なぜこうもかぶるのか

「ギャハハハ~!」
「それはないだろ!」

甲板に響き渡る笑い声。普段は静かな場所にしか行かないミホークが珍しく、四皇赤髪の船に来ていた。ミホークはいつも以上の盛り上がりを見せる船に顔をしかめながら歩き慣れた甲板を歩く。

「おお! 鷹の目じゃねぇか。よく来たな!」

背後から声をかけてきた男が赤髪のシャンクス、この船の船長だった。ミホークは視線だけをシャンクスの方へ動かして言った。

「…………これは何の騒ぎだ」
「悪いな。ちょっと歓迎会と重なっちまった。お前もどうだ?」

シャンクスが片手に持った酒瓶を陽気に揺らす。

「…………いい。それよりさっさと用事を済ませたいのだが」
「おいおい、そんなこと言うなよ。な?」

あからさまに迷惑そうな顔をするミホークだったが、シャンクスはかまわず続けた。ミホークの肩を軽く叩くと、颯爽と先導するとばかりに歩き出す。ミホークはこうなったシャンクスを止めるには骨が折れると知っていたのであきらめて後について行くことにした。もちろん、深いため息を吐き出しながら。

船内の中で一番騒がしいと思われる部屋の前にシャンクスが立つ。その一歩後ろにミホークが立ち、顔をしかめた。扉を開く前だというのに酷い騒音が聞こえてきていたからだ。そんなところへすすんで入りたいとは思わない。そう考えるミホークとは裏腹にシャンクスが勢いよく扉を開く。

扉の向こうは予想通りの荒れ具合だった。何かの祝宴ようにこさえられた大広間には船員たちによっていくつものいびつな形の円陣が作られている。あるところでは楽器を持ち寄って所々音程を外した演奏を、あるところではかつて自分たちが経験した壮大な冒険の思い出話を。あるところではしんみりと話しながら時々笑い声を上げて。それぞれが想い想いに宴会を楽しんでいた。

床に転がる酒瓶を器用にかわしながらシャンクスが足を踏み進めていく。その後ろでは心底入りたくないという態度でその室内にいるものすべてを嫌悪感丸だしの表情で見つめているミホークがいた。それを見たうえでも変わることなく入るように促すシャンクスにミホークは「あぁ、分かった」と渋々返事を返して足を踏み入れる。今日は運がなかったと肩を落としているようだった。

「おい、ミホークが来たぞー」

シャンクスが部屋全体に聞こえるように叫ぶと、部屋の中心から「お頭こっちこっち!」という声が聞こえてくる。

「あー……あそこだな」

シャンクスがお目当ての人を見つけたようで、行くぞと合図を送る。もはやうるさ過ぎてシャンクスの声は聞こえない。合図から判断したミホークは、まだ奥へ進むのか、とぼそりと言いい、はぁー……とため息を吐き出して帽子を深くかぶり直す。それから一度立ち止まり、決心した後にシャンクスの後に続いて足を踏み進めた。

その場所には小さな円陣が出来ており、幹部クラスのものが集まって静かに飲んでいた。シャンクスはベン、ヤソップに挟まれて楽しそうに話している小柄な者の元へ真っ先に向かう。

その者はシャンクスを目に留めると立ち上がってお出迎えをした。シャンクスが何かぼそぼそとその者に耳打ちをする。するとその者はハハハッと声を上げて笑って、二人して円陣に加わるようにその場に腰を下ろす。きっとまたしようもない冗談を言ったに違いない。ミホークは呆れた表情を浮かべながら、円陣に加わることなく、すぐ近くの壁にもたれ掛かり、目を閉じて耳を澄ませていた。

「悪いな、遅くなっちまった」
「いえ、シャンクスさんこそ行き帰り大変でしょ?」

シャンクスと話す声はとても柔らかく、すぐにその者が女だということにミホークは気づいた。そう言えば、少し前に赤髪がとある娘を拾ったという話をしていたなと思い起こす。

「まぁ慣れてるからな。お前も早く慣れろよ」
「えー。慣れるかな……?」

娘がう~んとうなり声を上げながら頭を抱える。まぁ、気楽に行こうぜとヤソップが酒をすすめるとシャンクスも娘も嬉しそうに酒を飲んだ。

「そうだ、なまえ。こいつが鷹の目だ」

シャンクスはすぐ傍に立っているミホークの方を見ながら娘に紹介した。その会話はミホークの耳に届いていたが、それでも彼は顔を下げ、目を閉じたまま、ジッと動かなかった。

「あぁ! 鷹の目のミホークさんですか! 本当に写真の通りの大きな刀!」

なぜそうも声を上げるのか、ミホークは不審に思って顔を上げた。すると目を輝かせた娘と目が合う。

「鷹の目、こいつはなまえだ。ほら覚えているだろ? 前に話した娘だ」

やはりな、とミホークは頷く。

「なまえは刀使いでな。世界一の大剣豪であらせられる鷹の目、お前に憧れているんだとよ」

わざと茶化すように言うシャンクスの方を一別してミホークはなまえを見た。

「はい。とても尊敬しています。まだまだ未熟なのですが、目標は高く、ミホークさんを倒すことです」

スッと立ち上がった娘は深々と頭を下げて、「どうぞ今後ともよろしくお願いします」と礼儀正しく言った。腰に差している刀が揺れる。

その様子にミホークの目が鋭く細まる。その独特の金色の瞳が辺りを見回して、部屋の隅にあった太めの木の棒を見つけ出した。ミホークは躊躇することなく、その棒を手に持ち、構えて見せた。

「は? ちょっとそれは勘弁しろ」

いや、別に今倒すとか言ってないだろう! と見かねたシャンクスが止めようと声を上げる。…………だが。

「いざ!」

ミホークのその様子を見たなまえがやる気満々に腰に下げていた刀に手をかけ、同じように構えた。止めろって! と声を上げるシャンクスに返事を返すこともなく、二人は剣先を互いに向け、ジッと睨み合う。

「おぉ! やるかー!?」

突然の決闘モードに周囲の船員も盛り上がりを見せ、やれー! やれー! と野次を飛ばす。刀を構えたまま互いに一歩も動こうとしない二人。そんな二人の空気に飛んでいた野次もいつの間にか静まり、あれほどうるさかった宴会会場はシン――と静まり返っていた。そこにいる誰もがいつ始まるのかと息を飲んで見守る。

睨み合ったままピクリともしない、その状態が二分程続いた。それを破ったのはなまえだった。ジリ――左足に力が入り、一気になまえが飛び出した。

それに対してミホークは一歩も動くことなく、刀に手をかけたままただジッとなまえを待ちかまえていた。その次の瞬間、一瞬で勝負はもうついていた。

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「え?」

呆然としている船員を背になまえはやってやったと声をあげる。ミホークは顔をしかめていた。衝撃的なシーンを見てしまったシャンクスは呆然としていたが、すぐになまえに駆け寄った。

「なまえ!」
「シャンクスさんやったよ! ミホークさんから一本取った!」

なまえは嬉しそうに自分の戦果を話す。なまえの手にはいつの間にか刀ではなく、おもちゃのハンマーが握られていた。なまえが嬉しそうに自分の手の平を叩くとピコピコとかわいらしい音がする。シャンクスは嬉しそうにはしゃぐなまえから目線を外し、未だ動かないミホークに目を向ける。ミホークは見事に止まっていた。

「お、おい。鷹の目???」

様子がおかしいのでシャンクスが声をかけるがミホークは反応しなかった。

「あれ……ミホークさん?」

ようやくその状況に気づいたなまえがミホークに駆け寄る。下から顔をのぞき込むとミホークとばっちり目があった。なまえがピースサインを出しながら、満面の笑みで言った。

「ミホークさん。油断しましたね! 今回は私の勝ちですよ」

なまえがニシシシッと笑った。

「フッ」

ミホークも笑った。

「あ、笑った!」

今度は周囲がざわつく。鷹の目が笑った、と。

「まさか酔っぱらいの女に負けるとはな」
「すみません。おもちゃなんか出したから遠慮されたんですよねきっと?」
「……まぁ。だが、勝負は勝負だ。思っていたよりも腕はいいようだ」
「本当ですか!」
「あぁ」

なまえとミホークの会話が弾む。

「おいおいおいおいおい」

シャンクスが額に皺を寄せながら一人呟くように言う。後ろにいたベックマンが前に足を進めてシャンクスの隣に並んだ。

「……奴のあんな笑顔初めて見たな」
「あぁ」

「ゾッとする」

同感だともベックマンも頷いた。…………これはやばいな。会わせるべきではなかった。今更ながらシャンクスは後悔していた。ミホークがなまえに興味をもってしまったのだ。

目の前では先ほどと変わらず、なまえとミホークが楽しげに会話をしている。シャンクスは頭を抱えた。

「あ~やっちまった」

なんでこう、なまえは……

「シャンクスさん~!! 私、疲れた~! 眠いから部屋に戻るね~!」

腕をぶんぶん振る仕草にシャンクスがまた頭を抱えた。あー……なんでこんなにも可愛いんだよ。卑怯なくらい可愛い。

「あー分かった!! お前酔ってるから俺がついてくよ」
「え~? いいよ~。ミホークさんが帰るついでに送ってくれるから~」
「え? ちょっ!!」
「じゃあみんな、おやすみ~」
「なまえちゃんおやすみ~」
「早く寝ろよ~」
「風邪引くなよ~」

なまえはシャンクスを置いて、ミホークといっしょに部屋から出ていった。甲板に出ると、火照った体に風が当たってとても心地が良い。なまえが甲板の中央まで歩くと、ミホークもそれに続いた。

「ミホークさん、船は?」
「すぐ横につけてある」
「あぁ、そうなんですね。今日はもう帰っちゃうんですか?」
「うるさいのは好きじゃない」
「え~楽しいのに」
「……まぁ、今日は例外だったな」
「え? どうしてですか?」
「…………」

ミホークは答えることなく、なまえの隣に並んだ。

「ミホークさん?」
「…………」
「どうしたんですか?」
「…………」

なまえは隣に並ぶ大きな体を見上げる。

遠くから見たら細くてそんなに筋肉がないように見えたけど、やっぱり近づいて見てみたら凄いな。これだけ大きな刀を使っているんだから当たり前なんだろうけど。あと、周りの人が大きすぎるから低く見えていたけど、意外と背が高いんだなぁ。

「部屋はどこだ」
「あ、そうか。送ってもらうんだった」

ハッ、と思い出したようにそう言うと、なまえは再び歩き出した。

「ここです」

扉の前に立つと、わざわざありがとうございましたとお辞儀をする。すると、ミホークは扉を開けて中に入っていった。

「へ? ちょっミホークさん!」
「なんだ?」
「男の人は立ち入り禁止ですよ!」
「なぜだ?」
「ん~なぜ……なぜでしょう?」

なまえは首を傾げた。シャンクスさんが言ってたと言うと、ミホークはならいいと言う。ベット脇に立ち、なまえを布団に押し込む。

「え~いいのかな? 知らないですよ?」
「いいからベッドに入れ、寝るまで見張る」
「ん~番犬さんみたいですね。あ、鷹だから番鳥ですか?」

なまえはすっぽりと布団に潜り込むとふふふと上機嫌に笑う。

「もう寝ろ」

はーいと返事を返したなまえは天井を見つめながら言う。

「ミホークさん。また遊びに来てくれますか?」
「……どうだろうな」
「私はまたお会いしたいです」
「…………そうか。ならば、気が向いたらくるかもしれん」
「やった! 約束ですよ? ミホークさんは私の憧れなんです。いつか倒すんです。だから、たまには勝負しにきて下さいね」
「考えておく。早く寝ろ」
「はい……」

ミホークの返事を聞くと、なまえは安心したようですぐに眠りについてしまった。部屋にあるのは規則正しい寝息の音と安らかに眠る娘を見つける一人の男。男は娘の頬を撫でるとゆっくりと立ち上がった。

「……ん?」

コートが引っ張られている? 不審に思いミホークが振り向くと、なまえの右手がしっかりとコートの裾を握りしめていた。

「まったく……」

ミホークはコートから起こさないように慎重に手を外し、羽織っていたそのコートをなまえにかけ、部屋から出ていった。

「……女を愛おしいと思ったのは初めてだな」

闇夜に消える間際、漆黒の剣士はとても優しい笑みを浮かべて「また来る」と誰に言うわけでもなくそう言ったのだった。

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(Plan:Christmas)
141224 End.
150216 修正
170128再修正 End.

Afterword

やっぱりミホークさんが一番好きです(*^^*)

 

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