受話器を取って、数秒。すごい大声でなまえか!? と名前を呼ばれた。ハハッと笑うと電話の向こうの彼がとても優しい声色で「なまえ」と言った。あぁ、懐かしい。とても懐かしい声だ。目を閉じてその声に耳を寄せる。何度も何度も囁かれる愛の言葉に苦笑してしまう。とても嬉しかった。
どうやらシャンクスは足を怪我しているらしい。この海域にいられる時間も限られているらしい。だから代わりにベックマンが来て、これを渡してくれたんだそうだ。そっか、と小さく返した言葉。それでなァ……としばらくたわいのない会話をしたあと、シャンクスは俺の元へ来いと言った。
「…………まだはっきりとは返事できないんだけど、でも」
「…………でも?」
「前向きに考えてみるよ」
「…………それでいい。それで十分さ」
「…………シャンクス」
「ん?」
「ありがと」
「いいってことよ、じゃ、また連絡する」
「うん、じゃあね」
受話器を置いて、目を閉じる。ふぅと息を吐き出しながらゆっくりと目を開いた。
「……ベックマン」
「…………なんだ」
「副船長ってほんと損な役回りだよね」
「……あぁ、まったく」
「ベックマン、」
「…………」
「ありがと」
「…………あァ」
電話の向こうの柔らかな笑い声を聞きながら盗み見た机の向こうの彼の横顔はとても苦しそうで。それでも。そんな想いをすると分かっていても、シャンクスのため、私のためにここまでこうして来てくれた彼の優しさにじん、と胸が痛んだ。
電話中にひしひしと感じていた彼の哀の空気は、顔を合わせた途端に消え失せていて、受話器を置いた後だけしか見ていなかったら分からなかった。彼はあの一瞬でその感情を私に見せないように、と消し去ってくれたんだと思う。背負わせないように、と。
…………なら私は、
「……どういうつもりだ」
机の向こう、彼の隣に寄り添って、今夜だけは貴方のものになろうと、そう想った。ねぇ、ベックマン。私ね、貴方のそういう押し切れない優しいところがすごく好きなんだよ。
口では嫌だと言いながらも絡みつく腕を解こうとしないその様子に小さく笑う。そうして、いつの間にか煙草の消えていたその唇にそっと口付けた。
そう、今夜だけ。今夜だけは、私は貴方だけのものになる。
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