「なまえさん、聞きましたよ! マストの緊急避難の練習でターザンやったって本当ですか!?」
あぁ、……頭痛が……
目を爛々と輝かせて真相はどうなんですか!? と詰め寄ってくるコビーとヘルメッポ。とっても可愛い後輩なんだけれど……、こういう話題が沸いたら確かめずにはいられない子達なのだった。端から見ている分には問題ないんだけど、いざ自分がその好奇心の対象になってしまったら……、面倒で仕方がなかった。
「あーはいはい、そうです。まさかあれが避難用の練習だとは夢にも思わず、自分にかせられた試練だと思って全力で挑みましたとも。……で? それが何か?」
ジトーーッとした目を向けると、「あ、」と気まずさを感じたのか、コビーがあはは、と笑いながら頭を掻いて言った。
「すみません。怒らせてしまいましたか?」
「……これが怒っていないように見える?」
「「……見えないです」」
「だよね~」
にこりと悪意を込めた目で見つめ返せば、そ、それでは! としっぽを巻いて逃げていく2人。その後ろ姿を見つめる。
「あれが、そんなに噂になっているのか?」
「……はい、それはもう、……毎日からかわれますからね」
「自業自得だろう」
カチャンとトレーの上にスプーンを置いた中将が苦笑いを浮かべながらこちらを見る。残り1口だから、とスプーンでかき集めたオムライスを口に運んで、もぐもぐと口を動かしながら視線を泳がせた。
「……でももう少し説明してくれても、」
「いいや、お前は俺が説明をする前に勝手に行動しただろう?」
「だって中将うなづいたじゃないですか~!」
「あれは今から説明する、という合図だ」
「え、えぇーー……」
返す言葉が見つからなかった。体を先に動かすんじゃない、頭を先に動かせと言われてしまえば、「はい……」と頭を垂れて反省するしかなかった。「前々から言っているが、もっと人の話をちゃんと聞くようにしろ」昼休憩に入ってまでもそうガミガミ言われちゃたまったもんじゃない。中将に見えないように口を尖らせる。……でも、今回は中将が珍しく、昼ご飯のお誘いを受けてくれて嬉しかったから、良いことと悪いこと……両方を合わせて、プラスマイナスゼロ、だな。やっぱり食堂だと来やすいのかな。なぁんて、頭の中はもう別のことを考えていた。中将のお説教がひと段落したところで手を伸ばす。
さてさて最後にデザートだ。
トレーに乗った存在感のある一本を片手に取る。ぶつぶつと文句を言いつつ、その手にあるものに視線を向けた中将が呆れながら言った。
「どうしてデザートがバナナなんだ。ケーキやアイスもあっただろう。そんなに好きなのか?」
「え? いえ、別に普通ですよ」
「では、なぜ?」
「ん~、クザンさんに練習しろって言われたから?」
「練習? 何のだ?」
「……さぁ?」
手に取ったバナナの皮を一枚ずつ向いていく。いい感じに熟れていたようで甘い香りが鼻先を刺激した。いい香り。なんとなく、再度「いただきまぁす」と声を出してそれを口に含んだ。歯を立てないように、器用に舌と唇だけでバナナをひと口ひと口、口に入れていく。
「モモンガ中将、少し話があるんだが……」
「ん、あぁ。スモーカー中将か、」
中将の後ろには両腕を組み、仁王立ちしている厳つい男の人がいた。げ、と内心思ったけれど、それを表情に出すことなく、ぱちぱちと瞬きながらその人を見た。
「おい、そこのお前。卑猥な食べ方するんじゃねぇ」
「……ひ、わい?」
ん? と首を傾げて見れば、いつも、どこを見ているのかよく分からないなぁと思って見ていたあの目で睨み付けられる。今だけはこっちを見ているというのがはっきりと分かった。決して自意識過剰ではない。う、と息を詰まらせる。相変わらず葉巻の独特の香りのインパクトがすごい。すっかり気押されしてしまい、助けを求めるようにスモーカー中将の隣にいたモモンガ中将に目を向けると同じく睨まれてしまった。そんなぁ、と弱々しい視線を送る。
「……で? なまえ、誰に教わった?」
ヒッ!! ……お、恐ろしい。こちらの弱りきった様子にぶれる様子がない。どう見たって、厳つかさから言えばスモーカー中将の方が頭一つ抜けているのに、中将の声で低く、淡々と言われるだけでスモーカー中将のそれを抜いてしまう。そう感じてしまうのは私だけかもしれないけれど……、とにかく、中将を怒らせてはだめだ。後がとんでもなく怖い。……ここは素直にいこう。うん、と小さく頷く。
「……えと、クザンさんが、きっとこれから先必要になるだろうからって。この前一緒に昼食に行ったときに、あぁだ、こうだって、みっちり教わりました……」
「……目的は理解しているのか?」
「……目的、……目的? これって、そんな目的とかがあるようなことだったんですか!? クザンさん、にやにや笑いながら言ってたから半分冗談だと思っていたんですけど。……もしかして、本格的に練習した方がいい感じですか?」
私はどうしたら……? 真剣に悩み始めた目の前の部下の様子にため息が出そうになる。お前はいくつだ、と問い詰めたくもなる。あぁ、やめろ……バナナを咥えたままこっちを見るな。
「普通に噛み切れよ、食べ物で遊ぶな」
「……確かに、言われてみればスモーカー中将の言うとおりですね。食べ物で遊ぶのはよくないです。じゃあ噛み切っちゃいますね」
「「……」」
「なんでお二人ともそんなに悲しそうな顔をするんですか?」
「いや、なんか……そう言われるとなんとも言えない気持ちになる」
「それ、どういう意味ですか?」
こてん、と首を傾げたなまえを一別し、気まずさから視線を横にズラす。隣に立つスモーカー中将と目が合えば、さらになんともいえない気持ちになった。
「中将?」
「…………」
取りあえず、話題を変えるか。一度目を瞑り、頭を切り替える。ここ最近よく話題に出てくるラーメン屋の話でもしてやるか。数秒後、花が咲いたようにパァアアアッと笑顔になったなまえとそれに安堵する中将と呆れたようにその2人を見つめて、すっかり当初の目的を忘れてしまっているもう一人の中将があぁだ、こうだと思い思いのラーメン屋の名前を挙げていくのだった。

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