第2話 刀と二丁拳銃

修練に向いた動きやすい服装に身を包む。シンプルに白いYシャツに緑の上着、黒いズボンだ。靴は走りやすいようにしっかりとしたクッションが入っているものにしている。さすがにミホークのような軽装ではいられない。

城を取り囲う崩れた塀。そこから一歩、外に踏み出す。

途端に辺り一帯の空気が重く変わった。詳しいことは分からないが、塀の中と外では何かが違っている。シッケアール王国があったこのクライガナ島はたいへん湿気の多い島である。だが、この塀の内側はそれが幾分かましになっている。理由はミホークも知らないそうだ。

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塀の内側は安全地帯。外側は……、

「キャホ! キャホ!」

「さっそくお出ましだね」

現れたのは島を住処としているヒューマンドリルという大型のサル。ミホークはヒヒと呼んでいる。

ヒヒは、強い。ミホークにとっては毛ほども気にならない脅威でも、私にとっては強敵だった。彼等が私の修練の相手。了承を得たわけではないが、襲いかかってくるので、それを修練としてうまく利用している。

腰に差していた刀に手をかける。現れた3匹のヒヒはかつてこの国で使われていた武器や防具を身につけており、軽やかにこちらに向かって走り寄って来た。刀を構える。息を深く吸い込んだ。肺が、重い……。湿度が高い島だからか、この島の空気はとても重く、動きにくかった。

「勝負!」

キ――――ン

飛び掛かって来た一匹のヒヒ。その剣先を受け止める。奴らの身体は私の二倍はある。力では勝てない。ミホークに教えてもらったように、力を受け流すように刀を流しながらヒヒをあしらう。

体勢を崩して背後を見せたところに一太刀を入れ、戦闘不能にした。よし、一匹終了。

キ――――ン

息を付く暇はない。間髪入れずに降りかかってきた斧。力が強過ぎて受け止めきれない。その場に片膝をついてどうにか踏ん張る。鋭く尖った斧の先が目前に押し込まれてくる。ググググッ――どうにか堪える。……が、これ以上は耐えきれない。腕の力が限界に近かった。渾身の力を込めて横に振り払い、斧の側面を叩くと動線がずれ――そのまま、身体の横に流れていく。斧は地面に深く突き刺さった。相手の武器がなくなった! これはチャンスだ。すかさずヒヒに斬りかかろうとしたところ、もう一匹のヒヒの気配が迫ってくるのを感じ……

ヒュン――吹き飛ばされる。

そのまま木にぶつかって背中を殴打した。いつだったか、海軍本部でどっかの誰かさんに吹き飛ばされた時のことが蘇ってくる。あの時は本当に痛かったっけ。……けど、今は違う。今の私はミホークに鍛えられている。あの時の無知な一般人ではないのだ。背中に広がる痛みを察するに、大した怪我ではない。くるんと身体を捻って、地面に着地する。

吹き飛ばしたヒヒを見た。奴は私と同じ刀を手に構えている。刀なら、私でも応戦できる。ヒヒの足が地面を蹴るよりも速く、地を蹴った。ヒヒの刀に刀が合わさる。押し気味に、キンッ――、キンッ――、キンッ――、甲高い音が辺り一帯に響いた。……いける。私の方がスピードがあるから押している。あと数手で……、と。意識の端に張っていた網に、残りのヒヒが引っ掛かった。

どうやら、深く地面に刺さっていた斧が抜けたらしい。

戦闘態勢に入りじわじわとこっちに向かって距離を詰めてきている。2対1、厄介だ。刀を大きく弾いたとき、次の一太刀までの隙を突くように、ヒヒが上空から斧を振り下ろす。重い鉄の塊が落ちてくるのだ。スピードも威力もある。刀では受けきれない。避けないと……! 間一髪、後ろに転がるようにして避けた。……でも立ち上がる暇が無い。こんな状態で構えた刀じゃ次の攻撃を防ぎきれない。

額に汗が流れ落ちていく。頭を回せ。考えろ。距離はある。頭は冴えている。だったらやるしかない。……今なら、できるかもしれない。

目を閉じてヒヒの気配に意識を集中する。一匹は左から、もう一匹は右から、挟み込むように走り込んできている。

「今度こそ、」

左右の太股にある特製のホルダー。そこに納まっている愛銃のうちの1つに左手をかけた。銃口を左に向ける。絶対に当てる。……いや、当たる。パンッ――弾丸を放った。次の瞬間には身を翻して右を向く。右のホルダーからもう一丁を取り出して構える。斧が上から振り下ろされた。頬のぎりぎりのところを刃先が過ぎていく。錆の香りがした。パンッ――、ヒヒの顔面に銃口を突きつけてもう一発打ち放つ。

ドサッ――

ヒヒがゆっくりと倒れていった。

「っ、はぁ……はぁ……はぁ……」

呼吸が、苦しい。……けど。一匹ずつ、ヒヒの状態を確かめていく。念のため、はじめの一匹にも銃弾を撃ち込んだ。

ヒヒに打ち込まれた弾丸は白い煙を上げながらヒヒに染みこむようにしてゆっくりと消えていった。不思議なことに身体には穴も空いていない。だが、ヒヒはぴくりともしない。

ついに――

「やったァ!!!!!!」

歓声が辺りに響き渡った。木々に止まり様子を見ていた鳥たちが驚いて一斉に飛び立つと森がざわざわとさざめいた。空を仰いで大の字で地面に倒れる。極度の緊張から解放されたので、身体の力が一気に抜けてしまった。……つ、疲れた。

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ザッザッザッ――

聞こえてくる足音。姿を見るまでもなく、誰だか分かる。

「我慢してくれてありがと」
「ヒヤヒヤしたぞ」
「ごめん。けど……なんとか勝てた」

木々の影の下に現れたのはミホークだった。彼は、ふむ――と辺りを見回している。遠くに倒れているヒヒが一匹、あちらは刀で倒した。すぐ傍に倒れているヒヒは愛銃で倒したもの。ミホークの目当てはこちらだ。

彼が二匹の方に歩みを進めながら言う。

「チカラは使えたのか?」
「……うん。やっと」

伸びているヒヒを注意深く確認し、ミホークが戻ってくる。

「…………見事だ」

下から見上げた彼の顔。口元が、ニッ――と弓なりに動いた。合格だ。ミホークのお墨付きを頂いた。

「よっしぁーー!!」

戦闘訓練を始めてから、ここまで来るのに二年もの歳月がかかった。毎日、きちんと鍛錬はこなしていたし(まぁそれ以外やることなかったし)、頭の方……知識だって、ミホークから与えられる本をひたすら読んでしっかりと蓄えた。真面目にこつこつとやってようやく……! ようやく、私は自分のチカラ――悪魔の実のチカラを使いこなすことが出来るようになった。

どっしりと、傍にある切り株に腰を下ろしたミホークが器用に膝に肘を置いて、その上に頬を置く。もの言いたげな視線が私を見ていた。

「……どうしたの?」
「いや……。まさかここまで来るとは思っていなかったものでな」
「えぇっ!?」
「なまえの評価を見直さなければならない、と思ったのだ」
「何それ! 出来るようになるって言っていたのミホークじゃんかっ!」

私が口先を尖らせると、フッ――ミホークが無邪気に笑う。

「確かに、いずれは使えると思っていた、が……」
「…………が?」

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正直ここまで強くなるとは予想外だった。

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