昨日はBarでなまえと話をして、なまえのことを色々知った。それも本人から直接だ。
その日の夜は帰宅してからというもの嬉し過ぎてなかなか寝付けなかった。自分でも柄じゃないとは思う。これが人を好きになるということなのか、と戸惑いもした。そして今まで恋愛というものを放置してきていた自分を少し責めた。
だが、そのおかげで今なまえに本気になることができているのだから、結果的にはよかったのかもしれない。目を閉じると瞼の裏側に蘇ってくるなまえの笑顔。もう話すだけでは満足できそうになかった。いつかに抱いた温もりが蘇ってくる。
なまえを強く抱きしめたい、と。そう思うようになっていた。
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翌朝。今日は本社に出る前に支社に寄ることになっていた。そのため今日は電車での通勤。電車移動は久々だなと思いながら改札口を通る。
いくつもある路線の中から今日乗る場所を見つけて歩きだしたとき、目に映ったなまえの姿。自分の目を疑った。ついに幻覚を見るまでになったかと。でも、それは違っていた。
「うんそうそう。すごくいい人だったんだ」
「そっか~! それは良かった。すごく心配したんだから」
「あはは……ごめんね」
「これに懲りてもう合コンは断りなさい?」
「うん。……できるだけそうする」
「できるだけって、もうなまえは……」
「……ごめんなさい」
なまえがぺこぺこと頭を下げている相手は誰だろうか。見たことのない女性だった。服装は学生には見えない。直感だが、おそらく社会人。なまえよりも一回りほど年上に見えた。
「なまえ、いい? 次、どうしても断れなくて合コンにいくことになったら彼氏がいるってことにしなさい」
「え……でもそれって嘘……」
それはなまえには無理だろうな。なまえはあのグループの中に好きな奴がいる。そんな奴の前でそんなことを言えるものか。
「嘘でもなんでも、そんな友達とばかりいたらなまえが損するだけでしょ?」
そこに関してはまったくもってその通りだ。うんうんと頷きながらその会話を聞いていると、そのなまえと話している女性の顔がこちらに向いた。……しまった。
「それでなまえ、その例の男の人っていうのは……」
慌てて立ち止まっていた足を動かす。
「あ、えっと。ミホークさんっていう人でね」
「その人ってどんな人?」
……が、また足が止まってしまう。視線は逸らしたまま、明後日の方向を見て耳だけをなまえの声に傾ける。
「どんな人って……働いていて、昨日はスーツ着てた。それでね、お髭がすごいの! 絵に描いたみたいにすごい整っていて、ちょっと変わっていたかな?あ、でね! 瞳が金色なの! すごいでしょ?」
「あーー……うん。なまえはもしかしてその人のこと、好きなの?」
「え? まさか。……どうして?」
思っていたよりもショックだった。なまえの方を見たら、こてんと首を傾げたなまえが目の前に立つ女性を見ていた。その女性はまたこちらに目を向けて、はぁ~と息を吐き出していた。まるで、貴方ね? と言われているようだった。
幸いなことになまえの方からはこちらが見えていないらしい。その女性から視線を外して逃げるようにしてその場を離れた。ずきずきと痛む胸の痛みと急に襲ってきた頭痛に顔をしかめる。
昨日の夜、なまえはあんなにも楽しげに笑ってくれていたのに、それではだめだったのか。なまえの瞳に映った自分は一体どんなものなのか。それが分からなくて、これから先、どうしたらいいのかも分からない。あのBarに行けばまたなまえに会えるだろう。でも、そこで俺は……また、今までのように見守ることしかできないのだろうか。いつかのように、なまえと他愛無いのない話をして、なまえに触れることはできないのだろうか。なまえの瞳の中に、なまえの想い人として映ることは一生こないのだろうか。
俺はこんなにもなまえのことを想っているのに。どうやれば、なまえに伝えられるのだろうか。あぁ、もう苦しくて、どうにかなってしまいそうだ。…………泣いてしまいそうだ。
今はただ……、途方もないものを見ないふりして、拳を握りしめて、自分を誤魔化すことしかできない。そうやって、電車に乗って今日も仕事に向かう。歳ばかりとってしまった。自分を誤魔化すのが癖になってしまった。大人の……俺の嫌な癖だ。

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