「何をやっている……」
差し込んだ影にヒィッと上がりそうになった悲鳴を堪えるようにして両手で口元を覆う。屈ませていた身をよりぎゅと縮込ませながらゆっくりと振り返った。
「……あ、中将……」
ほぅと息が漏れた。変わらず仏頂面でこちらを見ている中将。いつもなら後ずさりしてしまうのだけれど、今日は少し違っていた。すっかり緊張の解れた身体で中将に向かい合う。無言の中将と目が合い、それで? と小さく首を傾げる素振りをされて、おずおずと口を開いた。
「ク……ザンさんに追われておりまして……」
「まだやっていたのか、」
「……はは、……ハイ」
まったく、と呆れた声を上げた中将が両腕を組んで目を細めた。
「……今度はなんと?」
「えぇ、まぁ……その、先日飲みに行ったじゃないですか。あれから催促が酷くてですね……」
ほう、と今一度目を細めると中将は首を大きく動かした。話は歩きながらするぞ、というようにして身体の向きを変える。それに応えるように足を踏み出すと、中将の歩みも進み出した。私の話に耳を傾けながら本日の目的地へ行くために歩いていく中将の後ろに続き、ちらりちらりとこちらの様子を伺うようにして向けられた横顔に向かって言った。
「……どうも先日は二人きりではなく、中将が同伴したのが嫌だったらしく、再度、今度は二人きりで、と……」
数秒の間が開いた。つい先ほどまでは素っ気ないような素振りをしていたのに。急に中将が立ち止まったのだ。あれ? と首を傾げ、こちらも同じく立ち止まる。ゆっくりと振り返った中将が言った。
「……それはやめておけ」
「はい? ……なんでですか?」
「お前のためだ。……やめておけ」
「え、それ……どういう……」
「俺から言えることはそれだけだ」
「ちょっ!?」
もう着くぞ、と再度振り返り歩きだした背中を慌てて追う。先ほどよりも足取りが速くなった気がするのだけど、気のせいだろうか。
着いたところは練習用の海岸だった。すでに待機していた中将の部下達が私たち2人の姿を捕らえ、すぐに整列した。
「「おはようございます、モモンガ中将!」」
いつも思うけど、この人たち一体いつからここにいるのだろうか。あと、朝からなんでそんなに大声を出せるのだろうか。戦闘員ではない私からしたらそれは想像のできないものだった。……ていうか、私戦闘員じゃないのになんでここに呼ばれたのだろうか。
今日のスケジュールが発表され、訓練内容が言い渡される。部隊でも上位に存在するものを集めた朝のミーティングも終わり、訓練の時間となるまで、私はジッと立ったまま海を見ていた。決してぼうっとしていたわけじゃないよ? ちゃぁんと聞いてました。……一応。
「なまえ」
「はい!」
「今日はお前にも参加してもらう」
「…………はい?」
「本来の訓練場所は甲板になるが、初めからそっちに行くのは難しいだろう。まずは浜辺に設置しているものを使って行い、慣れてから甲板で行う。……いいな?」
「…………え、中将?」
どうしよ、中将の言っていることがまったく頭の中に入ってこないんだけど。あれ、私いつの間に戦闘員に鞍替えしたの? あれ、私そんな書類に判押しちゃった感じ? あれ、あれれ???
「なまえ!! 聞いているのか?」
中将の大声は珍しい。ハッと我に返って視線を向けると、眉間に皺を寄せた中将が聞いているのか! と今にも掴みかかってきそうな形相でこちらを睨んでいた。思わず後ずさりする。
「……聞いています」
消え入りそうな声で返事を返す。
「なら行くぞ」
「…………はい」
私、どうなるんだろ。
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そこは訓練用の砂浜の一角。まず、砂浜に突き出すようにして大きく枝を出している大木が目に映った。その下にはなぜかクッション。そして、その突き出した大木の枝は縄によってぐるぐる巻きにされていた。ゆっくりとその先を辿っていくと、枝の真下に縄が垂らされており、風によってそれはゆらゆらと揺れていた。
……え、と? これって、あれじゃない? あれ、だよね。え、ですよね。中将?
無言のまま、なんの説明も貰えなかったのでゆっくりと隣に立つ人に顔を向けた。それに気づき、こちらを見た中将と目が合う。そして、中将はゆっくりと頷いた。
え、あれをやれってこと? ……別に私はいいんだけど、だけどさ。これ本当にやる意味あるのかな。そうは思っていたけれど、反抗する理由も特になかったので、素直に頷いて縄に向かって足を進めた。手に取った縄は太く頑丈で先の方が固く結ばれており、まさに……という感じだった。
これ作ったの中将かな? なんて思いながら、子供の頃を思い出す。小さい頃は近所の友達と一緒によくやっていたよなぁ。う、ぅぅん。喉の調子を確かめる。
「中将、そこいたら危ないですよ?」
「何を言って……」
「あ、あぁぁあああ~~~~~~~~!!!」
「おいぃっ!?」
え、だって。綱持ったらターザンはお約束でしょ?

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