世間じゃ彼らは馬が合わないからやり合うなんて言われているけれど、実はそうじゃなくて、ミホークさんとシャンクスさんはとても仲がよい。お互いをよく知った仲だからこそ、敢えて剣を交え、お互いを高めあっていただけなのだ。
「お! なまえ!」
ガヤガヤとごった返した甲板の一角。大きな輪の中に入ってグラスを口に運んでいたら、「飲んでいるかい?」と顔を真っ赤に染めたこの船の船長が陽気に声をかけてきた。綺麗な赤髪がサラサラと揺れている。
にっこりと口元を緩ませながら「もちろん!」と声を張り上げたら、その返答を聞いて満足そうに笑ったシャンクスさんがどすんと隣に座る。相変わらず豪快な人だ。足を内側に折って引き寄せながらあぐらをかいていく彼を流し見つつ、中途半端に残っていたグラスの酒をあおって飲みきった。
よくよく見てみればシャンクスさんのグラスももう空だ。
「シャンクスさんまだ飲みますよね?」
ん? と小首を傾げるその両目はとろんと垂れ下がっている。もうすでに結構飲んでいるみたいだけど、シャンクスさんはここからが強い。もう十分でしょう! とお酒を取り上げようものなら、駄々をこね出して逆に大変。もちろんすでに経験済みだから言えることだった。
「ちょうど空になったので取ってきますよ」
「あ~~! そりゃあいい。じゃあ俺は……ウォッカ!」
「はいはい」
「「はい」は一回でいいぞ~」と至極幸せそうに笑う様子を見ていたらこっちまで幸せになってくる。よっこいしょと口に出してしまわないように気をつけながら腰を上げて辺りを見回す。こういうときの酒の管理は大抵ベックマンさんがやっているから……とお目当ての人を捜した。
見つけるやいなや、「なんでもかんでも飲んで潰れてやからす馬鹿ばっかりだ」と小言を言う彼から酒を受け取る。「ははは」と乾いた笑みを返しながらも、その苦労性には同情する。シャンクスさん豪快すぎるから何かと大変そう。
「たまにはベックマンさんもハメ外してくださいよ」
「俺がそんなことしたらこの船は沈む」
「え!!?」
「…………冗談だ」
ニヒルな笑みに頬がひきつる。真顔でそんなこと言われたら冗談に聞こえないんですけど。本当のところはどうなんですか。…………恐くて聞かないけど。
「ん? 二人分ってことは鷹の目と……いや、ウォッカならお頭か」
「はい。今はシャンクスさんのお相手中です」
「そうか。世話をかけるな」
「いえいえ。たまにですから」
「…………毎日してくれてもいいんだが?」
「…………勘弁してください」
今度は柔らかな二度目の笑みにちょっと照れる。ギャップのせいだろうか。ベックマンさんの普段の顔は恐いけど笑うとちょっと可愛いから。
「じゃあそろそろ戻ります」
「あぁ」
二本目のたばこを口にくわえながら軽く手を振ってくれるベックマンさんに背を向けた。「お頭ばっかり相手してんなよ」とお節介にも甚だしい言葉を背に受けてひとりで苦笑い。
それはきっとあの人のことを言っているのだろうな。
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戻った先にいた赤い髪の人はちょっとばかし休憩と船縁に背中を預けて「ガ―ガ―」と寝息をたてていた。こんな人が四皇って本当なのだろうか。ここ数年仲良くしてもらっているけれど、未だに信じられない。
もらってきたウォッカ入りのグラスをシャンクスさんの隣に置いて、自分も少し休憩しようと隣に座った。なんせかれこれ5時間はこうして飲んでいるんだから、疲れない方がどうかしている。
ふぅ~~と息を吐き出して両肩を下ろす。手に持っていたグラスを口に運ぼうとしたときだった。
「ここに居たのか」
目に映ったのはその人のブ―ツだけだったけれど、誰だかすぐに分かった。「あぁ、ミホークさん」といつものように彼の名を呼んだ。
「この男は相変わらずだな」
“この男”とはミホークさんの親友のシャンクスさんのことだろうと顔を上げる。シャンクスさんの方を見ていたミホークさんが私の視線に気づくと顔を向けてくる。
「目の届かないところにいくな」
「え~~別にいいじゃないですか。ここは安全圏内でしょう?」
目を細めて下唇をほんの少し噛む。私の不満げな顔を見て彼も不満そうに唇を結んだ。
「どこが安全だ」
そう言ったミホークさんはその場にしゃがみ込んだ。そして、シャンクスさんのために、と取ってきて隣に置いていた彼のグラスを掴んで、それをいっきに飲み干したのだ。
「あ! それウォッカ!!」という私の警告も無視して。ウォッカのちゃんぽんには弱いと本人だって知っているというのに。
「ちょ……!! 何やっているんですか!」
こんな大きな人を連れて帰るなんてこと私にできるわけがない。今日はもうお泊まり確定。あぁもう……ほら言わんこっちゃない。案の上、お酒にはほとんど酔わない体質のミホークさんも、ほんのりと頬を赤く染めて、その場に座り込んでしまった。
「せめてこっちに背中を預けて下さいよ」
ずるずると巨体をひっぱってどうにかシャンクスさんの隣にミホークさんを納めた。……と、そうこうしているうちに、シャンクスさんが回復したらしい。「う~ん」と両腕を上げて伸びを一回。こきこきと肩を鳴らし、ぐるぐる回して「よく寝た~」と上機嫌に言った。
片方が片づいたと思ったら今度はこっちね。今日はせわしない日だ。
「……んん? なんで鷹の目がここに?」
「えぇ~~っと、それはですね」
説明するほどのこともなかったから「なんか成り行きで……」としか言葉が出てこず。それを聞いたシャンクスさんは興味なさげに「ふ~ん」と返した。ま、そんなもんか。
「……もしかして俺の酒こいつが飲んだ?」
「え~~あ~~はい。……実は」
「もう! なんだよ。せっかくなまえちゃんが入れてきてくれたっていうのにこいつはァ~~」
「まぁまぁ。また入れてきますから」
「えぇ。なんかごめんよ~」
「いえいえ! 今日ぐらいいいですから」
普段はシャンクスさんにはとてもよくしてもらっているんだし。これぐらいの恩返しはして当然というものだろう。……にしても、ミホークさんったら。
未だにグラスを持ったまま、心地よさそうに空を仰ぎ見ているミホークさんの手からグラスを抜き取ろうと掴む。ところが……、どういうわけか、彼が手を離そうとしてくれない。
「あの……ミホークさん。離してくれないとおかわりにいけないんですが、」
「俺は離す気はない」
「……いやいや。だからグラスないとお酒が」
「赤髪」
「ん、あ?」
「あまりなまえに構ってくれるな」
「ああ”?」
「なまえは俺が先に――「知んねェよ、んなこと。さっさと言わないお前が悪いんだろうが。体裁なんか気にしてる暇があればさっさと言えばいいだろ!」」
…………あれ、なんか喧嘩してる?
「…………あぁ分かった。……そうだな。そうする。そうしてやる」
なんか自棄になってない? ……ミホークさん?
かつてない程、機嫌悪そうに眉間に皺を寄せたミホークさんがシャンクスさんを睨みつける。シャンクスさんは「あぁもういっそそうしてしまえ」とたきつけるような台詞をいい、その場に立ち上がった。それを見たミホークさんも急に立ち上がって。なぜか、私まで立ち上がらせられた。
「え、あ、あの、急になんですか?」
「愛している」
「…………はい?」
正直、はじめはまた何か新しい遊びを始めたんだろうと思っていた。少し前にはやった”愛しているゲ―ム”かと。だからこの人は急にあのゲ―ムを始めたのか? 一体どうしたのだろうか、と詮索するような、警戒のまなざしでミホークさんを見ていた。
でもミホークさんはそんな私の視線に動じることなく、ただただ真っ直ぐ私を見ていた。
「ほほう。愛の告白って奴か」
「――――っ!!?」
ふいに背後から聞こえた声。びっくりして後ろを振り返るとそこにはベックマンさんがいて、にやにやと心底楽しそうな笑みで私とミホークさんのことを見てきた。つられて辺りを見回して、側にいたシャンクスさんまでもがにんまりと笑っているのを見てしまう。
「からかわれて……たり?」
「おいおい鷹の目がそんなことをする男に見えるかァ?」
シャンクスさんの合いの手がさすが親友と言うべきか……なんか恐いくらいに確信をついてくるんですけど。
「愛しているゲームじゃ……?」
「ははっ、あったなそういうゲーム!!」
豪快に笑った赤髪にミホークさんが、「あ、そうか」と何かに気がついたような顔をした。今度は何を言い出す気なのだろうか。ごくり、唾を飲み込む。
「これら先もずっと側にいてほしい。そういう意味の愛しているだ」
ほんのりと染まっている頬が酒のせいだと分かっていても、正面から見たミホークさんの顔は恥ずかしそうに照れているように見えて、カッと一瞬にして顔全体が燃え上がったのを感じた。衝動で両手が頬を覆うと先ほどまでとは比べものにならないくらいに頬が熱くなっていて。
なんだか急に恥ずかしくなってきた。その場に立っていることすら恥ずかしくて逃げだそうとしたら背後に立っていたベックマンさんに見事に通せんぼをされ、立ち往生。涙目で見上げたら、目をきらきらと輝かせたベックマンさんが、めちゃめちゃいい笑顔を向けてくる。思わず後ろに下がって振り返ると、同じくいい笑顔のシャンクスさんが肩をひっつかんで、体を無理矢理にミホークさんの前に近づけようとする。今はそれは困るからとあらがってみたけれど、動かず。観念して、しぶしぶ彼の前にじっと立った。
あぁもう穴、穴が欲しい! 今すぐ入りたい!!
「なまえ」
ぎゅ、と閉じていた目を開く。おそるおそる顔を上げると、ミホークさんがこつんと靴を鳴らした。一歩近づいた彼の顔が真ん前に来る。
「逃げまどう姿も愛らしい」
目の前の笑顔はきらきらしている。それを見たとたんなぜかふつふつと怒りが湧いてきてしまって。大の男がよって集ってなにをしてくれちゃってるんだ。
「こ……この! ミホークさんのサディスト!!」
きょとん――ミホークさんが目を点にしていた。今までそんな雑な言葉遣いをしたことのなかった私が”この!”なんて言葉を遣ったからだろう。もしかしたらこの後、怒られてしまうかもしれない。ミホークさんの驚いた顔を見てそう思った。でももう言ってしまったものは仕方が――
「クククッ――」
前の人も隣の人も後ろの人も。3人が3人、急にクツクツと笑い声を上げた。今度は私がきょとんとする番。怒るどころか笑い出した3人をくるりくるり見回した。
「あぁ、そういうところも可愛いな、なまえは」
「っ、」
あぁもう……どうしたってこの輪からは出られないに違いない。このサディスト達にかかったら何をしてももう――
「顔が真っ赤っか」
「放っておいてください!」
「なまえ?」
「ッ――!! お願いだからこっちに来ないで!!」
(((ほんともう……可愛いなこの娘は)))
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180108 End.
Afterword
二十万打hit企画「愛の言葉を語ろう」の最後のリクエストでした。
リクエストは、他の海賊(赤髪等)の前でほろ酔いな鷹に真剣に言われて周りにからかわれるでした。シャンクスの船上となるとどうしてもこの3人が絡んできてしまう変な癖が……笑
実際に3人を敵にまわしたら大変なことになりそう。こんなんじゃ済まないくらいに甘甘な台詞を畳みかけられて、へらへら楽しそうに笑う3人の叔父様の酒のつまみにされてしまいそうです。…………大変幸せな構図(*^^)ふふふ
ではでは。リクエストありがとうございました。またのご参加、お待ちしております!
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