なんだかよく分からないけれど、振られた気分だ。スモーカー中将は私にとって良き相談相手だった。あーだこーだ、いう癖に、最後はきちんと話を聞いて答えてくれる。頼りがいのある上司だった。
「…………寂しいよ、スモーカーさん」
用意された寮の部屋に入った後、窓を開けた。海が見えた。水平線に向かっていくつもの軍艦が進んでいく。あの中にG5の船はあるだろうか。――と、小窓脇に置かれている時計が目に入った。
「やば……準備しなきゃっ!」
明日からはさっそく本部での仕事が始まるのだ。
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仕事部屋は広かった。結構な大所帯で、各支部の事務官が集まるという話は本当だったんだと、疑っていたことをちょっぴり反省した。
大きく開かれたエントランスに立ち尽くす。吹き抜けのフロアには机が何十と置かれていた。うわァお!
私は先行のグループより、一足遅れての参加となった。馴染めるだろうか……一抹の不安はあったけれど、既にいるメンバーの中にはちらほら同期や顔見知りの人達がいて、ほっとした。目が合うと、軽く手を上げてくれたり、笑顔を返してくれる。……が、どの人の目の下にも隈があったので、みんな急な配置換えでてんてこ舞いのようだ。どこかしらからブルブルブルと電伝虫がなると、「それさっき言いましたよね!」やら「だーかーらー! 私はもうそっちにいないんですって!」やら……あぁ……ここにいる人達は同志だわ。そして、私も今からその中に入る……はぁ。スモーカー中将、応答拒否するからなぁ。
「今日からだったな」
声を掛けられてゆっくりと振り返る。
振り返ったところにいたのはモモンガ中将だった。少しはここに追いやった罪悪感があるのだろうか。彼のようなお忙しい人がこんなところに来るなんて。
「おはようございます。中将とあろうお方がこんなところに居てよいのでしょうか」
「ふむ……ここは私の管轄になっている。大元の上司は各支部の中将だが、本部内での行動については私が上司として見ている」
「へぇ……」
「部下が逃げ出していないか、見張るのも上司の務めだろう?」
うぐ、喉を詰まらせる。それは一体いつのことでしょうか。遠慮のない睨みから視線を、首を大きく逸らして回避する。
「なぁに、気にするな。少し前に部下に逃げられた経験があるのだ。その教訓を生かしている」
「…………はははっ、それはそれは。流石はモモンガ中将ですね、上司の鏡であります」
ぐりぐりぐり、傷口を抉られた気分だ。G5で喧嘩にはすっかり慣れたけど、こういう腹の探り合いは苦手だ。いっそ殴りかかってくれたらいいのに……。
ずるり、肩から鞄の紐がずり落ちる。両脇にも荷物を抱えていたので、一旦下に降ろすか……。腰を折ろうとしたら、両脇の荷物を盗られた。
「なっ、ちょっ……!」
「案内する。付いてこい」
「…………はい」
正直、結構な大荷物だったので、助かった。本当はお礼を言うところだと分かっているのに言えないのは、私が意地っ張りだからなのか。肩掛けのショルダーをかけ直す。皮の紐を握りしめる手の平が手汗でじっとりと湿っていた。
案内された机に荷物を置いたモモンガ中将。机には電伝虫が一つだけ置かれていた。
「これは本部の事務官に繋がる。内便は朝昼夕あるので、封筒に宛先を書いて書類を回すように。自分の足で届けてもいいが」
「分かりました」
書類にすぐに目を通して貰えるのは助かる。G5は特に何かと申請が多い。船の破損は多いし、賞金首を狩りまくるし、兎に角、破天荒。
――と、ふぅ~~長息を吐き出したモモンガ中将が言った。
「話がある。今日の予定は空いているか」
「……少々お待ちください」
胸ポケットに入れていたTODOリストを取り出す。今日はやることが満載だ。
「……えぇと、午前中は各部署への挨拶回りがあります。午後は、初日の海兵に向けた説明がありまして、……すみません。明日でありましたら……」
「そうではない。個人的な話だ。仕事が終わった後、時間は空いているか」
「……え? えぇ――?」

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