第17話:君が消えると分かっていたら余所見なんてしなかった

「俺の方こそ……すまなかった」

そう言う彼の顔はあの時の、記憶の中のまま。今も、ずっと懺悔し続けているのだと思うと、一刻も早く、彼を解放してあげなければと思った。口を開こうとしたとき、彼が続けて言った。

「稚拙なことをした。俺は……分かっていなかったのだと、後になって気付いた」

何を分かっていなかったのですか、そう問う暇もなかった。

「愛するということがどういうことか、分かっていなかった。守ればいいのだと思っていた。相手にも感情があり、考えがある。そのことを考えていなかった。…………押しつけてすまなかった」

静かに語られた言葉は私の胸の隙間に滑り込んできた。ずっと埋まらなかった、空いたままの穴の中に入り、じんわりと染みこんでいく。……そこで私は理解した。どうして、モモンガ中将があんなことをしたのか。彼が、私にどうして、あんな言葉を言ったのか。

「っ、」

貴方は、私のことを本当に……大切に思ってくれていたのですね。それを私は……勝手に憎んで、心を閉ざして、貴方のことを軽蔑してしまっていた。

「…………回り道をしてしまったが、今なら聞いてくれるだろうか。なまえ、俺の大切な人になってくれないか」

息を呑むほどに、その瞬間は、私の人生の中で最も衝撃的なことだった。目が霞む。ドッと涙が溢れ出した。

「――はい」

願っていたのは、ずっと欲しいと思っていたのは貴方の心でした。どんなに傷つけられようとも、それは変わらなかった。私はモモンガ中将のことが好きだった。だから、だからこそ、ずっと苦しかったのだ。

「…………絶対に、幸せにする」
「……はい」

手の甲に、手の平を重ねられて、見つめ合う。はにかんだ中将が、そっと指に口付けた。

「では、明日は……この指に似合う、指輪を買いに行こう」
「えっ!?」

そこは、左手の薬指。

「指輪はなまえの好きなデザインの物を一緒に選ぼう。君の話を聞きながらゆっくりと」
「……っ、はいっ」

今まで話せなかった分、互いに互いの想いを蔑ろにしていた分を取り戻すように、その夜の私たちはひたすらに互いのことを尋ね合った。

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翌日、二人して有休休暇を取った。二人とも忙しい身だったから、代わりを見つけるのに苦労するかと思ったら、スモーカーさんも、モモンガ中将の部下も、珍しいこともあるものだと、二つ返事で快諾してくれたのだった。それどころか、数日のお休みを頂いてしまった。これには二人とも驚いた。

本部にあるジュエリーショップだと種類に限りがある、連日の休みがあるのなら……と、二人して外海にお出かけすることになった。

まさか、こんなにも早くお出かけすることになろうとは……誰が思おうか。……全く、思っていませんでした。

「っ、服……服がない!」

ずっとG5に身を置いていて、本部に来てからも休みらしい休みを取ったことがなかった。いる間はもうずっと制服だったので、人前に出られるような私服がなかった。……流石に、制服で行くのは駄目だよね……。あぁ……もう、どうしよう。そんなとき、小包が届いた。たしぎからだった。

『以前話していた古着です。なまえさんのことだから、ちゃんとした服を持っていないでしょう? 私もそうだったので、時々ヒナさんから頂いていました。綺麗そうなものを見繕っているので、良かったら使って下さい。お礼は、今度会ったときの昼食代ということで ――たしぎより』

「なななな! ナイスぅ! たしぎちゃんんん!!」

危機を脱した私は大急ぎで荷物まとめに取りかかったのだった。

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慣れないサンダルだったので、思っていたよりも時間がかかってしまった。

「お待たせを!」

はぁ……はぁ……息を切らして船着き場に駆け込む。

「いや、まだ時間はある」
「あ~良かったァ…………」

時計を見る暇もなかったから、間に合って本当に良かった。

「荷物はそれだけか?」
「え……えぇ、はい」
「その格好だと、持てないだろう。俺が持つ」
「あ……、どう……も……」

スモーカーさんのところで、そういう扱いに慣れていたので、こういうときは遠慮なく持ってもらうものなんだという認識は出来ていた。だから、特に深く考えずに、息を整えた後に、顔を上げた。

モモンガ中将が、私服……、って、そりゃそうだ。私だって私服なんだから……!

正義を着ていないモモンガ中将の事を見たのは、これが初めてだった。白のチノパンに紫のTシャツ。首にはゴールドのネックレス。え、ちょっと待って……! 想像以上にはっちゃけているタイプなの……? ……確かに、普段から縦縞スーツという、個性溢れる服装だったけど.……まさか、こんなにお洒落な人だったとは。……危なかったァ――たしぎに譲って貰った服がなかったらとんでもないことになっていた……。

背負っていたリュックを手渡す。

「スカートを穿くとは……よく似合っているな」
「あ、どうも……」

元々、ヒナさんが好んで来ていたものらしいので、大人の女性向けの服が多く、その中でもまだシンプルで無難なものを選んだのだったのだけれど……。気に入らなかったのかな……、なんかちょっと意味深な感じ。

「少し……短くないか?」
「え? そうでしょうか。膝上なので、こんなものかと……?」
「……そうか。いや、いかんな。あれこれ言ってすまない」
「いえ、大丈夫ですよ……?」

首を傾げていたら時間が来たらしい。「お客様~! 乗船をお願いしまぁ~す!」定期船の船長が声を張り上げた。

「行くか」
「はい!」

桟橋から船に乗るところは、普段なら軽々飛び乗るところ……でも、今日は慣れないサンダルなので我慢する。辿々しい足取りの私に手を差し伸べてくださった中将のご厚意に甘えて、手を引いてもらい、無事に乗船を果たした私たちは、晴れ晴れとした青空の下、二人で笑い合った。

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241028 End.

Afterword

思っていた以上に、取り合いのお話になってしまった……! スモやん好きの皆様には大変に悪いことをしたと思っております、ごめんなさい! どっかでまたちゃんとスモやんのお話書きます……!

恋愛って、どうやっても自己中なところが生まれには仕方がないのですが、突き詰めると終わりがなく、「えぇ~もう~どうないしよう! 結末が分からんんん!!!」ってなりながら書いたので、話が二転三転してしまいました……違和感なければよいのですが……よいのですが……。

はぁーすっきりしたぁ~笑
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!

 

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