ちょいちょいと服の裾を引っ張られて顔を向ける。
「どうした?」
視点を下げると、こちらを見上げる瞳が揺らいでいた。なまえは苦悩の表情を浮かべた後に一度瞬き、しっかりとこちらを見た。そして一歩こちらに歩み寄りゆっくりと目を閉じた。顎を上げ、こちらに向かって背伸びをする様子に頬が緩む。無意識なのか、こちらの服の裾を掴むその手が視界に入った。とても小さな手だ。その手をやんわりと握る。視線を再び上に戻せば愛しい人が目に映った。
実はそこで気づいていた。でも、あまりにその様子が可愛いものだから気づかないふりをした。この後のことを想えば堪らなかった。しばらくして、分からなかったのかな? と目を開けたなまえの姿ににやけそうになる。それを押し止めてなんとか冷静な表情を作って見せた。なまえは眉を寄せ、首を傾げて再び服の裾を遠慮がちに引っ張ってくる。
可愛い過ぎる。
ニヤケるなというのが無理な話だ。それでも気づかないふりをしてみるが、何かおかしいとこちらを見てくる目がだんだん疑いの目に変わる。もしかして、分かってやってる? と。ちらり、視線を下げるとついに耐え切れなくなって口が緩んでしまった。きっと口端が上がっているのが見えたのだろう。なまえはもう! と顔を真っ赤にして頬を膨らまし、振り返って行ってしまおうとする。その片手を掴んで引き寄せるとなまえの体が大きく揺れた。わっとバランスを崩してこちらを向いた瞬間、唇を奪ってやる。すぐ目の前でまん丸の瞳がこちらを見ていた。
少し長めの触れるだけのキス。それからは唇を離し、再び先ほどの距離間に戻る。このままここにいては余計に離れにくくなってしまう。そう思い、握っていた手を離して振り返った。そして、すぐ横につけていた船に乗ろうと足を踏み出した。
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唇を奪われた瞬間、目の前には大好きなミホークさんの顔。
行ってしまう。
また行ってしまう。いつも置いて行かれてばかり。それはもう嫌だ。颯爽と振り返ったあの人の手を掴もうと後を追って振り返る。精一杯手を伸ばしてみたけれど、あまりに違う歩幅のせいで私の手は宙を舞った。ミホークさんが遠くに見える。こんなに近くにいるのに、すごく遠くにいる気がした。ミホークさんの世界は私には遠過ぎて、そこに……すぐ傍に行けそうにないよ。体から力が抜けていった。湧き上がってくる不安に耐えられなくて、怖くて、去り行く大好きな人の後ろ姿に向かって言った。
行かないで……と。
その言葉は込み上げつつあった涙のせいでかすれてしまっていて、うまく届いたかどうかも分からなかった。涙で視界が埋まりそうになったその時、突然足を止めたミホークさんがこちらに振り向いた。視界に映る彼は困ったような表情でうっすらと笑っていた。どうして笑っているの? そう言う間もなく、彼はあっという間に距離を詰めて私を抱きしめた。訳が分からなかった。耳元で彼が囁く。
「何を言っている……俺の世界の中心はお前だろう? どこへも行ったりはしない。俺の心は常にここにある」
紡がれた言葉に目を見開いた。私の目に映ったミホークさんは私にしか見せない悪戯な笑顔で笑っていた。目を見開いたままこくこくと何度か頷いた私を見て、彼はクスリと笑う。きっと口が開いたままにでもなっていたのだろう。よく口が開いたままになっているって言われてたから。あぁなんだか凄く落ち着いた。がむしゃらにミホークさんの服を握り締めた。頬を摺り寄せて涙を落とした。不安が消えていく。頭に置かれた手が何度が動き、彼は再びぎゅっと強く抱きしめてくれた。そうして彼は言った。
「もう少し待っていてくれるか?」
「……」
その言葉の意味を考えた。でもよく分からなくて顔を上げて目線をゆらゆらと揺らしながら彼の瞳を見返すと、もう少ししたらお前を迎えに来ると彼は続けた。もう嬉しくて、嬉しくて。今度は嬉しくて涙が止まらなかった。
「お前の涙は苦手だ」
「……うん」
「そんなに泣いてくれるな」
「ごめん。すごく嬉しくて」
「……そうか」
なだめるようにして背中を撫でてくれるその手の温かさといったらもう……すごくほっとした。
「行ってくる」
「どうしても?」
「……あぁ。あと少しの我慢だ」
「……うん。分かった」
離れたくなくてそう言いながらも変わらず抱きついたままでいた。そうしたらもう一度ぎゅ、と抱きしめてくれた彼がやんわりと手を解いていく。彼の右手が頬に触れ、私の名を呼んだ。
「なまえ。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ようやく体を離した私から彼はゆっくりと離れていく。彼の顔はそれはそれは凛々しくて。被った帽子に手を添えて整えながら彼が言った。
「俺以外の者にその顔を見せるな」
そうしてあっという間に水平線の向こうに消えていった。
「……うん」
船影が消えていった方向をジッと見つめる。世界が違うと思っていた貴方の心はここにあったんだね。胸に手を置いて彼のことを想う。ミホークさん、お誕生日おめでとう。貴方は何にも嬉しくないと言っていたけれど、私はすっごく嬉しいよ。ミホークさんが生まれてきてくれてよかった。じゃなきゃ私は貴方に出会えなかったんだもの。
ミホークさん、どうかご無事で。
「誕生日を祝いたい」って。自分の誕生日を祝う為に海の彼方から駆けつけてくれる人なんてそうそういないわよ? 友人の言葉に私ははにかみながら頷いた。
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150309 End.
Afterword
ミホークさんの誕生日小説です。遠距離恋愛をしている二人のお話です。ミホークさんは一匹狼で原作と変わらず王下七武海に所属。対する彼女は普通の女の子で一般人。ミホークさんが気まぐれで助けてそこから仲良くなりました。ありきたりですね。健気な感じがミホークさんにとっては新鮮でドストライクでした。
鷹→→→→→→→←←←女の子
っていう具合です(笑
超過保護だけど海には連れ出せないのでしばらく葛藤した結果、やることさっさとやって陸の上で生きることを決めました。そんなわけでこの別れから10ヶ月程してミホークさんは返ってきます。そして夫婦に。そんな二人のワンシ―ン。気に入って頂けたら嬉しいです。
ミホークさんお誕生日おめでとうございます。そして、産まれてきてくれてありがとうございます!!貴方がほんと大好きですっ!!
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