機嫌を損なうことは回避出来たらしい。……いや、なんでよ。さっきまであんなに怒っていたじゃないか。恭しくしたから? え、たったそれだけで? そんなに? ますます理解できない。

ご機嫌になった鰐男がようやく地に足を付けることを許してくれた。衣服が首を絞めつけていたので、そこを整える。首に違和感は残るけれど、昨日の怪我に比べたら全然ましだ。これくらいは、経験値と思っておこう。

「いい度胸だな。そこは誉めてやろう」

なんかえらそうな人だな。なぜ貴方に誉められて喜ぶと……?

「俺はサー・クロコダイル。砂の国の英雄だ」

えっ!? 英雄……? 本当にこの人が、英雄? こんなに背後のオーラが真っ黒で蠢いて見えるのに、英雄なの? 砂の国とやらは一体どうなっているのだろうか。「あ”?」と顔を寄せられて思わず仰け反る。なぜそんなにけんか腰……怖気づいて一歩身を引くと、後ろの人に当たった。

「あ、ごめんなさ……ぃいっ!?」
「あぁ、なんて可愛い女子おなごじゃ!」

ふにんと柔らかな感覚が頭の上に――遅れてやってきたの高く細い声を聞いて、女性がいることに驚いた。体躯が大きな輩にばかり目が向いてしまっていたから女性がいることに全然気づかなかった。今度もくるりと体を回される。今日はもうこういう日だと思うことにしよう。人形になった気分だ……。

向かい合った女性は想像していた以上の美しさで、所謂、絶世の美女というやつだった。こんな人が存在しているなんて……! それも、王下七武海。強さも兼ね備えているなんて、完璧でないか……!

「わらわはボア・ハンコック。九蛇海賊団の船長じゃ。女子ならいつでも歓迎じゃ。あの……鷹の目に愛想が尽きたらいつでも来るとよい。そなたなら歓迎しよう」
「は……、えっ?」

一体どうして、私が引き抜きを打診を受けているのか。話の流れに全くついていけておりません。なん……えぇ、もうどういうこと!?

「ん? わらわの能力が……」

呆然としていると、後ろから腹に腕が回って、ぐっと引き戻された。顔を上げた先、後ろにいたのはミホークさんだった。

「……満足か?」
「えっと……はい。すみません。どうして変装する必要があったのか、今理解しました」
「……まったく」

小言を言いつつも、肩の傷を労わるように扱ってくれるミホークさん。ふわりと胸に浮き上がってくる熱情がほんのりと頬を赤く染めた。指に触れるミホークさんの手のひらが愛おしくて、きゅっと握りしめる。どこにいたって、何をしていたって、やっぱりミホークさんじゃないとダメだと再認識させられる。右肩を守るように、ミホークさんの体にそっと寄り添った。

「気が済んだのなら……「はい。済みました」……そうか」

コートの中でひっそりと握り返してもらって、嬉しくって笑みを零す。私にだけ分かるくらい、本当にわずかだけ口元を緩ませたミホークさんが瞬いた後に、元帥に向かって言った。

「会議が終わったんなら、もう帰ってもいいだろう?」
「あぁ、そうじゃな」

ミホークさんは軽々と私の体を横抱きにすると、足早に部屋を後にした。

:
:

なまえが居なくなった室内――

「あれはなんだ?」

クロコダイルの呟きに誰もが「それは俺が(私が)聞きたい」と思った。

あの鷹の目が、割れ物を扱うように女を扱っていた。その女は女で、それが日常であるように振舞っていた。今日が特別ではないということは、それはつまり二人はそういう関係である、ということになる。

もう一度言う。

――あの鷹の目が?

誰もが自身の目を疑い、その場で立ち止まっていた。

「海軍は把握しているのか……?」

鷹の目の連れともなれば、情報網の中に入れておかなければならないだろう。単に囲ってるのであればいいが、あれが実は驚異の力を持っていて、それを鷹の目が利用しており、海軍、ひいては世界政府への脅威となりえるのか、それを見定めなければならない。単純に、側に使える剣士であればそんなに驚くことはなかったが、女だった。

それは、その問いを投げかけられたセンゴクとて同じことで、他に漏れることなく、センゴクも思考を張り巡らせて鷹の目の真意を見抜こうとしていた。……が、どう考えても情報が足りない。

その時、会議室に入ってきた伝令が手紙を持ってきた。先ほどの騒動の始末書の抜粋が出来上がってきたらしい。前もって先に提出するように指示をしておいて正解だった。書類に目を通していく。

連れは女。戦闘能力は皆無。騒動で右肩負傷。その他は、打撲擦り傷切り傷多数。和解済。脅威はごくごく低い。ただし――

「お主らも知っての通り、昨日までは変装しておったのじゃ。わしらとて詳しくは知らん」

はんっ、そんなんでいいのか――と小言を零したクロコダイルが扉に向かって歩き出す。それを皮切りにして、その場は解散となった。

――能力者の可能性、大。

「これは、荒れるのぅ……」

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