偵察から戻ったミホークは部屋の惨状にギョッとする。
部屋の真ん中にあるベットにはおそらく風呂上がりに倒れ込んで、そのまま深い眠りついたであろうなまえの姿。ベットの周りには脱ぎ捨てられたなまえの服。
取り敢えず、部屋に足を入れる。窓際にある机に仕入れてきたワイン1本とグラス2杯をそっと置いた。僅かに軋む床板の音に反応することもなく、なまえはすーすーと寝息を立てている。そんな格好では風邪をひくだろうとタオルケットをかけるためにベットへ向かった。本当に気持ちよさそうに眠っているので思わず手が伸びたが、頬に触れたところでびくともしない。
「……解決したようだな」
その幸せそうな寝顔から、先ほどの悩みは解決したのだろうとミホークは笑みをもらした。
「みほーく……」
なまえが小声で名を呼ぶ。
「……寝言か?」
覗き込むとなまえは変わらず目を閉じている。優しく頭を撫でながら、ミホークは考えていた。
これからどうするか……よく考えなければならない。
:
なまえと海賊との関係――
俺と海賊――
そして、俺となまえ――
:
なまえと海賊が一緒にいる限り、例外はあれど、立場上はその場に一緒にいることを避けるべきだろう。正直、海賊ども全員を牢屋にぶち込めばすむ話だと言いたい。――が、それではなまえが納得しないだろう。
「どうするべきか……」
それにしても、思っていた以上になまえと海賊との情は厚かった。これではなおさら、全員をぶち込むわけにはいかない……そうしようものなら、関係は拗れてしまうだろう。
「……どうすればいい」
ミホークは苦悩の表情を浮かべ、囁いた。弱音という囁き。今までこんなことは一度もなかった。こんなことで行き詰まるなど……。
ふぅ――――
なまえ自身の能力のこともある。……問題は山積みだな。
「時間はたっぷりある、か……」
「ん……」
目を開けるが、眩しくてまたすぐに閉じてしまう。瞬きを繰り返した後、ゆっくりと視界がはっきりとしてきた。真っ白いシーツの海が広がっている。
ふかふかのベット――
あぁ、そうだ。島に着いたんだった。
体を起こす。
「ようやくお目覚めか?」
「ひゃっ!!?」
左隣から聞こえる声に悲鳴が飛び出た。慌てて振り向くと、ベッドに腰かけたミホークさんが目を細めてこちらを見ていた。
「……なんだ、ミホークさんですか」
「……不服か?」
「いえ、そうではなくて……。ちょっと混乱していただけです」
「…………」
「ちょ、なんで近づいてくるんですか!」
腰かけた位置から腰をずりぃ――とこちらに動かしたミホークさん。セミダブルサイズのベッドとはいえ、そんなに近くに寄られたら恥ずかしい。……と言うのも、ミホークさんとベットで過ごした時間は一緒に居た年月に対してそんなに多くはない。まぁ、その原因は全面的に私なのだが、それについては触れないでおく。大変申し訳なく思ってはおります、すみません。
「…………」
どことなく不満気なミホークさんだったが、どうやら私の抗議を聞いてくれたらしい。すんなりと腰を戻して立ち上がった。
……というか、ミホークさん上裸。
ミホークさんは、ベッドで眠るときには上裸になる。知っている。知っている知識だ。……でも、ミホークさんはソファで寝たのでは……? 首を傾げつつ見上げる。
っ――――
鍛え抜かれた体というものは本当に芸術作品のようだ。思わず感嘆のため息が出てしまうほど、ミホークさんの体は美しい。
「……本当に、綺麗」
何度も見ても見足りない。
「?」
あまりに熱中し過ぎたせいか、視線に気がついたミホークさんが着替えのシャツを片手にこちらを向いた。
……う、寝起きにはちょっと刺激が強い絵面となっております、ミホークさん。ぎゅ、とシーツを握り締めて、肩の力を抜くように息を吐き出す。落ち着け、私。ミホークさんがかっこいいのは今に始まったことではないでしょう。いつものことでしょう。
取り敢えず、にっこりと笑みを返してやり過ごす。
ミホークさんに見惚れている場合ではない。私も支度をしないといけない……――っ、!?!?!?!?
「あ、の……」
「なんだ?」
「もしかして……私、ずっとこの格好で?」
「………そうだが?」
何か問題でも? と小首を傾げるミホークさん。いやいやいや、問題大ありです。私、いま、裸!
ミホークさんの目前で、は、だ、か!!
ちょっと待って、落ち着け落ち着け。落ち着け私。大丈夫。動揺しているのは私だけ。ほら、ほらね。ミホークさんはいつも通りでしょう?
するりと肌から落ちかけたタオルケットを慌てて直し、体を隠す。幸い、タオルケットを被っていたから全裸はさけられた。よし、うん、大丈夫。うん、まずは落ち着いて服を……。
うわぁあああああ――やってしまったよ!
服脱ぎ捨てたままになっているじゃないか!
着替え服を探したら、ベッドの反対方向に脱ぎ散らかされた私の服があった。……なんてことだ。物凄く恥ずかしい。ここ数年で一番の恥ずかしさかもしれない。
「…………?」
ふと気配を感じて、顔を上げる、と――ミホークさんが再びベッドに腰かけていた。頼りないタオルケットを引き寄せつつ、「昨日はどうかしてたみたいです」と顔を伏せた。
「疲れていたんだろう」
「……そう、なのかもしれません」
そう言ってもらえてよかった。だけど、まだミホークさんの隣に立つのには相応しくはないかも。もっとお淑やかになりたい……。
思わず「はぁ~~」とため息をつく。落ち込んでいてもしょうがないと気持ちを切り替え、気を取り直した。私の持ち味は前向きなところだって、店長が言っていたっけな。懐かしいことを思い出した。
「ミホークさん。着替えるので、向こうを――えっ?」
最後まで言い終わる前に、視界が暗転した。急に押したら舌を噛むでしょう、なんてことを思ったのも束の間。目の前に迫る金色の瞳が意地悪く光った。
「ん、」
性急な口付けに頭が追い付かない。なんで、どうしてこうなった!? ミホークさんのスイッチが急に入ったことに戸惑いが隠せない。兎にも角にも、息が……、ばしばしと遠慮なく肩を叩いた。
「朝まで待った奴に対してそれはないだろう」
「……?」
「この状態のなまえを無視しろと俺に言うのか?」
まさかな、と彼の目が鋭く光る。
「いや、あのですね。そんなつもりではなくてですね!」
あ、これは、完全なるアウトだ。脳内で警報が鳴る。ミホークさんのスイッチが完全に入ってしまっている。こうなってしまっては私がどう頑張っても逃れられない、ってか、もうどうしよう。心臓が持たないよ!

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